この手に掴んだ幸せを(ぬら孫) | ナノ

▽ グロテスクスイーツ

「お待たせしましたー!
デカ盛り遠野スペシャルあんみつですーーー!!」


遠野唯一の甘味処「愛宕屋」。

お馴染みの遠野メンバーに加え、赤河童、竜二、氷麗、リクオ、鯉伴、アタシの大人数で、空席を埋めるアタシたち。
甘いモノを食べに来たのだろう他の妖怪も、あまりの多さにげんなりして帰ってゆく…申し訳ない。でもいかんせん、場所を変えることができないのだ。
なんせー


「おぅ、こっちだ。これよこれ…
前来た時食べたくて仕方なかったんだ。」


リクオがこれを食べたいと譲らなかったんだ。
ソフトクリーム…ホールケーキ…板チョコ…モナカ…ポ○キー…フルーツ…大量の甘いモノとフルーツが「これでどうだ!!」と言わんばかりに盛られている。最早おいしそうではなくグロテスクの域だ。
そんなグロテスク盛りホラーあんみつを美味しそうに、ものすごく速いスピードで消費していくリクオの舌は味覚障害かもしれない…。将来、糖尿病にならないか心配だ。


「…美味そうじゃねーか」

え。

「オレも一つ頼む」

は。

「私も」

「ワシも貰おうか」

…そうか…

「オレも戴こうとするかねぇ…
鯉菜、お前さんはどうする?」

『…全力で遠慮させていただきます』


どうやら味覚障害はアタシの方だったようだ。

しばらくして、テーブルの上に所狭しと並ぶ幾つものグロテスクスイーツ。
リクオのだけでも見ていて胸焼けがしたのに…これはアタシへの連携いじめプレーなのだろうか。裏でこそこそ打ち合わせしていたんじゃないのか貴様ら。


「フム…甘い物でも食べながら気を安めんと、これから言うことは恐ろしくて舌がまわらんよ…奴良組の若大将、気のきいた場所を選んだな。」


偶然です。
アンタへの気遣いは全くないぞ。こいつの脳を占めているのは今「糖分」…それだけだ!!


「鯉菜、あーん」

『………』


そこへ突如、ドンッ!!と置かれた大量の古い資料本。
どれだけ古いのだろうか…昔の古びた紙のにおいが凄い。そしてそのにおいと甘い物の匂いがデス・ハーモニーを奏でている…!!


「遠野武勇伝口伝の書…
遠野は様々な時代、様々な百鬼夜行に兵を出し戦果を挙げた…その口伝を江戸期に書にしたものじゃ。全部で四万冊はある。
記したのはこの者…文車妖妃ちゃんじゃ。」


そう語った赤河童の後ろから現れたのは…
かわいい顔をした巨乳メガネっ娘。


「どうも!
全国を巡回し、妖怪の歴史をつむぐ妖怪界の書記係、文車妖妃です!!」


どうやら彼女の能力は、僅かな情報でもその者をとらえ…文と絵にしてしまうらしい。


「そうかい。
じゃあアンタが書いたこの記事の説明をしておくれよ。全員の脳ミソが困ってんだ」


そう言って…リクオがトントンと指差したページには、御門院家歴代当主が並んだ絵が…。
ここに来る数刻前、赤河童がこれを持って来て言ったのだ…恐山に行く前に御門院家のことを聞いて行け、と。


