この手に掴んだ幸せを(ぬら孫) | ナノ

▽ 戦う理由

「雪麗!!
晴明を倒しに行くぞい!!」


トン…と身軽に地に着き、傍にいる雪麗にそう言うおじいちゃん。


「え、リ…リクオちゃんに任せるんじゃなかったの…!?」

「なーんか目覚めちまったわい!!
晴明討伐…こんなワクワクするようなこと奴だけに任せてられっかい。
だいたいそのために羽衣狐も復活させてやったんじゃからなー!!」


…えっ、そのためって…どのため!?
リクオに強力な助っ人をやるために復活させたんじゃなかったの!? ヒクヒクと頬が引き攣るのを感じながらも、泰具を探しながら周りの鬼妖怪を斬り散らす。


「あの女もワシの下僕にして…
フハッ、リクオー! お前は運がねぇな…
ワシがまだ現役ってことがなー!!」


ワハハハハと高笑いしているおじいちゃんの言葉を背に聞いていればー


「ぬらりひょん!?」

「な…なにぃぃ!!?」

「初代!!」

「親父!?」


焦ったような声音でおじいちゃんを呼ぶ皆の声が聴こえてくる。今度は何なんだと振り返ると、そこには血を吐いて倒れているおじいちゃんの姿が…。さっきまでの若く元気な姿が想像出来ない程、いつもの祖父の…かつ、弱りはてた姿がそこにあった。


『おじいちゃ…!! ……ぇ…?』


慌てておじいちゃんの元へ駆けていれば、前方をある者が刀を構えて走っているのに気付く。

ー…兄だ。

パッと足止めをしていた筈の納豆ちゃん達の方を見ると、


『!! う、そ……』


1本の太い木だけがそこには生えており…
木の幹には納豆ちゃんや破壊蛙などの小妖怪が取り込まれていた。本来なら活発で元気のいい小妖怪が今は…生きてるのか分からない…生気を抜き取られたようにして、今にも木の幹の一部にならんとしている。


「ぬらりひょんが倒れたぞー!!」

「トドメをさせー!!」

「…くっ! ちょっ、誰か早く!!
ぬらりひょんを中に運びなさいよ!!」


ぬらりひょんにトドメをささんと一気に襲いかかる敵の妖怪たち。そして、ぬらりひょんを守るように氷でそいつらを倒していく雪麗さん。
守ることは出来ても…流石に雪麗さんにおじいちゃんを運ぶ程の力はない。
かと言って、
おじいちゃんの元へ来ようとする牛鬼や一ッ目なども…敵に集中的に狙われていて進むことができない。


「なっ…総大将ー!!」

「!! 雪女、そっちに一人行くぞー!!」

「…くっ…分かってるわよ! けどっ…!!」


兄がぬらりひょんの元へ走っているのに気付いたのだろう…牛鬼や一ッ目が雪麗さんに声をかけるが、雪麗さんも既に迫り来る鬼達からおじいちゃんを守っている。




おじいちゃんが…死ぬ……?

私の兄のせいで…

いや、私が兄を…怒らせたから…?




ドクンドクンと高鳴る心臓…
おじいちゃんの死を想像する脳…
そしてー


『…ふざけるなよっ…!』


頭が真っ白になって…身体が勝手に動いた。


『私が憎いなら…私を殺しなさいよっ!!!』


自分の身体なのに、まるで自分の物じゃないみたいな感覚。
でもどこか冷静だったのかもしれない…
〈走っても間に合わない〉…
〈刀も届かない〉…
〈おじいちゃんが刺される〉…
後で振り返って思う…
そういう事をちゃんと頭の隅で計算した故の行動であると。
だから、この時私は投げたのだろう。
力を込めて、全力で、狙いを定めてー


「がっ…!!」


手に持っている刀を、兄に向けて…


『………ぁ…れ………?』


投げたのだ。

我に返った時、手には何も握られておらず…
兄…先生の胸には私の護身刀が深々と刺さっていた。

雪麗さんや牛鬼、一ッ目、お父さんやお母さん…
それに清十字団が驚いたようにコチラを見ている。
その視線が…私に現実を突き付ける。


『…に、兄さん……?
…坂も…せんせ……?』


私は…兄を、先生を…刺してしまったのだ。
フラフラする足取りでその場へ向かえば、血の気が一気に引くのを感じる…
妖怪ならば、何とかなったかもしれない。もしくは腹や別のところに刺さったのならば…可能性はあったかもしれない。
綺麗に心臓に命中している刀に…
先生や兄の事を全て忘れ、自分が本当にこの者を殺そうとしていたのだとさとる。


『…おじいちゃ…! 兄さん…! 先生!!
…ぅっ……納豆ちゃんもっ…破壊蛙も……!!』


今更ながら、真っ赤な血に手が震える。
消えてゆく大切な者達に…頬を伝うものは何か。


「ぐっ…ぅ…」

『…兄、さん!? 今…今治すから…!』


それでもー


「触るな!! ゲホッ! …刀を…構えろっ!
立て! 奴良鯉菜!!」

『なっ…血が! このままじゃ…本当にっ!!』

「…お前のっ…兄として、最期の命令だ…!!
オレと…サシで勝負しろ!!」


この人と刀を交えなければならない理由は何なのだろうか。




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