この手に掴んだ幸せを(ぬら孫) | ナノ

▽ イタコ(鯉伴side)

「リクオ様ぁぁ!!
すすす凄いんですよ〜! 超☆常☆現象です!! なんだか分からないけど…突然死霊たちがドバーッと吹き飛んじゃって…! 空が晴れて、って…あれ?
昼のお姿に…新しい刀…
えぇ!? まままさか!? さっきの死霊、リクオ様が倒したんですかぁー!?」


右脇に気絶した鯉菜を抱えてリクオのもとへ行けば、色んな意味で興奮しまくりな氷麗がいた。どうやら先に着いていたようで、竜二や遠野のやつらもいる。


「おうリクオ、息災かい?」

「あっ、父さん…と、姉ちゃん!?」

「鯉菜様!? 二代目…お嬢に何があったんですか!?」

「いや…これはだな…」


心配そうな顔をしてこちらを見る二人に、ここに来る少し前のことを思い出す。





ーーーーーーーーーーーー




「…そもそも、何でそんなことをしたんだアイツは…」


オレの脳裏に映るのは、いつも飄々とした鯉菜の姿。時々無茶をするが…オレ達が哀しむことを知っているため、自分の命を疎かにすることはしなかった筈だ。だが、あの木を傷付けるなんて…自ら自分の居場所を失くそうとする自傷行為みたいなモンだ。


『自暴自棄になってんじゃない…?
大嫌いな兄貴が現れてあの発言、それに加えて大好きな先生は…無事なのかどうかさえ分からない。何もかもが嫌になっての…行動じゃないかしら。』


顎に手を添えて考えている夜の鯉菜はいやに冷静で、こちらが逆に不安になってくる。


「…もう…おさまったのか?」

『うんにゃ、まだガンガン木をなぎ倒そうと頑張ってる』

「止めろよ!!
何ボサーッと暢気に解説してるんだ!!」


もしこれで木が死んだら…あの空間にいる<昼>が死んじまうだろうが!! いや、もちろん夜のお前さんが死んでも困るけどな!?
焦って言うオレに、鯉菜はただ一言…


『どうやって?』


と聞いてくる。
どうやってっつっても…普通にあの空間にお前も行けばいいじゃないか。


『今アタシ全然眠くないし…
意図的にあっちに行くのは無理よ?』


なんだ…そういうことか…
そんなもん…!!


「強制的にブラックアウトすればいいだけのことだろうがぁぁあ!!」

『…げぅっ…!?』



ーーーーーーーーーーーー



ーという訳で
オレの華麗な絞め技のおかげで、今頃きっと<昼>と<夜>が素敵な出会いを果たしているのだろうが…、


「…まあ、こいつが『眠い』っつって寝出したから、オレが抱えてる…みてーな?」

「父さん!? それ甘やかし過ぎだよ!?」

「…というか…こんな状況でこんな場所でよく寝れますね…」


これ以上こいつらに不安を与えるのもよくねぇ。このことはオレと鯉菜二人だけの秘密にしておこう。
ーえ?
…ただ説明するのがめんどくさいだけだろって?
ふっ…よく分かってんじゃねーか!!
説明すれば、リクオなら直ぐ察するだろう…しかし、ここには氷麗に遠野妖怪、竜二たちもいる。妖怪と人間部分の二つがない奴に、精神世界の木の話やら何やら説明するの…ハッキリ言おう…ダルイ!!多分質問攻めにされるだろうからな!!
そんなわけでこいつのピンチは伝えません。いや、伝えない方が今はむしろいいだろう…


「泰世殿…!!」


ガララっと刀の山から起き上がってきたのは…リクオが倒した例の男。
やはりこいつは御門院家の者だったようで、秋房くんによると…その実力と厳格な性格で一角の人物として認められていたとのこと。
ってこたぁ、歴代当主ではないってことか…?
皆が泰世に警戒態勢を取る中、奴は最後の力を振り絞って口を開く。


「晴明様…晴明様…申し訳、ございません…!
秋房。そこの妖怪どももだ。貴様らがいくら正義をかかげようが…晴明様の御意志に歯向かえば、それは″清浄″の対象となる…
お前らに待っているのは″死″のみだ…」 


