この手に掴んだ幸せを(ぬら孫) | ナノ

▽ 始まった清浄

「誰だ貴様は!!」

「まさか…清浄の話は嘘で、本当の目的は我々を潰すことか!?」

「汚い手を使いおって…!!」


あらら…誤解を与えちゃったかしら。
多くの妖がこちらに警戒心丸出しにしている…うん、取り敢えず刀を仕舞うかな。


『…自分の組に誇りを持つのは結構。
だが、誇りを持つあまり…驕るのはいかがなものかしら?』

「何…? 我々が驕っているとでも言うのか!!」


アタシの言葉に憤慨する数名…
いやいや、驕ってたじゃないか。晴明くらい我らの組が倒してやる〜、だなんて言ってたじゃん。


『…片腹痛い。
ぬらりひょんを出せ?
残念ながら、ぬらりひょんは昔の仲間を呼びに行ってご不在よ。これが意味すること分かる?
そこまでしないと、晴明には勝てないってこと。』

「…ぬ……」

『自分達の居場所が消えてなくなってもいいなら、ただここから黙って去ればいい…
晴明の話を聞いて、怖気づいた者も去れ!』

「ちょっ!! 姉ちゃん!?
せっかく集まって来てくれたのに、何返そうとしてんの!?」


アタシの胸倉を掴み、ガクガクと前後に揺らしてくるリクオ。お願いだからやめて欲しい…吐きそうだ。こんな何とも言えない空気の中…皆に見守られてリバースするなんて嫌だぞ。
気持ち悪さとアタシのプライドが葛藤していると、突如、酒甕を手にした獺祭という男が口を開く。


「全員会ったばっかだし、よく分かんねーけど…
なんだかさ、オレにゃあ…あんたらの方が臆して見えるぜ」

「……なんだと?」

「こんだけ妖集めてガキが大見得切るなんざぁ…意思のでかさが成せる業ってね…ヒック」


…よくあんなにお酒を飲めるな。でも良いことを言った、今度お礼に妖銘酒をあげよう。
そして今度はー


「ね…間違ってる? あの酔っ払い。
リクオの言っていることも…間違いかい?」


子犬を抱いた玉章が語り出す。


「見た目は頼りないかもしれないけどね…筋は通っているだろう?
……簡単に臆すほど弱くないのも知ってるしね」

「そうぜよ!!
そいつァ、弱そうなフリして狩ってくる…
化け狸ぜよ!!」

『いや、化け狸はアンタの大将だから。』


獺祭や玉章だけでなく、犬神もリクオを援護してくれたおかげで…リクオの顔に笑顔が浮かぶ。
そしてー


「皆さん
各々何かは違いましょうが…あっしらには守るべきものがあるはずです。そのために先頭切って体張るのが、妖怪任侠の主なんじゃあないんですかい。」


元の場に座り、ゆっくりと語り出すリクオ。


「同じ立場のあなた方なら分かるだろう。百鬼を率いる者は常に、力を欲している…皆の生活を守る力だ…そのために敵をなぎ倒す力だ…!!」


部屋にいる者全員が…リクオの言葉に耳を傾ける。


「不肖奴良リクオ、群れようとも百鬼に加われとも言っていない。ただ、晴明を倒すためにお力を貸していただきたい!!
列強の妖よ…なにとぞお願い申しあげる。
良き闇夜のために。」


下げていた頭を上げ…鋭い目付きで告げるリクオに皆押し黙る。
リクオの勝利が決まったその時、


「て…てーへんだぁー!!」

「お嬢!! こいつ怪我してますぜ!!」


納豆ちゃんが勢いよく入ってきたかと思いきや、中庭から大怪我を負った烏天狗が現れた。


「り、リクオ様に…ご報告を…
…九州の九十九夜行に伝達を、たくされた者です…きゅ、九州の妖が…壊滅に、瀕しちまった…!!」


そう言い残して…倒れる烏天狗。
そんな彼を小妖怪と一緒に移動させ、アタシが治癒を始める一方…


「そういえば九州の者は1人も来ておらんぞ。」

「九十九夜行と言えば勇猛な熊襲妖怪を一手に抱える西の最大勢力…」

「当主は古代より生きる蜘蛛たち…奴等がやられたとなると…しょ、清浄…?」

「まさかもう始まってるのか…!?」


ようやく事の次第に気付き、本格的に〈危険〉な状態だと認知した妖達がどよめき始める。
だが、
そのどよめきも…強大な畏が突如現れたことにより、一瞬で掻き消える。
その畏はやはり夜リクオのもので、


「リ…リクオ…」

「鴆…宝船の手配をしてもらってくれ。
奴良組の面々は待て! 戦況の変化に備えろ!!
これよりオレは九州へ向かう!
有志を募ろう…誰かオレと先陣きりてぇ奴はいるか!! ついてくる奴ぁ宝船に乗れ!」


そう告げるリクオに、玉章と獺祭が笑みを浮かべて立ち上がる。
次いで、犬神も行こうとするが…


「犬神、お前はここに残れ。」

「な…何でだよ!! オレだって一緒に…」

「バカだな…そこの弱ってる彼女の番犬でもしていろって言ってるのさ。」


そう言って、玉章の人差し指はアタシに向けられる。
…ん? それってアタシが雑魚ってことか?


『ちょいとお待ちよ、狸さんや。
誰が弱ってるって? 犬っころに護られる程アタシは弱くないわ。舐めてっと額の傷をバッテンにするわよ。』


治療する手を休ませず、そう返したものの…


「そうかな…
最後に会った時には今よりもっと畏があったと思うけど。」

「…言われてみると…なんか…影っつーか、生命力が薄くなってるぜよ。お前やっぱり具合悪いのか?」


…なんてこった。
まさかかつての敵に心配されるとは思わなんだ。しかも、昼のせいで半分死にかけてるようなものだから…図星である。


「…無言は肯定だと捉えていいのかい?」

「仕方ねぇなぁ〜オレが鯉菜を守ってやるぜよ!!」

『なんか微妙に腹立つ……』


結局、なんやかんやで犬神は残ることになり…獺祭と玉章だけがリクオに同行することになった。


「おっ、鯉菜じゃねぇか! 息災かい?」

『鯉伴…』


後ろから声を掛けられて振り向けば、そこにはみたらし団子を口に加えた鯉伴がいた。


『…どこに行ってたの? 総会には居なかったよね』

「ん? 若菜が明日の朝の分のお米が足りないってんで…一緒に買いに行ってたんだよ」


なるほど…
そしてそのみたらし団子は小腹が空いて買ったと…。息子が頑張ってる時に…それでいいのか鯉伴よ! …いや、信じてるからこそ任せてるのか?
…うん、そういうことにしとこう。


「…どうやらリクオのやつ、上手くやったらしいねぇ」


二ッと笑う鯉伴に頷き返す。次いで、お前さんの方はどうなったんだ…と聞かれたため、首を横にふる。


『アタシじゃ…やっぱり限界があるみたい。
だから鯉伴、アンタが何とかしてやってよ。』

「おう。
…………待て、今なんつった?」

『アンタが何とかしろって言ったの。』

「いやいやいや、何とかしろって言われても…昼のお前さんが出てこない限りは無理だろ!
って…お、宝船呼んだのかい。」


鯉伴の言葉に上を向けば、確かに宝船が来ていた。
到着した宝船に、リクオと玉章、獺祭が飛び乗る…そしてー九州へ飛び立つ時が来た。




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