この手に掴んだ幸せを(ぬら孫) | ナノ

▽ 罪滅ぼし(兄side)

ある時、オレは声を聴いた。
その声はオレにこう囁いたんだ…
「妹に復讐したいか」…と。
そして、オレは返した…
「…オレに復讐する資格はない。だが、償いはしたい」…と。


すると、その人は答えたんだ。


「貴様に、ある男の体をやろう。
その男は…貴様の妹が慕っている教師なるものだ。」




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奴良組に奇襲攻撃をする前のことー

晴明の復活を待つ御門院らを横目に、オレはただ刀で素振りをしていた。慣れない体に馴染むため、刀を上手く扱うため…そして何も考えなくて済むように。
だが、突如内から声が聴こえたのだ。


《アレ…ここ何処だ…?
オレはいったい…どうしたんだ…?》

とても不思議な感覚だった。そして何故か…その声の主が例の教師のものだと分かる。


「…目が醒めたか、坂本さん」

《アンタ…誰だ…?》

「…オレは…奴良鯉菜の前世の兄だ。」

《…へぇー…アイツの…ねぇ。
それで…これはどういう状況だ?
ここはどこで、オレはどうなったんだ?
つぅか何があってこうなった?》


混乱状態に陥ってるのだろう。
一度にたくさんの質問をしてくる坂本さんに、今更ながら罪悪感が湧いてくる。


「お前は…深い意識の底にいる。
安倍晴明ってやつの術のおかげでな、オレの魂がお前の体に入ったんだ。
だが一つの体に魂は基本一つ。
だからお前の魂は死んだ…と思ってたんだがなぁ、まだギリギリ残ってたとは、驚いた。」

《…なるほどな。
何でこうなったかは分かった…だが、何の為にアンタはそんなことをするんだ。》


罪悪感を感じてる事をバレないように飄々として言うが…そんなオレを責めるでもなくただそう聞いてくる坂本さん。そんな坂本さんに…妹の姿が重なる。


「…妹に…殺される為だ」

《…何故だ?》

「…オレは…前世であいつを苦しめた。
だがあいつはオレを許したんだ…オレを責める言葉を全く吐くこともせず…距離は離れたものの、何事もなかったように普通に接してくれた。
けど…それが逆にオレは苦しかった…!
責めてくれた方が楽なのに…!
あいつは本当は心の奥底で…オレを恨んでんじゃねぇかって…!!
いっそのこと…殺してくれた方が助かるんだよ!!」


何をしたんだよ…と呆れ顔で言う坂本さんに、簡単にオレのやったことを説明すれば…最もな事を言われる。


《…それ…悪ぃがぶっちゃけアンタの自己満だろ》

「そんなの分かってる…
けど、約15年も…ずっと苦しめてたのに…
大した謝罪も、償いもできてねぇのに…あいつは先に死んだんだ!!
苦しめたオレがのおのおと生きてんのが…許せねぇんだよ!!
あいつの手で…オレは死ぬべきなんだよ!!」


ただ自分が楽になりたいだけ…
そう言われても仕方が無いが、でももうこの気持ちを抑えられなかった。


《………アイツはきっと…余計苦しむことになるぞ。
それでもアンタは…》

「……自分勝手なのは分かってる。
でももう引き返せねぇんだよ…あいつを傷付けたし、
お前ももう…もう直ぐ…」

《…やっぱ…駄目なのか。》

「…お前がまだ生きてる方が不思議なくらいだ。
実感してるんじゃねぇのか? 自分が消えていく様な感覚を…」


そう問えば、坂本さんはしばらく押し黙る。
だが直ぐに自嘲するように笑い、


《…あぁ、感じる。なぁ…ひと言いいか?》

「何だ?」

《お前、最低だな!!》

「…分かってる」


ハッキリとそう告げられる。
…アイツが坂本さんを慕うのも少し分かるかもな。この先生は裏表がないうえ、自分の事よりも他人の事を大切に思っている…。


《そんな最低で馬鹿なお前に、仕方ないからこのオレ様が協力してやる!!》

「…協力って…何するんだよ」

《ふん、アイツの為にやるんだからな!!
あんたの為じゃないんだからねっプンプン!!》

「………………。」


何を協力するのが分からないが…取り敢えずお礼を言う。協力って何をするつもりなんだと問うが、何度聞いても教えてくれない坂本さんの頑固さに…結局オレの方が折れたんだ。








そして今…



「…待たせたな」

《ったく…長々話し過ぎだっての! これじゃあオレのカッコイイ出番が短くなるだろう?》

「…悪ぃ…」

《…人様の身体を兄妹でボロボロにしやがって》

「…なぁ、坂本さん…」

《あん? 何だ、罪滅ぼしとか言ってオレを殺そうとするのか? 勘弁して下さいよ〜》

「ちげぇよ! …協力って何なんだ、いい加減教えてくれよ…冥土の土産にさ。」

《……おいおい。そんなの考えたら分かるだろ…オレは教師だぜ? 生徒の背を押すのは教師の役目だ!!》

「…ハハ…アハハハッ! アンタ本当に世話好きな先生だな!!
…まぁいいや。よろしく頼むぜ、先生。」

《シッシッ! いいからさっさと召されろ馬鹿兄貴。
もう血迷うんじゃねーぞ!》


散々いろんな人に迷惑かけて…ようやくオレは眠りにつくのだ。




(「行く先は…地獄か天国か…転生か。……天国はねぇか。」)




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