″清浄″…?
聞きなれない言葉にイマイチ何のことを言っているのかピンと来ない。


「クソ…こんな体たらくでは私は永遠の修験者だな…。寿命が来れば死ぬ運命か…
歴代当主″黒装御門院″″白装安倍姓″…結局オレには手が届かなかったか…」


そう言い遺し…気絶した御門院泰世。
清浄の正体が分からないため、ますます皆の頭が混乱する。


「知れば知るほどわからんことが増えてくる。13代目秀元がいりゃあ何か知っていたかもな…秋房!京に戻るぞ!」


情報を一刻も早く集めて対策を練ると言う竜二だが…、


「なあ、そこのお嬢ちゃん…イタコなんだろ?
13代目を呼び寄せられないのかい?」

「で…できますっ!」

「なっ…百石!?」

「父さんは何色気振りまいてんの!?
秋房さんで遊ばないで!!」


ウィンクして聞けば、顔を赤く染めて頷くイタコの百石さん。
いやー…オレもまだまだ現役だな!!
それにしても…百石さんの可愛らしい反応に、ショックを受ける秋房くんが面白い。これはなんと…からかい甲斐のある男なんだ…!!
こんな時になんだが楽しい。


そんなわけで、″口寄せ″を始める百石さん。
鏡を持ち、ブツブツと呪文のようなものを唱えている。
そしてー


「秋房…祢々切丸をようあっこから復元できたなぁ…」


静かにそう話す百石さんに、13代目が乗り移ったのかと身を乗り出す一同。
次の瞬間、


「あれー!? ここどこ〜〜〜!?
ゆらちゃん、また僕のこと呼んだ〜?
も〜春が来るまで寒いから呼ばんといてって言ったや〜ん☆
…って、アレ〜君らは〜?」


…13代目だな、これは。
外見が百石さんのまんまなだけ破壊力が半端ない…。そして何故か、彼女に13代目を呼び寄せてしまったことに罪悪感が湧く。


「秀元…話を聞いてくれ」

「あ。僕今イタコに口寄せされたんや?
ふ〜〜〜ん
…あれ? もしかして若い女の子? わーラッキー♪」

「話を聞けよ」

「秀元!! わーっわーっ」

「…オレもポックリ逝ったら若い娘に口寄せされたいねぇ…」

「それ母さんに言ったら…」

「言うな。男と男の秘密だぜ…リクオ!!」


竜二の言葉に全く耳を貸さずに百石さんの胸をペタペタと触る13代目。そしてその行動に涙目でパニックに陥る秋房…純粋な奴だな…。
そんなアホな光景がしばらく続き、ようやく13代目が落ち着きを取り戻したところで本題に入る。


「その清浄ゆうんは、妖怪″鵺″が暴れまくった時のことと違うか?」

「それって千年前のこと?」

「晴明の別名が鵺ゆーんは知ってるよな?
昼は陰陽師安倍晴明として人々から崇められ政治を操り、夜は"鵺"として百鬼を率いていたことも…」


話の続きはこう続いた…
千年前、腐敗した世を嘆いた晴明は自分の理想社会を追い求め…そのために絶対的秩序を唱え、それにそぐわぬ者・従わぬ妖を消していった…と。


「清浄の末…あらゆる里の妖の歴史はそこで一度断絶されたんや。」

「妖の歴史が一度…断絶? それってどういう…」

「ほぼ滅されたんや…部下にしていた鬼の眷属以外な。」


13代目の話を聞き、遠野に対する侮辱であると激怒するイタク。一方、竜二は京に帰ろうとしている。
そんな2人をリクオは呼び止めて…


「竜二さん! イタク!
きっとこれはボクらだけで片付く問題じゃない。
妖や人間…全てに関わる問題な気がするんだ…!!」


だから皆の力を貸して欲しいと告げるリクオ。
清浄が何処で起きてもおかしくない以上…皆で協力をしていこうと言うリクオに、竜二もイタクも(渋々だが)頷く。


「…リクオは頑張ってんぜ。
お前さんも…お姉ちゃんなんだろ?」


未だ眠る鯉菜に問いかけるも、返事が返ってくることはない。
これから晴明との戦いが始まるかもしれねぇってぇのに…


「…早く帰って来いよ」


まだ3日くらいしか経っていないが、既に1週間以上昼の鯉菜に会っていない気分だ。恐山を去ろうと立ち上がるリクオ達に続き、オレも立って鯉菜を抱える。
恐山の上にあるお天道様に願う事はただひとつ…


「またあいつとアホなことしてぇなぁ…」




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