この手に掴んだ幸せを(ぬら孫) | ナノ

▽ 嘘

『ん…』


眩しい光に意識が浮かぶ。
刺すような眩し過ぎる光に目を細めていれば、声を掛けてくる者が…


「おっ、起きたか鯉菜!
リクオよりは早い目覚めだな。」

『…………てめぇ、鴆…朝からサカってんじゃねぇ!!毛ぇ毟るぞ!!』

「グフオッ!!?」


何だお前…なに人の胸元いじくってんだ、この変態野郎め。そんな事を思いながら鴆を足蹴にすれば、胸に痛みが走る。
あぁ…そうか、そういえば胸を刺されたんだっけ?


「おまっ…人が胸の包帯替えてんのに蹴るやつがあるかぁぁくるぁあああ!! それと今は朝じゃなくて真昼間だバカ野郎!!」

『…ってぇな…』


ゴンっと頭に拳骨が降ってくる。
それが病人にすることかよ…なんて鴆をジロりと睨み付ければ…


「…! アンタ…昼じゃなくて夜の方か!?」

『……ふんっ、悪かったわね。昼じゃなくて。』


目の色が紅いことから気付いたのだろう。
びっくりしたように鴆が尋ねる。…アタシだって好きで〈出てる〉んじゃない。仕方が無いから、アタシが嫌々ながらも出てるんだ。


『それにしても…傷、治してくれたの?』


不思議とそこまで痛まない傷について問えば、鴆が言いづらそうに後頭部を掻く。
…何があったんだ。



「落ち着いて聞け…鯉菜。
実はなー…」




鴆から話を聞き、慌てて部屋を出る。


『…何やってんのよ…あの野郎っ…!!』


向かう場所は父・鯉伴の部屋。
鴆の話によると、私とリクオの怪我をほとんど治してくれたらしい。ただ…私の傷の深さとリクオの傷の多さに、鯉伴の体がもたなかったとのこと。


『何で…何も言わなかったんだよ、鴆…!』


無事なのかと問うても、ただ唇を噛み締めて押し黙る鴆の姿を思い出す。
あんなの…「ダメだった」って言ってるようなものじゃないか…っ!
嫌なことばかりを想像してしまうアタシ自身を叱咤しながら、ひたすら足を進める。溢れ出しそうになる涙を目に溜め、ようやく鯉伴の部屋に着き…
勢いよく部屋の障子を開ければー


『…う、そ………鯉、伴…?』


いつも少し散らかってる部屋が綺麗に片付いており、部屋の中心には布団で横たわる鯉伴。
両手は胸の上で繋がっており、
顔には…白い布がかけられている。


『やだ…よ……そんなの…鯉伴っ…』


涙が止めなく溢れてきて、身体から力が抜ける。布団で静かに眠る鯉伴に縋れば…もはや感情を制御できなくなり、泣き叫ぶ…


『いやぁ…お父さん!! お父さあぁぁん…!!
うっ…ぅぅ…うあああぁぁぁぁぁぁ…!!』

「…鯉菜、パパはお前を愛してるぞぅ☆」

『……え…? お父…さん…?』


鯉伴に抱きついて泣いていれば、何故か幸せそうな顔をした鯉伴に抱き締められているアタシ。
…何がどうなってるんだ。誰か、説明を求む。


「悪ぃな…鯉菜。2代目がどうしてもって言うからよぉ…その、……見ての通り2代目は元気だ…。倒れたのは事実だがな。」


部屋の戸に寄りかかり、バツの悪そうな顔でそう謝る鴆。
あぁ…そうか。そういうことか…。つまりはこれは…アタシは騙されたのだ。


『…鯉伴』

「なんだい? …って、アレ?
お前夜の方か! 紅い目をしたお前も可愛いなぁ!」

『……ついていい嘘と、悪い嘘があるの…分からねぇのかこの色ボケクソ親父ぃぃぃぃ!!!』

「ぐああああああ!!!!」


今まで何度も(昼が)鯉伴に関節技をかけてきたが、その中でも「今回の技が1番容赦なくて痛かった」と鯉伴は後に語る…。



(「…いてててて…」)
(『…傷、治してくれたんだって?』)
(「あ? まーな…あともう少しで心臓貫いてたぞ。危なかったな…」)
(『……ありがとう、治してくれて。』)
(「…おう。」)




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