▽ 弱い
「いいんだな…鯉伴、リクオ」
おじいちゃんの最後の確認に、お父さんとリクオは顔を見合わせて頷く。
「ああ、羽衣狐は京妖怪の大将だからな」
「オレと乙女も想いが通じ合えたしな…。
これで互いの道を歩める。」
その言葉におじいちゃんは頷き、羽衣狐が京妖怪の元へ引き渡される。そしてありがとうとお礼を言いながら、狂骨は羽衣狐の手を握る。
「この方があたしらの象徴なんだ。他についてくものなんていない…唯一の妖なんだ」
「すまない。恩にきる」
いつ駆け付け来たのか分からないが、白蔵図も一緒にお礼を言う。
『…良かった。』
「え?」
『…貴方達みたいな京妖怪がいて良かったなって。〈乙女さん〉でもない、〈羽衣狐〉でもない、ただこのヒトのことを慕う貴方達がいて…良かったって。
…貴方達みたいな京妖怪がいてくれて…このヒトも嬉しいと思う…から。』
「……ありがとう。」
残った京妖怪を「しっかりしろ!」と一喝して束ねる狂骨…。彼女も強いなぁ…あの子だけは羽衣狐の側にずっといて欲しい。そんなことを想いながら…羽衣狐を連れ、どこかへと去る京妖怪の後ろ姿を見送った。
同じく京妖怪の背を見送るリクオが不意に口を開く。
「…京妖怪は京妖怪なりに信念があった。
そんな信念を裏切って…百鬼夜行の主を名乗り、そして親父と…親父の愛したひとを手にかけた。
オレはあいつを絶対に許さない。」
「リクオ…」
「てめぇで前面きってぶつかる気か」
煙管をふかし、二ィっと笑いながら聞くおじいちゃんに、リクオは堅く決意した顔で返す。
「進ませてもらうぜ、止めんなよじじい」
たった何ヶ月かで…
よくこんなに頼もしくなったものだ。
日が明け、
取り敢えず花開院家に一同移動する一行。
「うおい!! ここが花開院家本家かー!?」
「ちょっくら邪魔すんぜ!!」
「おーい並べオレの組!! 点呼取るぞー」
さすが妖怪…陰陽師がウヨウヨいるのに、堂々と好き勝手やっている。ちなみに、私もリクオも昼の姿にチェンジしております。
「悪夢や…ぬらりひょんだけは家に入れたらアカンって言われとったのに」
『差別だ。妖種差別だ。』
「やかまわしいわ。
余計なことしよって…狂骨たち見逃したんは悪行やで…まったく。
…浮世絵町にはしばらく戻られへんかな…」
「そっか…」
皆に会えなくなるのが少なからず寂しいのだろう。暗い顔をして言うゆらに、リクオも少し暗い顔でただ一言返す。
「秋房兄ちゃん」
「…ゆら……と、確か鯉菜さん…?」
『覚えてくれてたんだ…。怪我はもう大丈夫?』
「え、ええ…お陰様で、ほぼ治ってます」
なら良かったと笑いながら、リクオへと場を譲る。リクオが秋房さんに用があるだけで、私はただの付き添いだからね。ちゃんと空気読みますよ。
「奴良組若頭奴良リクオと申します。
ゆらさんに聞きました…秋房さんが妖刀造りの天才だって。これを…」
「え…」
粉々になり、刀身のなくなった祢々切丸を秋房さんに渡すリクオ。
「あなたにその刀を超える刀を作って欲しい。
晴明を倒す為に!!
お願いします。共に闘いましょう!」
力強い目付きで言うリクオに、秋房だけでなくゆらも息を呑む。そこでひょっこり現れて、秀元も協力すると告げる。
「ボクも協力するで♪ 知ってること全部叩き込んだるよ、まぁ君なら出来るやろ」
その言葉に涙ぐむ秋房さん……今まで辛かったのだろう。ようやく今までの努力が頼りにされる日が来たのだ…。
『…君ならできるって言うより、秋房さんにしか出来ない、でしょう?』
「!!
…わ…私でよければ…この力でよければ…!」
「ありがとう!」
良かったなぁ…秋房さん!!
ジィーンとしてウンウン内心頷いていれば、ムードブレーカーが早速ご活躍なさる。
「おおーい奴良くぅーん!」
空気読めよ!! ワカメぇぇえ!!
「リクオ君やっぱり来てたの!?」
「カナちゃん!! 清継くん!! みんな!!」
清継率いる清十字団が現れる。
「超絶遅いよ奴良くん〜!! 見なよこれ!!
全部妖怪のせいなんだよ!!
で、どうやって来たの?」
「え? えーっと…」
いきなりの質問にたどたどしくなるリクオ。
仕方ないなぁ……
『リクオも私達と一緒に京都には前から来てたよ。ただ、途中ではぐれちゃったから…今まで迎えに行ってたの。』
「そうだったんですか!」
「だから先輩いなかったんですねー」
「それにしては2人とも…ボロボロじゃないか?」
『坂本先生…いたんですか。』
「いたけど!? お前がここに連れて来た時からずっとココにいたけどぉ!?」
ワイワイと騒ぎながらも、皆無事であることを確認する。リクオを囲み、清十字団+先生がワイワイと騒いでいるのを確認し、私はコッソリとその場から離れた…。
『……はぁ、何だかなぁ…』
「どうしたんだぃ? お嬢さん。」
『…鯉さん』
誰も居ないと思って呟いたのに…。
本当、プライバシーの欠片もないよ。油断大敵。
「悩み事なら相談にのるぜ?」
ニッと笑うお父さんの顔を見て、少しホッとする。乙女さんのことで落ち込んだりしてるのかと思いきや、案外そんな雰囲気は感じ取れない。むしろ、スッキリしたような感じだ。
『悩み事…ねぇ。』
…別に悩んでなどいない。
これでやっと一段落付いたし、次の大イベントまではまだ充分時間がある。
……次何だっけ。リアル鬼ごっこ的なやつだっけ。帰ったらノートを確認しよう。
「……あの時、晴明に何されたんだ?」
『………。』
そうー…悩んではいないけど、そのことが頭から離れないのだ。前世のことを思い出し、そして晴明の〈偽りの娘〉発言…。
『悩むって言うよりはMPを削られた感じですね』
「MP? なんだいそりゃ。」
『メンタルポイント。』
「……〈偽りの娘〉ってやつかい?」
ストライク! 直球ですね…
『まぁ、それもあるけど…うん。
大丈夫だから忘れて? エリクサー飲んだらMP確か回復するから。大丈夫だから。忘れましょう。』
本当、忘れてくれないと…追及されても困りますわ。
知らんしか言えへんわ。
これ以上の追及を許さないかのように、私はケラケラと笑いながら歩き始める。
だが、そんな浅はかな私の考えを見透かしているのか…お父さんは私の背に言葉を投げ掛ける。
「……鯉菜。
誰かに頼れる事も、強さの一つだぞ。」
暗に、オレたちを頼れと言っているのだろう。
でも…
『…知ってるよ、そんなこと。』
知ってる。
頼る事ができる人は強いってことを。
そして
『…知ってる。私が…弱いこと。』
弱いから、頼ることができない。
もしくは、頼ることができないから弱いのかもしれない。
どちらにせよ…
『私は……弱い…。』
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