「嘘にも限度ってモンがあるでしょうがぁぁあああああ!!!!」

「グボアァァァ!!!」


どうも。
夜の鯉菜です。何やら騒がしい声がするぞ、と騒ぎの元へ向かえば…


「一瞬本当に死んだかと思ったじゃん!! せっかく傷治してくれたのに…感謝のかの字も消えてなくなるよ!!」

「ハハッ、わりーわりー!」


どうやらリクオも鯉伴に騙されたようだ。
白装束を着た鯉伴の近くにはお線香が焚かれている…
アタシの時よりも仕掛けが凝ってるぞ。
一方、またこんな悪趣味なドッキリを仕掛けるとは…鯉伴はまだ懲りてないようである。死んだふりなんかして一体何がしたいんだこの親父は…。
そんな事を思っていればー


「…夜の…姉ちゃん?」


アタシを呼ぶその声にハッとして前を向けば、リクオと目が合う。


『…怪我、大丈夫?』

「え? あ…うん!! もう大丈夫だよ!! 姉ちゃんが治してくれてたおかげで大した事ないんだ。」

「リクオ。父さんも治したんだぞ?」

「父さんはうるさいからちょっと黙ろうか。」


何この子、怖い。
いつも精神世界から見てたからそんな事思わなかったけど…いざ目の前にすると昼のリクオ怖いな!!


「姉ちゃん…
この後会議があるんだけど、一緒に出てくれる?」


リクオの真剣な目は…最早アタシに拒否することを許さないような鋭さをしている。
きっと前世のことやあのクソ兄貴のこととかについて聞かれるのだろう…面倒くさい。正直逃げたいところだが、ここはOKを出す。


『いいよ。じゃあ、準備が出来たら行こう』





そんなこんなで、所変わり大広間。


「1日半寝てたぜリクオ」

「ゴメンゴメン。それで…どういう状況?」


リクオの言葉に木魚達磨が現状を説明する。


「まず…百物語組は耳、口、鼻以外死亡、または消息不明。そして奴良組ですが…こっちも大分被害を被っております。シマの畏は安定とは言い難く…圓潮の流した救世主の噂は人々の間で未だ根深いようです。」

「そこに新たな敵、御門院家か。
実在しとったとはのう…」

「圓潮は早めに始末しておきたいところだ。」

「嫌らしい奴が残ったもんだよな〜倒しとけよ。」

「どれくらいの畏が〈救世主〉の噂にいってしもうたのかのう…」

「うぅむ…」


各々が現状について頭を悩ます中、チラチラとこちらに視線を寄越す者が数名。
…いや、数名どころじゃない。
もはや全員こちらをチラ見ングしてくる。…正直言ってウザイことこの上ない。


『さっきから何。
言いたいことあるならどうぞ?』


そう言えば、シン…となる部屋。何なんだお前らは。


「お嬢は今…〈夜〉のお嬢なんですよね?」


この沈黙を一番最初に破ったのは首無。


『…そうよ。
昼の姿であれ、夜の姿であれ、目が紅ければ〈夜〉のアタシだと判断して構わないわ。』

「…逆に、どんな姿であれ、目がオレンジ色であれば〈昼〉のお前さんってことでいいんだよな?」


鯉伴の質問に『そうよ』と肯定すれば、ここぞとばかりに一ツ目が声を荒げてまくし立てる。


「鯉菜様とあの男はどういう関係なんですかねぇー! ただの教師と生徒の関係かと思いきや…兄妹なんて言ってましたけど? 失礼ながらお嬢は本当に2代目と血の繋がりがあるんですかい?」


その言葉に青や黒などの側近からブーイングが殺到する…が、
…これ、もし本気で言ってるのだとしたらー


『ｸｽｯ…
一ツ目はあまり…頭がよろしくないみたいね。』

「な、何ィィィ!!?」

「ちょっ、姉ちゃん…!?」


ドードーとアタシを落ち着かせるように言うリクオには悪いけど、アタシは今とても落ち着いてる。


『もし鯉伴と血の繋がりがなければ…アタシに明鏡止水や鏡花水月の技が使えるわけないでしょう?』

「じゃああの兄妹って言ってたのは何なんですかねぇ!? 説明して貰いましょうか!?」

『…前世の兄よ。
正確には、〈昼〉のアタシの前世の…ね。
晴明の差し金でどうも先生の体を乗っ取っちゃったみたいよ。いい迷惑だわ…。』


私の言葉にザワザワと部屋が騒がしくなる。
あの場にいた者は何となく察しがついていただろうが、いなかった者からしたら『前世の記憶がある』なんて…驚きの告白かもしれない。


「ですが…話によると、そのお兄さんは鯉菜様を殺そうとしたのですよね?」

「普通…兄が妹を殺すか?」

「酷い恨みを持っていたみたいですよ…」

「聞けば、兄を裏切ったとか…」


好き勝手言う奴等に、怒りがフツフツと沸いてくる。確かに、アイツの言葉だけを聞いたら〈昼〉の方が悪い事をしたように聞こえるだろう…
でもー


「おい、オメーら。
何があったか事情も知らねぇで…向こうの言葉や噂に振り回されてんじゃねぇよ。みっともねぇ…」


アタシが思っていたことを代弁するかのように、口を開いたのは鯉伴で…


「落ち着け。殺気…洩れてんぜ?」


アタシを安心させるかのようにニッと笑いながら、小声で言う鯉伴。
そこへー


「じゃあ…夜の鯉菜様よぉ、前世でその兄貴とやらと何があったのか、詳しく話してくれやせんかねぇ?」


煙管を吹かしながら、こちらをジロりと見て言うのは一ツ目。何でお前はいつもアタシやリクオに突っかかるかねぇ…。一体何が気に食わないのか…よく分からん奴だ。

取り敢えず…


『…その要望には応えかねるわ。』


アタシの言葉にまたもやどよめく広間。皆の声を代表して、ぬらりひょんが「どうしてじゃ」と問う。


『…アタシと〈昼〉は…確かに2人とも鯉菜よ。
でも前世の記憶を持って生まれたのは〈昼〉の方。
その〈昼〉から…アタシは口止めされている。
前世での出来事を決して誰にも言うな、ってね。
だから…
前世での事を知りたいなら直接あの子に聞きなさい。アタシからは…何も言うことはない。』

「…そういえば、昼の姉ちゃんはどうしたの?
いつもだったら…その、昼が出てるよね…?」


流石はリクオ…鋭いな。


『…昼は今…出る事ができないわ』


アタシの言葉に、リクオだけでなく皆が訝しげに眉を寄せる。
どうしてだ?とそう聞いたのは鯉伴で、皆もアタシの答えを待つ。


『…腐ってんのよ』

「え?」

『精神的に…腐ってんの。
〈出ない〉んじゃなくて、〈出られない〉状態なのよ…。だからアタシが、代わりに、出てる。
ただ…それだけよ。』



prev / next

[ back to top ]