この手に掴んだ幸せを(ぬら孫) | ナノ

▽ 〈忠告〉

『……土砂降り…ってか、もはや台風?』


あまりの眠気に勝てず、つい精神世界にログインすれば…そこは見慣れた筈の光景が激変していた。
なんだこれ…
いつも満開に咲き誇る桜は枯れ果てており、槍のように雨が降り注ぐ。


『……まだ腐ってるか』


取り敢えず
その桜の木の元へ向かえば、気の根元で一人たたずむ姿が…アレは〈昼〉だ。
まだ心の整理がつかないのだろうか…いや、ついてなくて当たり前だ。まだ1日しか経っていないのだから…。
それでも、〈昼〉には早く立ち直って貰わないと困る。いつ何処で、先生の姿をした兄貴と一戦交えるか分からない以上…このままで居てもらっては駄目だ。


『………アタシがアンタの兄貴を殺るのは簡単よ。
先生が助かるかは分からないけど…』


そうー
アタシが妖怪でも何でもない…あの兄貴を殺るのはいとも容易いことなのだ。泰具が邪魔しなければの前提だが…。


『でも、これはアンタの過去の問題よ。
過去を清算する…唯一の…チャンス。
アタシは…アンタがケジメつけるべきだと思う』


〈昼〉のことを知ってるから分かる…
鯉伴や若菜さん、リクオ達がいる家族の他に、また別の家族が〈昼〉の心を巣食っているのを。ふと思い出しては悩み、後悔をするのを見てきたからこそ…


『鯉伴だって…本当の意味で、やっと前に進めたんだ…今度はアンタの番なんじゃないの?』


何を言っても反応しない〈昼〉に、やっぱり今回もダメか…と溜息を吐く。


『…ん…、どうやら時間のようだね…』


徐々に薄くなっていく自分の体に、もう起きる時間なのだと察する。
結局、終始なにも言わなかった〈昼〉…

ー 何と声をかけるのが正解だったのか。
ー アタシじゃ〈昼〉を助けられないのか。

どうすれば…と思いながらも、
最後に目に止まったのは…枯れた桜の木。

身体が消えゆく中、アタシが残した言葉は…


『…分かってると思うけど、くれぐれも馬鹿な気を起こすなよ』


ーという…〈忠告〉だった。




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