この手に掴んだ幸せを(ぬら孫) | ナノ

▽ 感覚麻痺ってコワいね☆

「…落ち着いたか?」


私の頭をポンポンと優しく撫でるお父さんに、小さく頷いて大丈夫だと告げる。何日間も続いた真っ暗な世界が嘘のように、黒雲は消えて雨もやんでいる。


『………ありがとう』

「お礼はココに頼むぜ?」


ニッと笑い、自分の頬をトントンと指差すお父さん。恥ずかしくてチューなんかできるわけないだろう! そう想いを込めて、借りてた手拭いをお父さんに投げつける。


「アイタッ!
…ったく、さっきまでのしおらしさは何処に行ったんだい?」


正直言って…
ガチ泣きしたばかりなので恥ずかしいなう。
お父さんの顔を見れないどころか顔すらあげられない。絶対今の顔、目が腫れ上がって不細工だと思う…
 

「…ひでぇな…泣き腫らして顔がタコみたいになってんぞ…」

『全身打撲骨折されたいの?』

「いででででで!!!!」


女の子にそれはなくね?
人がセンチメンタルな時にそんな酷い事普通言うか!?
先程の感謝はどこへ行ったのやら…怒りMAXで絞めていれば、


「いづもの…鯉菜…だ…な…ガハッ!!」


と青白い顔をして言うお父さん。
…元気づけるならもっと他のやり方でして欲しかったな。


噎せたお父さんが落ち着きを取り戻してからは、沢山話を聞いた。
祢々切丸が直ったこと、
安倍晴明の清浄のこと、
リクオが友達を家に呼び、全国から妖怪を招集したこと、
そして今は九州に向かっていること。
そうか…もうそこまで行ったのか。というかもう直ぐ原作が終わるじゃないか。
そんなことを考えていれば、お父さんが真剣な目をして問うてくる。


「…お前さんはこれからどうするんだい?」

『どうする…って言うと?』

「兄貴と先生のことだよ。
…オレが代わりにやろうか?」


お父さんの目を見れば、嫌味でも試してるのでもなく…親切心からそう言っているのだと分かる。


『…ありがとう。でもその気持ちだけでいいよ。バカ兄貴とは…私がケリをつける。
でないと、私も前に進めないもん…』

「…そうかい。流石オレの娘だな!」

『ちょっ、ちょっと…!!』


ニッと笑ったお父さんに、頭をわしゃわしゃとされる。物凄く久しぶりな感覚だな…ちょっと嬉しいけど、髪がもつれて痛い。


「にしても…何でお前の兄貴はお前さんを恨んでるんだ? 裏切ったって言ってたが…そこがまだ分かんねぇんだよなぁ〜」

『私が前世の家族に秘密をチクったことを言ってるんだよ。』

「…? それって自業自得じゃねぇのか?」

『そうだよねぇ…自業自得だよねぇ…。
でも向こうからしたらさ、暗黙の了解で兄と私だけの秘密ってな感じになってたのに…それを私が家族にバラしたから激おこなんだよ。』


いやー、家族にバラしたから、もしかして私の事恨んでんじゃないの〜? なんて思ってはいたけど…


『まさか本当に恨んでるとは思わなかったわ…』

「お前の兄貴、ズレてんな」

『妹に手ぇ出す時点でおかしいからね』

「…まぁな。
ちなみにやっぱお前さんも兄貴を恨んでんのか?」

『別に。恨んでないよ』


そう言えば、ぎょぎょっと目を見開いてこちらを見るお父さん。え、こっちが吃驚だよ…。


『嫌だったけど恨んではないの。
気が付いた時にはそういう関係が当たり前田のクラッカーになってたからさ…なんていうか私も感覚が麻痺してるんだろうね。
ただ、
「あんな妹に手ぇ出す糞野郎が何で家族内ではチヤホヤされていい兄ぶってんだよ」
とか
「あんな糞野郎が何で就活良い所に行けるんだよ世の中理不尽過ぎるわ燃えろ」
とか思ってたね。だからチクってからは、アイツの真の本性を暴いた感じがしてとてもスッキリしました。ハイ。』


ふぅ…こういうのをマシンガントークって言うのかも。息継ぎをほとんどせずにしたからキツイ! けどものすごく言い切った感がある!!


「…それはなんていうか…妬み? じゃね?」

『だから最初に言ったじゃん…
黒い感情を胸に秘めた女の子がいましたって。』

「…なんつぅか…お前の前世変わってんな」

『そう? 普通な家族の方が逆にレアだと思うけど。』


今の時代、離婚やら再婚やら…DVやら問題抱えた家族だらけだと思うけどなぁ。



そんなこんなでしばらく雑談をし、〈感覚が麻痺するってコワいね☆〉という謎の結論に至った今…


「おっ…? そろそろ時間か」


体が消え始めるお父さん。
チラッと近くの水面を見れば、


『…夜さんが梅昆布茶と茶菓子を満喫しておねむのようだよ』


ポンポンとお腹を摩り、横にゴロンと寝っ転がる夜さんの姿があった。まさにオッサンの鏡である。
実を言うと水面からオモテの世界が見えるのだ!
まぁ、今までは酷い天気で水面に何も映ってなかったんだけどね。晴れてる時はちゃんと機能します。


「んじゃ、先に戻ってっからな。お前も早く顔出せよ…さっきも言ったが、皆お前を心配してんだからな!」

『アイアイ』


見えなくなるまでお父さんを見送り、そして入れ替わるようにして現れた夜の私。


『…オッス』


軽く手を上げれば、夜さんの眉間が徐々に険しくなる。
そしてー


「『オッス』じゃねぇわよ!! どんだけ時間かかってんのよこのバカ女ぁぁぁ!!!!」

『ぐぴゃぁぁぁぁぁぁっ!!』


引き篭もりがキレると滅茶苦茶こわいと、さっそく身をもって体験するのであった…。



(「人が散々心配して声掛けてたのに…だぁれ? 無視した挙句、木をボロボロにしたやつは」)
(『ご、ごめんなさい……』)
(「だぁれぇ? アタシを長い間オモテに出させたのに…くっっっっそ生意気な態度を取っていたのはぁ?」)
(『す、すんまっせんっしたぁぁぁぁ!!』)




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