▽ おそれ
『おやおや?
あれは…リクオ君ではございませぬか!』
前方にマイ スイート ブラザーを発見。
オマケにカナちゃんもいる。てかあの二人喧嘩してないか?
「妖怪って…おばけでしょ!?」
「怖い?」
「見せてくれたら信じるけど…やっぱりそんなの見たくないよ!!」
そう叫んでバス停に走るカナちゃん。待て〜こいつぅー!私もバスに乗るんだぞーぅ!だなんてアホな事を脳内で独り繰り広げながらリクオに声を掛ける。
『まぁ、そう気を落とさないで!
私はバスで帰るけど、リクオはもし歩いて帰るなら気をつけて帰りなさいよー』
姉ちゃん居たんだ…という言葉にダメージを受けたが、バスが出発しそうな雰囲気なので頑張って走る。まぁ、実際気を付けるべきなのはバスに乗る私なんだが。
バスに乗れば「あれ、妖怪くんの姉じゃないか?プププ」と笑ってきたワカメ坊主がいたので、取り敢えず拳骨をお見舞いして私は後ろの方の席に座った。ちなみに私の後ろではカナちゃんたちが最近の神隠しの話をしている。
…そろそろだ、トンネルが近付いている。
「おい!君達!待ちたまえ!妖怪など実際にはいない!ボクが研究で…」
『カナちゃん!』
グイッと後ろにいるカナちゃんの手を引っ張り、一緒に床に伏せる。カナちゃんはリクオの大事な幼馴染だ。万が一、原作が捻れて居なくなられたら困る。だから念のため、大怪我をしないようにカナちゃんを守ろうではないか。清継も大事だが…アイツは霊感ないし悪運も強そうだし大丈夫だろう。
そしてついにー
ドドドドド!と岩の崩落の衝撃が来た。
『…いっ!』
「…うぅっ…何なの、一体…。
って、お姉さん!?怪我が…!!」
『…あ、本当だ。血が出てら…。』
突然のトンネルの崩落に耐えられず、バスは無惨にも横転して窓ガラスも割れている。その割れた窓ガラスの破片が当たったのだろう…見れば太ももにかすり傷が結構入ってる。地味に痛い。しかもショートパンツにニーハイだから目立つ。
え? 何で長ズボンにしなかったのかって?
2本しか持ってない上に、両方とも洗濯中だったんだよ。
『取り敢えず、みんなここから出るわよ。怪我してる人もいるだろうし、お互いに協力しあってね。』
周りを見れば私より下の学年の子がほとんどだったので、一応年長者として仕切った。治癒の力を使うこともできるが、よほどの傷の時にしか使わないようにしようかな…一度使っただけで疲労感が半端ないし。
代わりと言っては何だが…ここにいる怪我した子には絆創膏などで応急処置をしよう。これで許しておくれ!
「キャッ!!」
『ん? どーしたカナちゃん。』
他の子の手当をしていればカナちゃんの悲鳴が聞こえてきた。慌てて駆け寄れば、近くに人が並んでいるとのこと。そして懐中電灯で照らした先にはガゴゼ会のものがいた。
これはピンチ!
おーい、リクオー早く来てくれー!!
「ちっ…結構生きてんじゃねーか。あんまりトンネルが壊れなかったようだな…とにかく、ここにいる全員…」
取りあえず、時間は稼がせて貰おう。
いつも持ち歩いている番傘を持ち、子供達の前に立てばガゴゼと目が合った。うわっ、ニヤーってしたよ気持ち悪い。こっち見んな、もしくはサングラスかけろコノヤロー。
「皆殺しじゃ…若とお嬢、もろともな…」
『あんた達、危ないから下がってな。』
一歩足を踏み出してきた奴等を警戒し、番傘を構える。警戒心を怠らないようにしながら後ろにいるカナちゃん達にそう言えば、大人しく後ずさる音が聞こえた。よーし、良い子だ皆!
「ガガガ…そんな傘で何をなさるつもりですか?」
『…自分の目で確かめれば?』
傘の柄を引けば、刀身が出る。
そう、実を言うとこれは仕込み傘だ。そのまま一番近くにいたガゴゼの下っ端に刃を降ろし、斬り捨てる。
「んなっ…!まさか、武器を持っていたとは…。
だが貴様如きに殺られるわけが無い!」
武器を持っていると分かった途端、余裕そうにしていたガゴゼの顔が少し険しくなった。だが、道を引き返すつもりはないようで、直ぐさま攻撃命令を下している。
それを迎撃せんと、刀を握り直した時…
「おほ 見つけましたぜ若ぁ!
生きてるみたいですぜー」
トンネルの出入口を塞いでいた岩を退けて、奴良組の皆が現れた。月を背後に立つ夜リクオに思わず目を奪われる。我が弟ながらカッコイイ!
あ、目があった…
「おじょ…!!」
『(しィー!)』
私に声を掛けようとした本家の皆に対して、人差し指を唇に持って行って見せた。ギリセーフ!
今いつも通り仲良くしたら流石に可笑しいだろ。
バレるだろ。少しは頭を使いなさい!
「お嬢さんがた…大丈夫ですか?」
さり気なく聞いてきた首無に『大丈夫ですが、あちらは任せますね。』と言ってカナちゃんたちの元へ行く。人間の方は私が守るから、ガゴゼのことは任せたぞという意味だ。ちゃんと私の言いたいことを察した首無は、小声で返事をしてリクオの元へ行く。サンキュー首無! 流石イケメン!
一方、襲いかかるガゴゼ会を次々と潰していく奴良組。そして、遂に周り皆が殺られてしまい…追い詰められたガゴゼ。そんな奴が目をつけたのは、やはりカナちゃんたちだ。
「フハハハハ ざまぁみろ!こいつらを殺すぞ!?若の友人だろ!?殺されたくなければオレを…」
『私の存在忘れてない?』
刀で軽く斬り、リクオに向けて蹴飛ばす。そして飛んできたガゴゼに…刀を振り下ろすリクオ。ようしゃないですねぇ、恐ろしや。
「なんで…貴様のようなガキに!ワシのどこがダメなんだー!?妖怪の誰よりも恐れられているというのにー!!」
そう嘆くガゴゼに、リクオがゆっくりと口を開く。
「子を貪り喰う妖怪…そらァおそろしいさ。
だけどな、弱いもん殺して悦に浸っているそんな妖怪が、この闇の世界で一番の《おそれ》になれるはずがねぇ。
情けねぇ…こんなんばっかか俺の下僕の妖怪どもは!だったら!俺が三代目を継いでやらァ!!人にあだなすような奴ァ、俺が絶対許さねぇ!
世の妖怪どもに告げろ!
俺が魑魅魍魎の主となる!!全ての妖怪は俺の後ろで百鬼夜行の群れとなれ!!」
斬り捨てられるガゴゼに…
リクオに尊敬の眼差しを向ける人間と妖怪。
『…鳥肌が止まんないや。』
みんな、リクオにのまれている…私もだけど。
しかし、突如バタッと倒れたリクオにそれも終わる。顔を覗けば、涎を垂らし爆睡している昼リクオが…可愛い!
『あ、もしかしてさ、クオーターだから一日の四分の一しか変化できないんじゃない?』
私のその言葉に、次の瞬間、皆の絶叫がトンネル内に響きわたった。
トンネル内で騒ぐなバカ野郎!
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