この手に掴んだ幸せを(ぬら孫) | ナノ

▽ 羽衣狐(リクオside)

羽衣狐を倒すため、邪魔する京妖怪を蹴散らしつつ、上へ上へとかけ登る。姉貴の火龍のおかげで行きやすいが…それでも急がなければならない。
上では花開院の者と羽衣狐が既に戦っているのだ。


「秋房兄ちゃん!?」


ゆらの言葉に、あの陰陽師もゆらの家族なのだと理解する。血が繋がってるかどうかは知らないが、きっと慕っている兄なのだろう。心配そうに秋房を見ている。


「このままでは花開院家は終われないのだ!
正義のために…この街のために…私はこの禁術に身をそめる!!」


そう叫びながら、羽衣狐に突進する秋房…だが、


「またお前か…飽きたおもちゃはいらんぞ」


一瞬にして、九尾が身体を突き抜く。


「玉砕覚悟か…あわれな男だ。
お前の出番はとっくに終わっていたのにのう…?」

「走れ 狂言」


しかし、突き破った身体は水へと変わり、羽衣狐を拘束する。あれは…竜二の技だ。


「やはり秋房の戯言は効く…
飽きやすい狐なら…必ずすぐに壊すと思っていたよ。
ゆけ 魔魅流」


その言葉に、魔魅流が羽衣狐を背後から滅そうとするが…尻尾によって吹き飛ばされる。
そして、竜二に今度は尾を向ける羽衣狐。


「今度はお前が楽しませてくれるのか?」

「…何言ってんだ?
こっちはおまえと闘う気なんて毛頭ないんだが?」

「なに…?」

「羽衣狐様うしろぉぉおおーー!!」


狂骨に言われ後ろを振り向く羽衣狐。その視線の先には…鵺の上空に浮かぶ〈封印〉があった。
流石騙しのプロ…秋房や魔魅流で注意を逸らし、〈封印〉をしようってか。


「中央の地脈に巣食う妖よ。
再び京より妖を排除する封印のいしずえとなれ。」

「貴…様!」

「滅」


その言葉に、空に浮かぶ〈封印〉が地へと落ちる。


「オレはお前がこちらに気を取られる一瞬の間が欲しかっただけだ…」


竜二のやつ…やりやがった。
鵺が封印されたなら、後はオレとゆらが羽衣狐を倒すだけだ…!
だが、そう思ったのもつかの間。
現実はそう甘くなく…


「あっぶねぇ」


土煙が晴れたそこには…
鵺を守り、封印を防いだ土蜘蛛の姿があった。


「羽衣狐さんよ、子供から目ェ話すなよ
…母親だろ」


そして次の瞬間、キレた羽衣狐が竜二を殺そうとする。殺らせるか…!!


「貴様…」

「…逢いたかったぜ、羽衣狐」


ようやく羽衣狐の所にたどり着いた…。
黒田坊を纏ったまま竜二への攻撃を防ぎ、いったいどんな奴なんだと顔を見れば…
その顔はオレが知っているものだった。
だが…何故だ?


「…お前が…
お前が親父を刺したのか!? 羽衣狐!!」


お前はあの日…
オレや姉貴と一緒に遊んでくれた人じゃねぇか!


「その顔…ぬらりひょん!!
また妾の邪魔をするのか!!」


羽衣狐の攻撃を防ぎ、一旦距離を置く。

…こいつが羽衣狐なのは確かだ。
でも、本当に親父を刺したやつはこいつなのか?
オレの中で疑惑の念が渦巻く。


「…うり二つじゃな。憎たらしい顔。
なぜ貴様らの血は妖上位の世界を造るのを邪魔する…!!
妾は…それが理解できん」

「だから…親父を刺したのか?
あの時、オレ達を油断させて…」

「…!? 何を言うておる…?」


…覚えていないのか?
それとも、親父を刺したのは違うやつなのか?
いや…、親父はさっき、羽衣狐に刺されたと答えたんだ。何故覚えていないのか分からねぇが、こいつが親父を刺したのは間違いねぇ…!