「あぁ〜はいはい、この絵ですか〜」

「なんで昨日今日見た男が250年前の絵にいるんだ!? 他人の空似ならそー言えよ!?
ま、そうじゃねーと人間が250年生きてることにならぁ…なぁーイタクー」


大声をあげたかと思いきや、今度はノンビリとイタクに同意を求める淡島。
…前から思ってたけど、淡島って面白いよね。
だが、そんな淡島に不車さんはー


「250年前? それは描いた時の話でしょ。
口伝なんだからもーっと大昔の一コマよ、それ。
…大体400年前ってとこらかしら。」


矛盾した答えを返された一同はなおさら混乱に陥る。不穏な空気が流れる中、カチャカチャと急に音が聴こえ始める…


「そこの…あんみつも…取ってくれ…」


音の元凶は赤河童の持つスプーン。手がブルブルと震え、スプーンとあんみつの器が何度もぶつかり合っているのだ…。


「なんだよ。もったいぶらずに言え。」

『…先に自分のあんみつを食べ終われば?』

「鯉菜、あーん」


リクオが早く言うように催促したため、赤河童は覚悟を決めて…ゆっくりと口を開く。


「"泰山府君祭"
安倍晴明が究極の目標だった反魂の術を研究する中で…並行して研究を続けていた術…
人を延命させる呪術だ」

「なるほどねェ…
それでこの「歴代当主」の絵に載ってるのか」

「……御門院家は…晴明の遺した意思を守るためだけに存在し続けたという。その術が一子相伝の術として受け継がれていたとしても不思議じゃない。」


ようやく明らかになってきた御門院家の正体に、ますます空気が重くなる。淡島や雨造…いや、雨造は色濃いから分からないけど…顔色が悪くなってきている。


「晴明…そして御門院家の力はまだ計れぬ…ワシらのような古い妖怪は消されるかもしれんのう…
イタク…淡島…
本心は…関わってほしくない、ぞ…」


ストレスで胃が痛いのだろう…テーブルに寄りかかり、胃を押さえている赤河童はそう本心を告げる。
シーンとなる中…
そこでガタっと席を立ち上がるリクオ。


「冷麗…オレと姉貴、親父、竜二の分の防寒着を頼む。赤河童のおっさん、世話になった…このあんみつ置いてくぜ。」


羽織を翻しながら、赤河童らに背を向けて歩き出すリクオ。その背に赤河童は「やはり行くのか」と声を荒げる。


「おっさん…
今の話が本当だとすれば、確かに御門院の力は底知れねぇ。
だが…オレが選んだ先には必ず晴明がいる。
たとえそれが修羅の道だとしても…この道は絶対譲れねぇ。」


リクオの言葉に…
赤河童はため息を吐き、
遠野メンバーは「リクオらしい」と笑い、
中でもイタクは「オレも行く」と言う。
どこまでも真っ直ぐな言葉で、真っ直ぐに進むリクオだからこそ…皆もついて行きたくなるんだろう。


「…立派になったもんだなぁ」

『…そうね…』


それに比べて…アタシは一体何をしているのだろう。リクオが晴明や御門院を倒そうと立ち進む中、アタシは〈昼〉1人さえも助けられずにいる…。
そんなアタシの考えを見透かすように、鯉伴が問うてくる。


「…昼のお前さんは…まだ出られねぇのかい」

『………』

「…そうか」


無言を肯定と取ったのか…困ったように笑う鯉伴。
そしてー


「…このスペシャルあんみつを食えば…昼も顔出すんじゃねぇか?」


…なに甘い物で釣ろうとしてるんだこの人。


「ほらほら、遠慮しねぇで食えよ」

『要らんって言っ…んむっ………もぐもぐ…!
うぇ…甘っ………』

「…親父と姉貴は何してんだよ」


無理矢理口の中に甘いケーキを突っ込まれ、挙句の果てにリクオに呆れた目で見られる。
アタシ達が騒ぐ一方で、冷麗は防寒着の準備をし…
竜二、氷麗、リクオ、鯉伴、イタク、紫…そしてアタシの7人で恐山にいざ出発。


「よし…じゃあ恐山に行くぞ!!」



(『…胃が…もたれる…』)
(「甘い物食べ過ぎたんじゃねーのか?」)
(『……皆が真剣な話してる時にひたすらアタシの口に無理矢理甘いものを突っ込んできた奴がよく言うわ』)
(「おぉ…よく噛まずに言えたな。」)
(『…………』)
(「姉貴…諦めろ…」)




prev / next

[ back to top ]


×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -