▽ 同情と共感は紙一重
「京都で合流した花開院たちの話によると…
晴明の根城は結界師天海!! 奴の創った葵城跡の上空にある葵螺旋城だ!」
「葵螺旋城…!?」
「あの…城跡の上空……!?」
奴良組だけでなく、各地方の幹部の妖怪が集まった広間…そこでは今報告会が行われている。
「先程の首無たちの報告のとおり…清浄によって南九州・岡山の妖は全滅…。京都では羽衣狐が復活した」
「え!?」
「羽衣狐が…!?」
羽衣狐の復活に一同ざわめくが、続くリクオの言葉に再び静けさが帰ってくる。
「奴らの狙いは分からねぇ。
ただ、北九州や山陰をはじめ全国の妖は確実に集結しつつある!
オレたちのやることは1つ、準備ができ次第葵螺旋城に突入し鵺を討つ!」
リクオの言葉に部屋が静まり返る…
そしてその沈黙をいち早く破ったのは牛鬼だった。
「待ちなさい…
そのような手練の封印、ただでは入れますまい…
下手を打てば返り討ちに遭いますぞ…
2代目や鯉菜様も…何故止めない…」
…ワァオ…まさかこっちに矛先を向けられるとは思ってなかった…。思いっきり傍観体勢を取ってたから、完璧に気を抜いていたぜ。
「…何でってぇ言われてもな…何でだ? 鯉菜」
何で私にふるんだこのクソ親父!!
アンタ絶対、今の話聴いてなかったろ!! 聴いてなかったから…何を牛鬼に質問されたか分かってないんだろ!! 冷や汗かいてウィンクするなこのど阿呆!!
『…別に、リクオはその封印に突っ込むなんて一言も言ってないわよ。
そもそもこの情報は花開院から得たものでしょう? 花開院がその封印を何とかするつもりだから…彼らはこの情報をリクオに与えたのでは?』
「…フンっ 妖怪のわりには頭が少しは回るんだな。」
そこへ、第三者の声が聴こえてくる…竜二だ。
竜二を筆頭に、ゆら、魔魅流くん、雅継、破戸が部屋に入ってきた…のだが、何で皆土足なのかねぇ。靴ぐらい脱げよ、欧米人か。
「結界で敗れ…妖に京を守られた…螺旋の入り口は花開院が探し出してみせる。」
「成程…リクオの新たな百鬼夜行か…」
「頼むぜ竜二」
「黙ってろ…
これはオレたちのプライドの問題なんだよ。
このままでは終わらん。花開院家の総力をあげ、天海を…上回ってみせるぜ。
なぁみんな?」
結局、花開院が封印を解き、リクオ達が鵺を討ちに突入する計画に決まり…一応は総会が終わりとなる。花開院に次いで各地方の妖も部屋を出て、広間には奴良組の者だけになる。
「姉貴…」
『…うん…分かってる』
リクオの呼び掛けに返事をし、リクオと場所を入れ替わる。顔を上げれば、ずらっと並んでいる奴良組の面々が目に入る。
『奴良組3代目補佐・奴良鯉菜…
この場を借りて、皆様に謝罪を申し上げたい。』
さて、私なりのケジメをつけようではないかー
『この度は皆様に多大なるご心配をおかけしたことをお詫び申し上げます。
ご察しかと存じますが…
私、奴良鯉菜には前世の記憶がございます。両親と兄が2人の5人家族…そのうちの長男が此度、私の担任教師である坂本先生に取り憑いてしまいました。』
夜の私が既に説明していたのか、それとも察していたのか…驚くわけでもなく、ただジッと私の話に耳を傾ける皆。
『長男とは複雑な関係にあったとはいえ…
取り乱し、皆様にご迷惑をおかけしたことを深く反省しております。この度は大変お騒がせしました。』
言い終わり、頭を下げる。
誰も何も言わず…その沈黙が身に突き刺さるようで痛い。…私なりの最大限の畏まった言い方なんだが、もしかしてしくった? 逆に怒らした!?
