この手に掴んだ幸せを(ぬら孫) | ナノ

▽ フラッシュバック

リクオが羽衣狐を刺した後、依代の記憶がたくさん映った鵺の欠片が落ちてくる。
お父さんと手を繋ぎ…
お父さんに抱っこされ…
どれも幸せそうに笑う女の子が映っている。


「お父様…愛しい時間だった……」


私の隣に立つお父さんにそう告げる羽衣狐…
否、乙女さん…


「リクオと…鯉菜は……成長したね……」


リクオを、そして私を見て、嬉しそうに笑う乙女さん…


「…っ乙女!…乙女ぇぇぇええ!!」


ガクンとリクオの腕の中で倒れる乙女さんの元へ、
お父さんは駆け寄る。
悲し過ぎる…
お父さんと乙女さんの再会がこんな形になるなんて。
何で2人が…こんなにも苦しまなくちゃならないんだ。


「ど………え……………?」

「乙女!!しっかりしろ…!!」


乙女さんに駆け寄って、ひたすら乙女さんを呼ぶお父さん。リクオは話が読めなくて、顔が青ざめている。
そして、ついに羽衣狐が〈出る〉…


「なっ…なぜじゃぁぁああああああ!!
ありえぬ!! この依代には完全に乗り移っていたはず! なのになぜ…!
あ、頭が割るように痛い…っ!! 何故じゃ!? 400年間待ちに待った…最高の依代だと言うてたではないか!!」


泣き喚きながら、バッと後ろを振り返る羽衣狐。その視線の先には、魔王の小槌を持った鏖地蔵がいた。


「貴様、妾を復活させたとき…何かしおったか!?」


その時、鵺の欠片があの時のシーンを映し出す…。これは…お父さんが刺された後の話だ。
小さい頃の私が…羽衣狐と駆け引きをしているシーン…。彼女の後ろには、鏖地蔵だけでなく晴明も映っていた。


「せ…晴明…お前!
お前が後ろで糸を引いておったのか!?
答えよ晴明!!」


鵺の欠片がほぼ割れ、安倍晴明がようやく姿を見せる。


「うう…消える! 痛い!! 焼けるように痛い…!!」


苦しむそんな羽衣狐に、安倍晴明が初めて…口を開く。


「すまぬ母上…」

「あ…ああっ…
晴明…お、お前が望んだことなのかえ…?」

「すまない…〈あの女児を母上に〉と…地獄からあてがったのは私です。こうなるとは思っていなかった…」

「おお…おお…もういい…もういいのじゃ!!
近う…近う……」


そう言いながら、晴明の元へと歩む羽衣狐。
晴明を抱きしめ、喜んだのも束の間……


「あれが…地獄です。
私が千年間いた、妖も人も…還る場所です」


地面に地獄への空間が開く。
そして徐ろにグイッと地獄へ引っ張られる羽衣狐…


「千年間ありがとう…偉大なる母よ。
あなたのおかげで再び道を歩める…。あなたは私の太陽だった。希望の光…ぬくもり…」

「せいめいっ せェエメぇぇ
愛じでるううううう!!」


地獄に引きずり込まれる羽衣狐に背を向け、晴明はなお語り続ける。


「あなたに背を向けてこそこの道を歩めるのです。影なる魔道ー…背に光あればこそ、私は真の百鬼夜行の主となりて歩む。
ゆくぞ妖ども、私に…ついて来い」


その言葉に、鵺が帰ってきたと喜ぶ多くの妖怪。
そしてー


「晴明!! 千年ぶりだぁぁぁぁ」


待ってましたと言わんばかりに、土蜘蛛が拳を振り下ろす。だが、


「懐かしい顔だ……滅」


たった一瞬で、あの土蜘蛛が地獄へと落とされる。
そこに、鏖地蔵が晴明の所へ行く。


「晴明様、約束通り、刀をお持ちしましたよ」


魔王の小槌を受け取り、京都を一望する晴明。
そして、何を思ったのか…魔王の小槌を振り下ろした。そのたったのひと振りで…京都の街のあちこちに火柱が立つ。


「我々の棲むべきところにはふさわしく…ない。
もう一度作造り直さねばな…。
…うむ。
いい刀だ…ご苦労だった。山ン本五郎左衛門。」


その言葉に奴良組だけでなく、京妖怪も騒ぎ出す。そうか…京妖怪の一部も記憶を改ざんされてるンだったっけ。


「晴明様…正確には〈山ン本の目玉〉でございます。現世では鏖地蔵とお呼びください。〈山ン本〉は百に分かれておりますゆえ…混乱いたしますからなー
それに馬鹿な奴らの洗脳も解けますぞぉ…
ゲヒャヒャヒャヒャー」

