この手に掴んだ幸せを(ぬら孫) | ナノ

▽ 山吹乙女(リクオside)

祢々切丸を粉々にされ、今度こそ殺られると思った時、


「羽衣狐…!? 親父…!!」


目の前にオレを庇うように出てきた羽衣狐。
そしてオレたち2人を守ろうとする親父。
このままじゃ親父が殺られる…!!
嫌な予感と共に冷や汗が滝のように出るが、それは現実となることはなかった。


「……なに……?」


安倍晴明の魔王の小槌を持つ腕が突如爆発したのだ。振り返る晴明の視線の先には…


「……姉貴っ…!?」


銃を構える姉貴がいた。
すると、突然目の前に光の壁が出てくる。


「…壁…?」

「…いやっ、こりゃあ結界だ!
鯉菜! 逃げろ!!」


親父の言葉によく見直せば、確かにそれは結界だった。まるで…周りの者の邪魔を許さないかのように、姉貴と晴明を取り囲む結界。


「…くそっ!! 斬れねぇ!!」


長ドスで結界を壊そうとする親父だが、傷を付けるどころか結界に刀が弾かれる。


「黄泉葬送水包銃ー!」


こっちに来たゆらも技を繰り広げるが…効果はない。


「姉貴…っ!!」


結界の中では、晴明がゆっくりと姉貴に近づいて行ってる。


「地獄で見た時から何か…貴様には違和感を感じておった。だがその違和感の正体がようやく今にして分かったぞ。貴様は…
貴様こそが〈偽りの娘〉ではないか。」


偽りの娘…? どういうことだ。
さっきあいつはオレに〈鯉伴の真の息子〉って言ってた筈だ。それが…姉貴は〈偽りの娘〉…? オレと姉貴は血が繋がってねぇのか?


「私は千年も待ったというのにな…皮肉なものだ。」


そう言いながら、人さし指と中指を姉貴の額に当てる。姉貴に触るなと叫ぶものの、無視をして印を施す晴明。


「恐れるな。
ただ、〈見る〉だけだ。」

『……っあ…ぁぁ…』


いったい何の術を姉貴にかけているのか分からないが…姉貴の顔色が段々と悪くなってゆく。


『…うぅっ…!』

「おい…ゆら、アイツぁ何してんだ…!?」

「わ、分からへん…!
取り敢えずこの結界を何とかして破らな…!!」


式神を使ってもビクともしない結界…一方、中ではより一層苦しみだす姉貴。


『…っ! やめろ!!』

「! ほぅ……」

『……ヤメ……やめてぇえええ!!!』


後ろ姿からでは顔の表情が分からないが、まるで興味深いとでも言うかのように声を漏らす晴明。
一方、何度も何度も…やめるように涙を流しながら言う姉貴。
そしてついに…


『…ぅ…ぅあァ…ぁぁあああああああああ!!!』


頭を抱えながら叫び、姉貴は地に倒れる。


「てめぇ…! 姉貴に何しやがった!!」


結界を解く晴明に身構えつつも問う。


「…腐敗が広がっているな。
まだこの世に体が馴染んでなかったのか…
仕方ない…」


オレの問に答えることなく、やつは己のなくなった腕を見ながら呟く。そして無事な方の指を使い地獄の門を開ける。


「ここは一旦引くとしよう。
千年間ご苦労だった、鬼童丸…茨木童子…そしてシモベたちよ。地獄へゆくぞ、ついてこい」


その言葉に次々と晴明の後に続く妖怪達…。
慌てて追いかけようとするが、


「!?」

「リクオっ!!」

「早まるな!!」


両側から親父とじじいに止められる。
親父はともかく…何でじじいがここにいるんだ!?


「近いうちにまた会おう。
若き魑魅魍魎の主よ…」


その言葉と共に、地獄の門が閉じられた。
新たな敵…安倍晴明が去り、ここにいる者は奴良組と遠野勢、そして一部の京妖怪だ。


「鯉菜…! おい、しっかりしろ!!」


姉貴の元へ向かえば、親父が姉貴の背中を治癒し始める。いつの間に怪我してたんだ…


「…鵺にやられたのか?」

「ちげぇよ…山ン本だ。
…〈魔王の小槌〉…オレを刺した刀で、玉章が持っていた刀でもある。そいつに刺された。」


じじいの言葉にそう返す親父。


「そういえば…親父もボロボロだな。
何してたんだ。」

「む?…まぁ…ちょいとな。ワシも過保護なだけじゃ。」


ニヤッとしてじじいは言葉を濁す。一方、親父は治療を終えたようで、羽衣狐の元へ行く。


「なぁ…この人、もしかしてオレと姉貴の…姉…なのか?」


羽衣狐の言葉といい、親父や姉貴の反応からして……そうとしか考えられない。
だが、親父もじじいもそれを否定する。


「この人ぁ…オレの前妻だ。名を山吹乙女という…」

「山吹…乙女…」

「あぁ…。こいつのおかげでオレぁ…奴良組をあそこまで繁栄させることができたんだ。
だが……、」


悲しそうに、そして、悔しそうに言い淀む親父に代わり、今度はじじいが口を開く。


「……鯉伴は…妖怪とは子を成せんかった。400年前の狐の呪いでな…。当時はその事に気付かなくてのぅ、それがかえって乙女さんを傷付けたんじゃろうよ…。」


そして山吹乙女は自分を責め、
八重咲きの山吹と和歌を置いて、何も言わずに静かに去ったという…。


「何処を探しても見つからなくてな…、
雪麗さんにある日、乙女が亡くなったことを聞いたんだ。」


知らなかった…親父と母さんのなりそめは聞いたことあるが、親父にそんな過去があったとは…。
だがそこでフと疑問に思う。


「〈亡くなった〉…?」


じゃあここにいるのは………ナンダ?
だがオレの疑問は直ぐに解決されることとなる。


「確かに…妾は…
やがて枯れるようにこの世から消えました。」


羽衣狐だ…
さっきまで気を失っていたが、いつの間にか目を覚ましていたらしい…ゆっくりと語りだす。


「妾は…まっくらな世界で…声をききました。
〈この女か…この女を…反魂の術で…〉
という声を……。」

「反魂の…術…。鯉菜の読みの通りじゃな」


姉貴の…?
何で姉貴がそんなこと知ってるんだ…。
急に出てきた姉貴の名前にますます困惑する。が、山吹乙女が再び口を開いたことで意識をそちらに戻す。


「そしてその直ぐ後、妾は娘子になっていました。偽りの記憶を入れられて…。その日1日は、とてもとても幸せで…これ以上はないと思えるくらいでした。ですが…

〈七重八重
花は咲けども
山吹の
実のひとつだに
なきぞ悲しき〉

妾が…遺した古歌、それが〈鍵〉でした…。
そこで妾は、全てを思い出すように成されていたのです…
…そうして、愛しい人を手にかけて…
妾は、あの狐になった…」


そう全ての真実を話し終えた羽衣狐こと山吹乙女…。それじゃあ、この人も結局は…被害者じゃねぇか。
安倍…晴明……
オレの親父だけでなく、親父が愛した人まで葬ろうとしやがって……しかも己の母までをも裏切りやがった…!!

親父と山吹乙女が話すのを見守りながら…オレは安倍晴明を討つことを決意する。
これ以上奴の思い通りにはさせねぇ…!!




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