この手に掴んだ幸せを(ぬら孫) | ナノ

▽ でしゃばるぜよ!!

『………アタシの…部屋…』


目を覚ませば、見慣れた天井が目に入る。
自分の部屋で寝ているということは…きっと鯉伴がアタシをここまで運んで来てくれたのだろう。


『…随分と騒がしいな…』


部屋の外はガヤガヤとざわついており、いつもよりも畏の気配が強い気がする。
誰か来ている…しかも、数が多い。
簡単に身支度を済ませ、何事だろうかと部屋の戸を開けば…


『…何で見たこともない妖怪がこんなにたむろってるのよ?』


誰か説明求む。
取り敢えず、ぬら爺からリクオまで、奴良組三代の誰かに聞けば分かるだろう。そう思って歩いていれば、前方に小妖怪ら発見。どうやら広間を覗き見しているようだ。


『…何が起こってんの?』

「!! お嬢!?」

「もう動いて大丈夫なんですかぃ!?」

「ギックリ腰だとお伺いしましたけど!?」


…鯉伴よ。
嘘をつくならもっとマシな嘘をついてくれ。


『大丈夫よ。もう治ったから…
それより、アタシが寝てる間に何が起こったの? 知らない妖怪が本家を埋め尽くしてるんだけど』


再度問えば、小妖怪はアタシが寝ていた間のことを簡潔に話してくれた。
まず…
恐山から帰って直ぐ、リクオは学校の友達を家に招待したらしい。結局来てくれたのは清継とカナちゃんだけで…百物語戦の時のことと今まで妖怪であることを黙っていたことについて謝ったそうである。相変わらず律儀な弟だ。


「そういうわけで…
さきほどリクオ様のご学友は帰られました!」

「お嬢のことも心配されてましたよ?」

「そして今は、リクオ様のご指示で…」


話を聞いていて、なんとなく頭が働き出す。
そうか…いつの間にか、もうそこまで来ていたのか。リクオが招集したことで、全国各地から妖怪が奴良組本家に集まってきているのだ。原作の話を思い出し…どこまで話が進んでいるのかようやく察していた時、


「鯉菜か…? 久しぶりぜよ!!
やっと目ェ覚ましたんだな!! 」

『…犬…神?』


現れたのは和服姿の犬神。
服装が違うだけで、後は他に代わり映えがない。
ーいや…


『…明るくなったわね…犬神』

「そうか? …お前はなんてーか…静かになったぜよ。
やっぱ具合が悪ぃのか?」


…前言撤回。
明るくなったというよりも、失礼なヤツになった…というべきか。まるで普段のアタシがうるさい奴みたいな言い方だな。
それに目の色も違うぜよ、と不思議そうな顔をする犬神に…夜の鯉菜だからね、と適当に説明する。


「そういえば…お前は総会に出なくていいのか?」


そう言って、広間をチラッと横目で見る犬神。
どうやら気になっているようで、先程からソワソワとしている。
ーそうだ。


『犬神』

「んあ?」

『一緒に様子見でもしようか』








『あの人…確か文車妖妃さんだ。』

「知ってんのか?」

『うん…僅かな情報でもその者をとらえ、文と絵にする能力を持ってるんだって』

「ふーん…?」


アタシと犬神の視線の先には"清浄"の説明をする文車さん。千年前にあった"清浄"の話をし、いかに安倍晴明が危険なやつかを説明している。
…ちなみに、
アタシと犬神は広間の隅にいるなう。明鏡止水を使った上でコソコソ話しているので、まだアタシ達の存在に気づく者はいない。


「歴史が繰り返されれば…多くの里は侵略を受け壊滅するでしょう。清浄は遅くとも…数日のうちに始まるものと思われます!」

「皆さんの里が!! 消えてなくなるのです!!
阻止するためには安倍晴明と戦って勝たねばならない! だから今こそ…全ての妖怪が手と手を取り合いこの窮地を凌がなくてはならないのです!!」


文車さんとリクオの言葉に、少しだけ部屋がザワつく。だが反応はとても鈍い…現実味がないのか、もしくは…


「奴良組は臆したということだな…? その清浄に。鵺なんざ…わしら悪鬼組にはなんでもないわ。
若造…いきがるなよ」

「そうじゃ。わしら天下布武組をなめるな蛮東妖怪…お前じゃにゃー、ぬらりひょんを出せ」

「ほんじゃ…ぬらりひょんはどうした?
貴様では話にならん!」


…完璧にリクオをなめきっているな。


「まずは話をお聞き下さい!!
晴明は個々に戦って勝てる相手じゃない!!」


好き勝手言う各地方の妖に、リクオがなんとか説得をしようとするも…場の空気はどんどん悪化していく。


「…なぁ、アイツ何で夜の姿になんねぇんだ?
昼の姿で言っても…
アレじゃあ誰もついていかんぜよ」


…確かに。
言いたい事はとても分かる。夜のリクオだったらきっと…もっと上手くやれたかもしれない…。
でもー


『〈美人は三日で飽き、ブスは三日で慣れる〉』

「…は?」

『夜のリクオは魅せるのが上手い…だから妖怪も人も惹き付ける。だが所詮、それは上辺だけのものに過ぎない…特にリクオのことを知らない奴にはね。』

「上辺だけ…?」

『もしここで夜リクオが出たら、ここにいる皆を魅了して率いるなんて…容易いことだろうよ。でもいざリクオがピンチになった時にはアッサリと見捨てるだろうね。自分の組や命可愛さに…別にそれが悪いだなんて言わないけど。』

「…昼だったらそれがないってのか?」

『昼は…夜みたいに魅了することができない分、気持ちで繋がろうとする。要は…夜が〈弱い〉関係を作るのに対して、昼は〈強い〉関係を作るってことよ。』

「…もっとわかりやすく解説するぜよ。」

『…そうねぇ。
じゃあ…女性2人が命の危険にさらされています。1人は、さっき出会った美人。もう1人は、信頼しているブス。さぁ、どっちを助ける?』

「……………信頼しているブス。」

『そういうこと。
つまり、昼リクオは今、力を貸してもらえるように信頼関係を築こうとしてるんだよ。〈顔じゃなくて中身で選べ〉ってのと同じで…、〈畏で魅了するだけじゃなくて気持ちで繋がれ〉ってね。』

「なるほどな…夜リクオが美人で、昼リクオがブスか。」

『…ブスじゃない。アタシの弟は日本一可愛い。』


ボソボソと犬神と話しているものの、やはりアタシ達の存在に気づく者はまだいない。そして未だ不穏な空気が流れている。
…それにしてもコイツらムカつくな。黙って力を貸してくれればよいものを…ビクビクと変な警戒だけしやがって。


「どうやら本当に臆したと見える…」

「関東妖怪もおちたもんじゃのう」

『そのおちた関東妖怪に、現在進行形で首をはねられそうになってるのはだーれ?』


ちょうどアタシの前にいるヤツがそんなことを言うもんで…背後からつい首筋に刀を添えてみました。


「ね、姉ちゃん!?」

「鯉菜! お前何やってるぜよ!!」


アタシ達の存在にようやく気付き、誰だお前は!!と言わんばかりに場が更に騒然とする。
そして私はリクオや犬神に咎められるが…そんなもの知らない。関東妖怪ってことは、奴良組および奴良組の傘下にある組を言っているのだ。弟だけでなく、これだけ皆のことをバカにされちゃあ…こっちだって黙ってらんないわよ。



『奴良組三代目補佐奴良鯉菜よ、初めまして』



あまり口出しするつもりはなかったのだけれど…少々でしゃばらせていただきましょうか。




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