この手に掴んだ幸せを(ぬら孫) | ナノ

▽ エンドレスごめんね

『…あぁ〜!! もう!!
またやってしまったー!!』


同情すんじゃねぇこんにゃろー!!…と怒り、スパーンと襖を開けてスパーンと襖を閉めた後、こうやって自己嫌悪に陥ってるなぅ。


『っくしょー…あの前世のババアが皆とうまくリンクしたせいで……ハァー……』


人気の少ない庭でズゥゥゥーン…と沈む私。
さっきから地面には「の」の字が増えていっている。…そういえば何で「の」の字なんだろ…。


「キャンキャン!!」

『…!? うぉぉあぁぁいっ!??』


突如背後から聴こえる仔犬の声に振り返れば、私に飛びかかり…そのままヨジヨジと登ってくる仔犬。


『…な、んだ…お、…ま…え…』


やめて!!
舐めないで!! 口舐めないで!! 犬とキスするなんて嫌だ!! てか菌が直接私の口の中にコンニチハしてくる!!


『離れろぉぉぉぉ!!』

「クゥーン! クゥーン!」


仔犬を引き剥がそうとするも、爪をなんとか私の服に引っ掛ける仔犬…これじゃ離れないじゃないか!
なんて強情な奴!! つぅか服に穴があくからやめてくんない!?
そんな攻防を繰り広げていればー


「…何だここにいたのか、犬。」

「玉章ー!! 犬見つかったのかー?
…って、何で鯉菜もいるぜよ。」

『何だ。狸みたいな犬だと思いきや…お前のだったのか玉章。』


ご主人様が現れたからか、私から玉章の元へゆく仔犬。


『…ちゃんとした名前をつけてあげれば?』


犬って呼び名はいかがなものだろうか。
そう思って提案すれば、


「じゃあ君が考えてよ」


まさかの私が名付け親!?
…うーん…名付けろって言われてもねぇ…


『タヌ五郎』

「却下」

「何で五にしたぜよ!?」

『なんとなく…でも目元が狸みたいだからさ、狸は文字った方がいいんじゃない?』

「確かに…じゃあ、タヌ神はどうだ!?」

「却下」

『犬神センスねぇー!!』

「お、お前に言われたくねぇぜよ!!」


そんなこんなで色々な名前の案を出した結果…


「今日からお前はたぬきちだよ」

『可愛い名前がついて良かっただなも!』

「玉章…やっぱり名前変えねーか?」


名前は「犬」に元通り。
お前ら…そんなの自分の子供に「人間」とか「半妖」って名前を与えてるようなものだぞ。


「それで? 君はこんなところで何してたの?」

『土弄り』

「本当は泣いてたんだろ〜?」

『お前を泣かしてやろうか?』

「ボクも協力するよ」

「やめるぜよこのドSコンビ!!」


ふむ…玉章とは案外気が合うかもしれない。
にしても


『クスッ…いじめられてないようで良かったよ、犬神』

「…大将を正すのも、部下の役目、なんだろ?」 


ニカっと笑う犬神は本当にいい顔をしている。
…別にイケ面って意味じゃないよ!?

犬神とニヤニヤしながら玉章を見ていると、それが気に食わなかったのかムスッとした顔で口を開く。


「人の心配より自分の心配すれば?」


玉章の言葉に、ニヤニヤしていた犬神も口元を歪める。あぁ、なるほど…


『…さっきの話聴いてたんだ?』

「悪ぃ…盗み聞きするつもりはなかったんだが…」

「…襖にコップを当ててよくそんな事言えるね」

「お、おい玉章!!」


呆れた顔でバラす玉章に、犬神が慌ててそれを咎める。


『…プッ…アハハ!
コップって…ガチな盗み聞きじゃん!!
しかも何か古典的だし…アハハハ!!』

「なっ…笑うんじゃねーぜよ!!」


ゲラゲラと笑う私に突っかかる犬神。
玉章はそれをニヤニヤして見ていたのだが…


『…あ…れ…?』

「鯉菜!? ど、どうしたんだ!?」


面白くって大爆笑してたのに…何故かポロポロと突然零れでる涙。慌てて手の甲で拭うも、涙が止まるどころか尚一層零れ出てくる。


『おかしいなっ…やだ、止まらない…』

「は、はははハンカチ!! これ使うぜ…よ…」


グイッと私の前に差し出されたのは、かなり皺くちゃなハンカチ。


『…あはっ…何に使ったの〜? 嫌だァ〜』

「ま、待つぜよ! まだあるから!!」

『…アハハハ!! 何枚もってんのよ、しかも…全部皺くちゃじゃんか!! アハハ…!』


ぽんころぽんころ…
次々に犬神のポケットから出てくるハンカチは全て皺くちゃに丸まっており、使うのがはばかられる。その様子が面白くて笑うものの、やはり涙が出て止まらない。
…もはや、どうして出る涙かも分からない…
分からないまま取り敢えず、手の甲で涙を拭っていれば…