「まずはこの街を変える…
その先に私の望む世界がある…」


魔王の小槌を構える晴明に、鏖地蔵はさっきからずっと笑っている。終いには、「燃えろ〜燃えろ〜妖も人もわしらの下僕じゃ〜」と言う。


「燃えろ〜もえ……へ?
あれっあれっなに? な…なんじゃこりゃぁあ!
わしの妖気が消えてゆくぅぅう!?」


両手を上げて喜んでいるからだ…バカ野郎。
リクオに背後から祢々切丸で斬られ、あっという間に消えて逝った。


「てめぇ…何やってんだ。
母に手をかけ…オレ達を引っかき回して…
千年前に死んだ奴がこの世で好き勝手やってんじゃねぇ」

「………なんだお前は?」

「おい! 待てリクオ!!」


啖呵切るリクオに、慌てて止めようとするお父さん。


「親父…この人をたのむ…。」

「あ……リクオ!!」


乙女さんを渡され、そっと抱きかかえるお父さん。
一方、リクオは祢々切丸を構える。


「たたっ斬る!」


イタクを除き、皆リクオにやめるよう叫ぶが…もちろん素直に言う事を聞くわけもなく、


「なるほど…祢々切丸か。確かにいい刀だ。
だが私を倒す程の力ではない。」


人さし指1本で刀を受け止められた挙句、一瞬にして粉々にされてしまった祢々切丸。


「ね…祢々切丸が…!!」

「お前が鯉伴の〈真の息子〉か。力が足りんな…」


そう言いながら、魔王の小槌を振り上げる晴明…
ハッとして鯉伴達の方を見るが、そこにいる筈の2人がいない。
そうー…〈2人とも〉いないんだ。
原作では乙女さんがリクオを庇った。でも2人ともいないとなると…お父さんと乙女さんのどっちが、リクオをかばって斬られるか分からないということだ。


『……明鏡止水〈爆〉…!!』

「…なに……っ!?」


妖銃〈年喰い〉を取り出し、畏を乗せて撃つ。弾は晴明の右肩に当たり、そして…爆発した。体がまだ馴染んでいなかったのだろう。右腕は木っ端微塵になり、残った魔王の小槌は地に刺さる。


『…はは…殺されるかも…』


心臓がパンクしそうな勢いで早打つ。
やってしまった。
けど後悔はしていない…何故ならお父さんを助けることができたからだ。
というのも…リクオの前に乙女さんが立ち、その乙女さんを庇うようにしてお父さんが一番前に立っているのだ。もし撃たなかったら、きっとお父さんは今頃斬られていただろう。
祢々切丸でも敵わないのに…そこらの長ドスじゃなおさら勝てるまい。


「貴様…!」


こちらを振り向く晴明…


「姉貴!」

「逃げろ鯉菜ー!!」

「り…な……!」


私を心配するリクオとお父さん、そして乙女さん…
逃げろって言われても、さっきから脚が震えて動かないよ…。


「貴様は……地獄であった娘か。」

『…はは……覚えてるんだ…』


声が震えてるかもしれない。せめて余裕そうに話せたらカッコよく決まるのに。


「本当は貴様が依代になる筈だったのになぁ?
貴様が逃げなければ…あの女児も苦しまずに済んだだろう。」

『…本当ね…乙女さんには悪い事したわ…』


ゆっくりとこちらに近づく晴明。その足を邪魔する者はいない…何故なら〈ここには〉私と晴明の2人しか存在しないからだ。


「おい!! 何だよこれ!!」

「くそっ! ゆら! 何とかなんねぇのか!?」

「やっとるわ! でも…ビクともせぇへん!!」


おそらく結界だろう。
立体的な四角い結界の中に、私と晴明が入ってるのだ。誰にも邪魔されず、かつ、私の逃げ場をなくすためだろう…。
…殺すなら、一瞬にして殺して欲しい。


「…ふん、なるほどな。」


ピタリと私の目の前で歩みを止め、そう呟く晴明。
何がなるほどなのかサッパリだ。


「地獄で見た時から何か…貴様には違和感を感じておった。だがその違和感の正体がようやく今にして分かったぞ。」


ドクンと…心臓が嫌な音を立てる。
何の事を言っているんだ……?

ー 転生のことか…
ー 先を知っていることか…
ー それとも、私の…〈過去〉…か?



「貴様は…」



心臓の鼓動が益々速くなり、息苦しくなる。



「貴様こそが〈偽りの娘〉ではないか。」



嘲るように言う晴明に、
あぁ、この人は知ってるんだ…と察する。
私が転生したことを知っていて…
それで敢えて〈偽りの娘〉と言ってるんだ。


「私は千年も待ったというのにな…皮肉なものだ。」


そう言いながら、人さし指と中指を私の額に当てる。爆発したりするのだろうかと…恐怖のあまり目を固く閉じる。
だが…


「恐れるな。

ただ、〈見る〉だけだ。」


途端、私の額に当てられた指が光り始める。
そして…


『……っあ…ぁぁ…』


頭の中を映像が流れ始める。
最近のモノから、小さい頃の私の映像…。
そうか、これは私の記憶を見ているんだ…。


『…うぅっ…!』


気持ち悪い…脳を弄られてるような、何とも言えない感じに襲われる。


『…っ! やめろ!!』


私の小さい頃の場面が終え、前世の『私』の記憶が流れ始める。


「! ほぅ……」

『……ヤメ……やめてぇえええ!!!』


見るな! 見るな!! 見るなぁっ!!!
違う事を考えようとしても、拒絶しても、その映像は止まることを知らない。赤裸々に全てを見せていく…。
消したくても忘れたくても…ずっと『私』に付き纏う〈ソレ〉が何度も流れる。
そして、どのくらいの時間が経ったのか…どのくらいの涙を流したか分からなくなった頃、ついに私に限界が来た。


『…ぅ…ぅあァ…ぁぁあああああああああ!!!』


頭が真っ白になり、徐々に視界が暗転する。
意識が遠くなる中…最後に聞こえたのは
「………面白い」
という安倍晴明の声だった。




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