そんな事を思っていればー
「お嬢…顔をお上げください」
首無が眉を八の字にして言う。
周りの者を見れば、ポカーンとしてる者もいれば…首無同様に困った顔をしている者もいる。…中には何か不満があるのか、眉を寄せている者もいる。やっぱ怒らせちったのかな。
「そこまでお嬢が謝らずとも…」
「そうですよ! 詳しくは分かりませんが…
前世のお兄様と何か因縁があったのでしょう?」
「確かに心配しましたが、何とか元気になってくれただけでも良かったですよ!! ねぇ皆!?」
首無に次いで毛倡妓や氷麗まで、優しい言葉をかけてくれる。だが、私はまだ兄との関係をきちんと話していない。
だから勿論ー
「よくねぇよ。
ワシらはそんな事を知りてぇんじゃねぇ。鯉菜様が一体前世で何をしたのかを知りてーんだよ! もしあの兄貴の言葉が本当なら、総大将や2代目、リクオ様方の身があぶねーんじゃねぇのかぁ?」
「む…そうじゃな、まだ何があったかは聞いておらん」
「迷惑かけたと思っておいでならば、ここはやはり話すべきでございましょう…」
出たよー出た出た。
一ッ目グループが動きなさった。でも確かに一ッ目の言うことは間違っちゃあいない。リクオ達の安全を保証するためにも…私の過去は話すべきなのだろう。
まっ、一ッ目の場合はただ単に私を苛めたいだけなのかもしれないけどね。
「…一ッ目。誰だって辛い過去はあるもんだろ?
聞かれたくないことだってお前にもあ…」
『慰めものにされてた。それだけよ。』
「そう、それだけ………て………は?」
お父さんの言葉を遮って言えば、あんぐりと口を開けるお父さん。そして一ッ目を含め、目が点になってる皆さん。
『…物心ついた時には兄とはそういう関係だったの。
それを20歳くらいの時に私が家族にバラしたからさ…
兄はそのことに激おこプンプン丸のようでござる。』
聞かれたから答えたのに、何だこのなんとも言えない沈黙。お父さんは「軽っ! てかそんなアッサリ言う?」と小さな声でブツブツ呟いている。それよりもこの沈黙…っていうか絶句と言えばいいのか…この気まずい空気を誰かクラッシュしてください!
「お…お兄さんとは何歳離れて?」
『えーっと…7歳上』
「…20歳になるまで…誰にも言わなかったんですか?」
『うん、内容的に言えないし?』
「言って…どうなったんですか?」
『何とか家族をやり直そう的な雰囲気になって…
でも4年後くらいに私が死んだ。留学先で。』
ようやく固まってた空気が緩和されてきたと思いきやー
「可哀想に…」
カワイソウ?
「もっと早く家族に打ち明ければ…」
随分と軽々しく言ってくれるな…
「そんな辛い事があったとは…」
何でそんな目をするの?
ボソボソと話す皆の声や私を見る目に、怒りがフツフツと沸き起こる。
『………ッ』
「…鯉菜?」
ー同じだ
《どうしてもっと早く言わなかったの!?》
《そんなに家が嫌なら…出ていきなさい!》
《身体でも売って稼げばいいじゃない!!
堕ちるところまで堕ちればいい!!》
「本に…可哀想に…」
ー前世の母と全く同じ…
《アンタはもう普通の女の子じゃないのよ!?》
ー急に態度や、私を見る目を変えるんだ…
『 同情なんざいらねーんだよ!! 』
突如立ち上がって叫んだ私に、皆の視線が集まる。
『誰が同情しろっつった!?
腫れ物でも触るかのように…
アンタ達もあの人も…目の色変えやがって…!!』
態度が変わるのは…仕方のないことないのかもしれない。私は感覚が麻痺してるから…これがどれだけ異常なことなのか、確かによく分からない。
それでも…
『可哀想なんてレッテルを勝手に貼らないでよ!!
アンタらに…っ
アンタらに…こんな話するんじゃなかった…!!』
私の心が曲がっているからだろうか…。
私が特に気に病んでないことを「可哀想」とか「辛かっただろう」と言われても、
相手が偽善者ぶってるような…自己満にしか聴こえないんだよ。
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