この手に掴んだ幸せを(ぬら孫) | ナノ

▽ 亡者夜行

所変わり、青森県の恐山。

古来より退魔を志す修験者たちが集う霊峰…
その歴史故、妖が滅多に寄り付かぬ土地でもある。


「ここが恐山か…」

「なんだか異様な空気だなぁ…"恐山"って名前にもうなずけるぜ」

「いえいえリクオ様! 明るく明るく行きましょう!!」


荒れ果てた山に…ところどころ刺さっている可愛らしい風車。そのミスマッチな光景がかえって不気味な空気を醸し出している。


「イタク…来てくれてサンキュ」

『紫もありがとう』


遠野メンバーの中から唯一一緒に来てくれたイタクと紫。お礼を言うアタシたちに…紫は「いいよー」と返してくれたのにも関わらず、イタクはガン無視。


「……全然口きいてくんねーの、アイツ」

「ですねぇ…」


そんなイタクに困ったように話すリクオと氷麗。
…仕方がないなぁ、ひと肌脱いでやるか。


『…仕方ないわよリクオ。イタクは外来語が分からないんだから、ちゃんと日本語でお礼を言ってあげなきゃ言葉が通じないわ。
もしくは…単に耳が遠っ…!? 危ないな…』


勢いよく飛んできた鎌。
勿論犯人はイタクであり、こちらをじろりと見てくる。


「オメーは昼でも夜でも、失礼なところは基本かわんねぇのな。
…ったく、早く行くぞ。」


イタクの言葉に、一行は奥へ奥へと突き進む。
秋房は迎えに来てなく、それどころか彼と連絡さえつかないとのこと。つまり、自力でなんとか秋房のところへ向かわなければならないのだ。


『……はぁ…』

「眠そうだねぇ、昨日寝れなかったのか?」


アタシの何気ないため息に食いついたのは鯉伴。
気のせいか…? なぜか楽しそうに見えるぞ。


『…昨夜、大きな蠅が何回も部屋に入ってきて…気持ち悪いからその度に明鏡止水をぶっ放してたのよ。本当、虫って嫌よね…』


そもそも今は冬だぞ?
何であんなブクブクに肥えた気色悪い蠅が何回も入ってくるんだよ。冬眠でもしとけばいいのに…いい迷惑だったわ。
ーなんて思い返していれば、


「…なぁ、姉貴。
それって迷い家のやつじゃねーのか?」

『迷い家?』


リクオの言葉に、なんのことだと頭が疑問で埋め尽くされる。迷い家って確か…果てしなく続く廊下や部屋で、客人を惑わし続ける怪異だろ。何で蠅とその迷い家が関連あるんだ。
そこへ、イタクがネタ晴らしとでもいうかのように口を開く…


「リクオと同じように仕掛けたんだがな…
鯉菜のやつ…畏を解く鍵である蠅を速攻で燃やしやがった。何回仕掛けても、蠅が出てきては直ぐに葬り、そんでまた直ぐ寝てたんだ。」

「…なるほどな。
それじゃあ怪異にも気付かねぇわな」

『要は、あのうるさくて気持ち悪い蠅はアンタが原因だったってわけね? イタク…』

「…オレじゃねぇ、淡島だ(嘘)」


淡島…帰ったらぶち殺す。人の安眠を妨害する奴は許さぬ。そう小さな決意を胸に秘め、前に進んでいるとー


『…手が生えてる。』

「あ? 何言って…本当だ。手が生えてらぁ…」


地面からボコッと生えている右手を発見。


『…鯉伴。握手してあげなよ。』

「…お前が握手してやれよ。
オレなんかより可愛いお前の方がきっと喜ぶぜ?」

『2代目で奴良組の最盛期を記録した鯉伴の方が喜ばれるって。ほら、早く。』

「待て。本当にこれ握手を求めてんのか? オレ達にいってらっしゃいって見送ってんじゃないのか?」

『そういえば…』

「どうした…」

『ド〇クエでこんなモンスター居た気がする。』

「じゃあこれ実写版じゃね?」

『すごい…リアルだね。』


私たちの会話が聴こえてるのか…人指し指と中指を立てる手。ピースってされてもねぇ…もはや笑えばいいのか怖がればいいのか分からないんですけど。


『取り敢えず撮っとこう』


そう言ってスマホを取り出せば…なんと、その手にスマホを取られたではありませんか。せめて手を洗ってから取って欲しかった。泥だらけになるじゃん。


「…ん? そうか! これ…鯉菜、来い!!」

『うわっ!?』


なにか分かったのだろう…指をパチンと鳴らしてアタシを引き寄せる鯉伴。急だったためバランスを少し崩すも、支えてくれたため倒れずに済んだ。
そしてー


ピロリん・。♪*+o

『…ぇー…まさかのー…』

「やっぱりな!! ちゃんと撮れたか!?」


こちらにスマホを向けて鳴った、聞き覚えのあるメロディ。恐る恐るスマホを取り返して見てみると…


「よく撮れてるな…」

『アタシより撮るの上手くね?』


鯉伴とアタシのツーショット写真が…!! ブレもなく、鮮明で、プロ並みのカメラマンの腕だ…いや、手だね。2人で撮った画像を見ていれば、突如その手の周りからボコボコと土が盛り上がる…
すると現れたのは…


「…おっおっおっ? おお〜??」

「し、死霊!?」

「こ、こっちに向かってくるわー!?」


一心不乱に襲ってくる大量の屍。
そんな屍を真っ先に吹き飛ばしたのはイタクで…


「…さすが恐山だな。
いきなり死者がお出迎え…ってとこか」

「修験者の服着てるぜ…
ここで修行していた連中か…!?」


鯉伴やリクオの言葉を聴きながらも辺りを見渡せば、怪しい黒ずくめの男を発見。


『…ねぇ、あの人のつけてる手袋…』

「ありゃあ…!! 五芒星じゃねぇか!!」

「生き死にを操るのは晴明の十八番…!!」

「ってことは…御門院かっ!!」


確か名は…泰世と言ったか?
御門院の1人だと気付き、泰世の元へ向かおうとするも…大量の屍に囲まれて誰もが行く手を阻まれる。しかも斬ってもバラしても復活するときた…。
キリがない敵の多さに、焦り出すリクオ。
だがー


「奴良リクオ!! 早くその男を追え!!
そいつが御門院なら秋房がやばい!!
何してる、早く行け!!」


あの妖怪嫌いな竜二が…リクオに「先に行け」と言う。これは竜二がリクオの強さを認めており、そしたて信頼していることへの証拠だろう…
だったら、


「だ、だがっ…!」

『リクオ
妖怪嫌いで素直じゃない竜二がこう言ってんだ…。無粋なこと言ってないで、さっさと行きな。』

「そうだぜ。
どうせコイツらいくら倒しても意味ないだろうしな…オレ達のことを思うならさっさとあの男を倒してきてくんな!」

『「安心しろ、鯉伴/鯉菜のことはアタシ/オレがちゃんと見張っとく!!」』


不本意にも見事なハモリに、一瞬キョトンとするリクオだが…
次の瞬間、「任せたぜ」と笑って去っていく。


「夜のお前さんとの共闘は初めてだなぁ?」

『…このうえなくダルいわ』

「おいおい…相変わらずだな…」


お互い、エモノを手に取って走り出す。
立ち向かう先はー…大量の屍。
リクオが祢々切丸を手に入れるまで…あと少し。




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