この手に掴んだ幸せを(ぬら孫) | ナノ

▽ 本当の気持ち(鯉伴side)

鬼妖怪や御門院らが奴良組に奇襲してくる中、オレは若菜やリクオの友達を木魚達磨と保護している。


「うわあっ!?」

「おっと、大丈夫かい?」

「あ、ありがとうございます…」


こちらにも襲いかかる鬼共を度々追い払い、帰ってきた親父達や鯉菜の戦いを見守る。
親父が若返ったことには驚いたが…それで奴良組の士気が上がったことに内心少しホッとする。
この調子で行けば大丈夫だろう。
ーだが、
オレの考えは甘かったようで、突如血を吐いて親父は倒れた。慌てて行こうとするも…若菜やリクオの友達に襲いかかる鬼に、この場を離れることが出来ない。


「くそっ! 早くしねぇと親父が…!!」


焦るオレの目に入ったのは、坂本先生の姿。
いや、今は鯉菜の前世の兄貴だ…
その兄貴が刀を振り上げる。
このままじゃ親父が殺られる…!!
そう肝が冷えた時ー


「がっ…!!」

『…………ぁ……れ……?』


兄貴の胸を見覚えのある刀が貫く。
地に倒れる兄貴の後ろに見えたのは…
呆然としている鯉菜がいた。

時が止まったように感じる。

兄だけをなんとか倒し、先生を救いたいと言っていた鯉菜が…先生の身体を刺したのだ。


『…に、兄さん……? …坂も…せんせ……?』


フラフラとした足取りで兄貴の元へ向かった鯉菜の顔が…更に真っ青になる。アイツが投げた刀は、ズレることなく心臓に命中していた。とどのつまり、親父を救おうとしてアイツは本気で…やつを殺そうとしたのだ。


『…おじいちゃ…!兄さん…!先生!!
…ぅっ……納豆ちゃんもっ…破壊蛙も……!!』


涙をぽろぽろと流しながら、皆の名を絞り出すようにして呼ぶ鯉菜…。納豆小僧や破壊蛙などの小妖怪が何故そこで出てくるのかと思ったが…鯉菜がやってきた方向にある一本の木を見て直ぐに分かった。
木…ということは、おそらく木と水を操る泰具の仕業だろう。


「ぐっ…ぅ…」

『…兄、さん!? 今…今治すから…!』

「触るな!! ゲホッ! …刀を…構えろっ!
立て! 奴良鯉菜!!」

『なっ…血が! このままじゃ…本当にっ!!』

「…お前のっ…兄として、最期の命令だ…!!
オレと…サシで勝負しろ!!」


そう言って、刀が刺さったままなのに立ち上がる兄貴。治そうとしてるのに…向こうが治させてくれないんじゃどうしようもない。
何故そこまでして戦いたいのか…。


『やだよ…やめてよ!
それにその身体は先生のものなんだよ!?』

「…坂本さんはもう…死んだんだよ!!…カハッ…この身体は今はもうオレの、…もんなんだ!!」


一刻を争う怪我なのに、震える身体に鞭打って刀を構える兄貴…対して鯉菜は嫌だと何度も首を振る。


『何度でもっ…何度でも謝るから!!
だからもう、それ以上動かないでよ…
先生の身体を返してよっっ!!
お願いだから…返して!!』

「じゃあオレを殺してくれよ!!」

『…なっ何言って…!?』

「オレのこと…恨んでるんだろ!? お前はオレに、恨みつらみを…直接言わなかったが、…本当はオレが…憎いんだろ!? 殺せよ!!」


ーああ、
…もしかすると…この兄貴は…


「お前…いっつもオレと話す時、目ぇ合わせなかったよな! 家族にバレてからも、お前はオレをずっと避けてただろ!! そうなるのも当たり前だよなぁ…あんな事されて…オレを恨んでねぇ筈がねぇよな!!」


鯉菜に…殺されることで償おうとしたのか?
でも、もしそうだとすると…兄を恨んでいないと言った鯉菜からしたらとんだ迷惑じゃねぇか。


『違っ…恨んでそんな態度とってたんじゃないよ!! 怖かったんだよ…家族にバラしたことで私を恨んでるんじゃって…!
実際にそうじゃない!! 人様の身体を使ってまで…私を殺そうとしてるじゃないの!!』

「そりゃ最初は恨んださ! だが…ゴホッ!!ぐっ…」

『兄さん…!!』


足から崩れ落ちる兄貴に慌てて駆け寄る鯉菜。
刀がちょうど傷口の栓になり、即死することがなかったが…もう限界かもしれない。


「…クソっ…本当は…お前に恨まれ…て、殺される予定だったんだがな…時間切れだ…」

『時間切れ…って…何よそれ…』

「…ごめんなぁ…こんな兄貴、で…。
お前を殺そうと…したが…、本当は…そんな気なかったんだぜ…? ゲホッ!
…お前の幸せを壊すっつったけど、…本当はな…幸せになって良かった…って思ったんだ…」

『…兄…さん?』

「オレが言え、…る台詞じゃねぇけど…今の家族は…良い人達そうだな…
少し変わってっけど…ハハッ」


周りが戦って騒がしいのに対し、静まり返ったこの空間の中…兄貴は自分の本当の気持ちを伝える。そして兄貴の口から吐き出される言葉に…鯉菜の目からはとめどなく涙が溢れる。


「…なぁ…オレはもう時間切れで消えるが、坂本さんにも…謝っといてくれるか?」

『! 先生は…やっぱり、生きてるの…?』

「……今は、な。だがもう…無理かもしれねぇ…
…取り敢えず…オレはもう…いくわ。
…さよならだ」


最期に小さく「…今までごめんな…」と謝り、
そして兄貴は消えたのだろう…坂本先生の全身から力が抜けた。




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