「奴良鯉菜…」

『…?』


静かな声で名を呼び、私の目の前に来る玉章。
何だろうと思っていれば…急に顎を持ち上げられる。必然的に目が合い、真っ直ぐと私の目を見たまま玉章は口を開くー


「ボクの組に入らないかい?
君ならボクだけじゃない…犬神や針女、皆が歓迎するよ。」

『…玉…章』

「君は…今の奴良組に居場所を見い出せないのだろう? でも大丈夫だ…ボクの百鬼夜行に入れば。」

「それがいいぜよ!! オレ達と一緒に来いよ!!
お前がいればもっと賑やかで楽しくなるぜ!!」


胸が熱く、苦しい。
頭では分かってるのに、
心が揺れ…玉章と犬神が差し出す手が輝いて見える。


ーあぁ…その手をいっその事、
 取ってしまいたい。


震える私の右手が玉章の手を取ろうとしたその時、


『…ぁ…?』


目の前が急に暗くなり、差し出した私の右手が後ろから誰かに握られた。


「おいおい…
女が弱ってる時を狙うなんざぁ、卑怯モンのする事じゃねぇのかい?」


耳元で聴こえる声はきっと


『…お父…さん?』

「ん? どおした?」


やっぱり…お父さんだ。
いつの間に後ろにいたんだろうか。
目を覆うこの感触は…きっとお父さんの左手だろう。


「…残念だよ、せっかくボクの百鬼に加わるかと思ったのに。」

「悪いが堂々とアプローチしない奴にはうちの大事な娘はやれないねぇ。」

「フフッ…やっぱり奴良組は過保護だね。
まぁいい、また今度誘いにくるよ。」


2人のじゃあねという言葉の後、
目を覆う左手の隙間から、2人の姿が遠のいていくのが垣間見えた。
…いつまで目を覆うのか知らないけれど、
泣いている顔見られたくないし、まぁいいか。
それよりもー


『…いつから…ここに?』

「…タヌ五郎って名前はねぇと思うぞ?」

『……ほぼ最初からじゃん』


そう悪態つきながらも、後ろにいるお父さんにもたれかかる。…本人には決して言わないけど、お父さんのこういうところが好きだ。何も言わないで…ただ傍に居てくれるところ。
ーだからつい、話したくなってしまうんだ。


『謝った方が…いい…よね?』

「…お前さんは謝りたいのかい?」

『…分からない。
私を憐れむ目と態度が物凄く嫌だったのは確かだけど、でもそれがワザとやってるわけじゃないのは分かってる。
だから…自分でもどうすべきか分からない。』


そう答えれば、「お前さんもやっぱ真面目だねぇ」と笑われた。
…これがどう真面目なのか私には分からないけど。


『ハァー…
晴明と戦うんだから、こんな下らない事で喧嘩してる場合じゃないのにー!! リクオにも皆にも申し訳なくてもう…ずっと明鏡止水で姿を消しときたい…
つぅか私三代目補佐官どころか三代目邪魔官じゃね!?』

「ぶはっ!! 三代目邪魔官って…おま…ハハハ!!」

『笑い事じゃないんですけど!?
もー、どうしよう!! どうすればいい!?』

「どうすればいいって聞かれてもなぁ…
どうすればいいと思う? 皆」 

『…は?』


まるで第三者に聞くような物言い。まさかとは思いながらも、目元を覆うお父さんの手を取って後ろを振り向いた。
するとそこには…


『ぇ…ぇぇ…ぇぇぇえええええ!!!!??』


ニヤニヤと笑ってるお父さん、そしてその後ろには夜リクオと奴良組の面々。


「案外気が付かれねぇもんだな…」

「言ったろ、冷静さを失った鯉菜はめちゃくちゃ鈍くなるって。
んで…この最近情緒不安定で考え過ぎな娘さんはどうすればいいんだ?」

『ぅわっ…』


リクオとお父さんに両側からグイッと腕を引っ張られる私。力強いなお前ら…力を入れずにスンナリ立てたぞ。
そんなことにプチ感動していれば…


「お嬢…すみませんでした!!」

「あまりに思いもしなかった内容だったので…
ついそういう態度になってしまって!!」

「決して同情したわけでないのですが、鯉菜様を傷付けてしまい…申し訳ございません!!」


怒涛の謝罪に開いた口が塞がらない。
なんか…そんなに謝られたらコッチが逆に悪いことしてるような気になってきた!!


『こ、こっちこそゴメン!
なんか…その…うん、ごめんなさい!!』

「いやいやいや、お嬢が謝ることじゃあありません!!
オレ達が無神経だったんです!!」


そんな感じの謝り合いが2、3回行われたところで…お父さんとリクオに「もうええわ!!」と強制終了される。ぶっちゃけ助かりました。
止めてくれなきゃエンドレスにお互い謝っていただろう。

でもお陰様で…
皆の私を見る目はいつも通り。
可哀想なものを見る目でも、態度が変わるわけでもなく…いつもの雰囲気に戻ってくれたのだった。




(「良かった…!」)
(「もう鯉菜様と話せないかと思いました…」)
(「お嬢に嫌われてなくてホッとしましたよ!」)
(『…本当すんまっせんっしたぁ…!!』)




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