「鵺のおもりはオレがやってやるよ…
だから存分にやりあえや。
400年前、あの時と違ってな…」


土蜘蛛のその言葉に、オレも羽衣狐も構える。
鉄扇で攻撃してくる羽衣狐に、黒を畏砲として放つも…失敗する。


「この刀でお前らの血を絶やすことを…夢見てきたわ!! 生き肝をいただくぞ」


太刀を出して攻撃してくるのを、なんとか畏をもってずらす。


「おかしいのぅ…
心の臓をつらぬいたと思うたがな…
ぬらりくらりとやり過ごしおって。
血も生き肝もくろうてやると言うとるのに。」


やっぱり…転生すればする程強くなるだけある。なかなか攻撃が当たらねぇ。オレがどんどん傷を負っていくのに対して、羽衣狐は随分と余裕そうだ。
それにしてもー


「…よぅあんた。
いつから羽衣狐になったんだ?」


戦いに集中しなくちゃいけねぇのは分かってる。
だが、どうしても気になって仕方がないんだ。
親父を殺そうとした理由も、その過程も、何もかもが分からない…。


「人間のあんたに質問してんだぜ、羽衣狐」


そう言えば、羽衣狐は一瞬だが驚いた表情に変わる。


「人間のあんたと話をさせてくれ。
オレの中の…ありえねぇ記憶のことだ。」


だが、そう上手く事が進む筈もなく…


「……かんけい…ない…
千年を転生し続ける妾とは、関係のない話じゃ!!」


さっきまでオレを憎々しく見ていたのが、
どこかイラついたような雰囲気になる羽衣狐。
そのせいか…攻撃も徐々に荒々しくなってくる。


「どうした? 目に見えて力を失っているぞ」


くそ…っ!
攻撃をなんとか躱すものの、鬼纏の後で体が上手く動かねぇ…っ!! そして奴の尻尾の一つから、槍が飛んでくるのが見える。
やられる…!!
…そう覚悟したものの、痛みが来ることはなく…


『久しぶりね…羽衣狐』


目の前に現れたのは姉貴だった。
槍をギリギリと押さえながら、姉貴は話し出す…


『あの時は見逃してくれてありがと。
おかげさまで私もリクオもピンピンしてるわ。』

「お主……誰だ?」

『あらー、忘れちゃった?
リクオの姉の鯉菜だよ…〈お姉さん〉♪』

「……っ!?」


突如、頭を押さえだす羽衣狐。
〈お姉さん〉…
……あの日、姉貴が羽衣狐を呼んでいた呼び名だ。



「黄泉葬送水包銃ー!!」



動かなくなった羽衣狐……その隙をついて攻撃するゆら。だが、いとも簡単に躱された挙句、ゆらは後ろから京妖怪に襲われる。しかし、クナイが首に届く寸前で魔魅流の手によって間一髪助かった。


『…狐さんやぃ。
破軍の使い手と祢々切丸…揃っちゃったよ?』


二ィっと笑う姉貴に、羽衣狐がこちらを睨む。
その次の瞬間、パリーンという音が響き渡った。


「晴…明? 晴明…待ちわびたぞ!」


パラパラと鵺の欠片が落ちてくる……
鵺の誕生を阻止できなかったか。
だが、


「まだ…話は終わってねぇ…羽衣狐」

「余興は終いだ。我々の闘いなど晴明の誕生前夜の盛大な余興にすぎないのだからな…
長かった…千年の記憶がよみがえる。」


パラパラと落ちてくる鵺の欠片……
その一つ一つには映像が映っている。


『羽衣狐の…千年の記憶…。』

「何度も何度も晴明を思い…転生を繰り返した。
その度に望みは何度も断たれた。
400年前ーやっと…力を得たと思えば…!」

『おじいちゃん……』


欠片に映るのは、若かりし頃のじじいが羽衣狐を斬っているシーンだ。


「お前たちさえいなければ、晴明にもっと早く会えたのじゃ!!」


そう言って、尻尾を振り上げる羽衣狐。
だが、突然の浮遊感に襲われ、それはオレに当たることはなかった。


「やっと追いついたぜ……
ったく、勝手に先走りやがって、このバカ娘。」

『痛っ』

「親父…!」


どうやら親父がオレを抱え、避けてくれたようだ。姉貴も鏡花水月で躱したようで、吹き飛ばされることはなかった。


「貴様ら…!」

「よぅ羽衣狐。
できるなら、乙女を返しちゃあくれねぇかい?」

「その顔っ…………うぅっ!?」


乙女…?
何の話をしているのか分からないが、親父の顔を見た瞬間、羽衣狐がまた頭を押さえ始める。



「うううううぅぅぅ…!!

そこで何をしておる、娘…」



苦しみ悶える羽衣狐の死角から、ゆらが破軍を撃とうとするがバレてしまう。しかし、竜二と魔魅流が時間を稼ぎ、ようやくなんとか破軍を撃つことに成功した。


「羽衣狐様ぁぁぁぁぁ!!」


破軍で動きを封じ込まれる羽衣狐…
それを案じて叫ぶ狂骨…
そしてオレの背中を押す親父…


「ハァ…… ハァ……!」


痛む身体を何とか動かし、羽衣狐の元へ走る。ゆら達が一生懸命繋いでくれたのを無駄にはできねぇ…!!
祢々切丸をギュッと握りしめ、羽衣狐を刺す。
ようやく、刃が届いた……!
だが、次の瞬間…
オレは耳を疑うような言葉が聴くこととなる…



「お父…様……
お父様…愛しい時間だった…
リクオと…鯉菜は………成長したね……」

「…ッ乙女…! 乙女ぇぇぇええ!!」


まるで…オレと姉貴の〈姉〉みたいなセリフ。
〈乙女〉と涙しながら名を呼ぶ親父。
泣いているのか…下を向いて震える姉貴。



「ど……、え……?」



心臓が速鳴る。
もしかしたらオレは…
とんでもない事をしてしまったかもしれない…




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