この手に掴んだ幸せを(ぬら孫) | ナノ

▽ 出産

サトリと鬼一口を倒し、弐條城の中へと突き進む一行。


「鵺ヶ池ってのはどこにあるんだ?」

『さぁ…本当に池なら地下にあるんじゃない。
上にあったら雨漏りしちゃいそうだし。』

「雨漏り対策はするだろ。
でもまぁ…どっちかってぇと地下だろうな。」

「てことは下か…!」


皆で下に行くための階段を探しながら、中をドタバタと走り回る。
すると、前方から京妖怪がやって来た。
鬼童丸だ。


「また会ったな、小僧」

「お前は…遠野で会った…」


鬼童丸の攻撃を受け止めるリクオに、よくここまで辿りついたと言う鬼童丸。


「だが貴様の祖父のようにここから先へ通すわけにはいかん…!! おぬしにわれらの宿願を阻む大義があるとはとても見えんな。」


その言葉と同時に、城全体が大きく揺れ出す。


「…まずいな。出産が始まったんか?」

「…どけ! おっさん」


秀元の言葉に、少し焦り出すリクオ。だが、もちろんアッサリと通すわけもなく…


「断る。改めて聞こう…百鬼を率いてどうする?
私怨以上の大義があるのか!?
貴様も妖なら真の闇の主〈鵺〉の復活を共に言祝ぐべきだ…。そして我ら京妖怪の下僕となり理想世界の建設にその身を捧げるのだ。
従わぬのならば…ここで死ね!」

「…なるほど。
闇が人の上に立つ…確かに面白そうな話じゃねぇか。
オレも妖怪だ…血がうずく。
なぁ? 姉貴…」


鬼童丸の言葉に、ニイッと笑いながら言うリクオ。
つぅか何でリクオは私に同意を求めるねん。


『確かに…技術の発展で、夜も今は明るいものねぇ。年々妖怪にとって住み心地が悪くなるわ。』


ウンウンと鬼童丸に同意する私達に、氷麗達が動揺する。一方の鬼童丸は、ならば何故従わぬと問う。


「てめぇら見てぇにカタギのモンふみつけにして人の上に立つってのはよ、オレの理想とはかけ離れてる。妖の主ならよ、カタギにゃ畏を魅せつけてやんなきゃあな」

「…なるほど、
しょせんは、相容れぬ存在というわけだ。
いでよ羅城門。」


突如、弐條城が消え、目の前に羅城門が現れる。
鬼童丸が言うには、弐條城は幻で、京妖怪の思念通りに変化するとのこと。


「試してみよう…貴様らの畏と我らの畏…どちらが京の闇にふさわしいか。」


その言葉を合図に、京妖怪が一気に襲いかかって来る。鬼童丸はリクオに任せても大丈夫だろう、きっと黒や首無が手伝ってくれる筈だ。
というわけで、私はそこらの妖怪を相手にしているわけだが…


「スゲェ量だなぁ」


お父さんの言う通り、次から次へと敵が来る。そいつらをお父さんと背中合わせで斬り捨てていたが、ふと憎たらしい知った顔が視界に入る。


『……あいつ!?』

「あ…おい鯉菜!!」


行く手を妨げる奴らを斬り捨てながら進めば、やはりそこにはあいつがいた。


『…見つけたよ、目玉親父。』

「ひぇっひえっひえっ…まさかそっちからワザワザ出向いてきてくれるとはのぅ。好都合じゃ。」

「鯉菜!
……そいつァ…あん時の!!」

「…一応聞いてはいたが、やはり生きておったか。
奴良鯉伴…!!」


そう…魔王の小槌を持った鏖地蔵がいたのだ。


「初代から三代までぬらりひょんの血を吸ったが、
あと一人…娘の血が足りんくてのぅ?」

『…それで好都合ってことかぃ。』

「待て!
初代ってこたァ…てめぇ親父も刺したのか!?」


怒りを目に宿した鯉伴に、鏖地蔵は下卑な笑いを浮かべながら肯定する。そうか…おじいちゃんももうここに来てるのか。


「血を流して最後は池に落ちたぞ。あれだけ血を流してたら…もう生きてはおらんじゃろう。」

「てめぇ…!!」

『お父さん!!
おじいちゃんはこんな雑魚に殺られるほど弱くないでしょ。それに池には河童がいるから大丈夫よ。
おじいちゃんは、生きてる。』


ニコッとして言えば、一瞬キョトンとするもお父さんの顔に不適な笑みが戻る。

「確かに、親父がこんなつまんねェ奴に殺される筈がねぇな。…危うく冷静さを失うところだったぜ。」

「貴様ら…っ!! 夜雀、やれぇ!」


怒った鏖地蔵が夜雀を呼べば、待機していたのだろう夜雀が現れる。そうだ、コイツの羽根が目に入れば何も見えなくなるんだ…!
こちらに羽根を飛ばそうとする夜雀に構える私とお父さん。だがちょうどその時…床を突き破り、黒い大きな球体が出てくる。


『わぁっ!?』

「うおぉっ!!?」


足場が崩れ、私とお父さんは慌てて安定した所へ、それぞれ飛び移る。現れたのは出産を終えた羽衣狐とと鵺…どうやら出産のタイムリミットに合わなかったようだ。


「ひぇっひえっひえっ!
余所見とは随分と余裕じゃのぅ…これでぬらりひょんの血が全員分揃ったのじゃぁぁぁぁ!!」

『ぁ…ぐっ……!』


出産を終えた羽衣狐に気を取られていれば、鏖地蔵に魔王の小槌で背中を斬られてしまった。


「鯉菜!!……あの野郎!!」

『! 追うな鯉伴っ!!』


私が斬られたことに気付き、逃げ去る鏖地蔵を追おうとするお父さんを慌てて呼び止める。
仮にここで追いかけても、向こうには夜雀がいる。夜雀に視界を奪われて、お父さんがそれこそ刺されて死んでしまったら…?
油断した私が、お父さんを殺したみたいなもんじゃないか。勘弁して欲しい。


『痛いけど…そんなに深くはない、から…。
それより…』


空に浮かぶ黒い球体…その天辺にいる羽衣狐へと目を向ける。


「…ッ山吹、乙女…」


羽衣狐に同じく視線を向けるお父さんの表情は、とても険しい。それでも視線を逸らすことなく、歯を食いしばりながら彼女を見ている…。
戦いを止め、遠野勢、奴良組そして京妖怪…皆が皆、彼女をただ見ている。
そして皆が注目する中、羽衣狐はゆっくりと…口を開いた。


「妾は…この時を、千年、待ったのだ。
妖と人の上に立つ…鵺と呼ばれる新しき魑魅魍魎の主が…今ここで生まれる。皆の者、この良き日によくぞ妾の下へ集まった。
京都中からー
そしてはるばる江戸や遠野から妾たちを祝福しに、全ての妖どもよ…大儀であった」


その言葉に、京妖怪から一気に歓声がわき起こる。


「そうかそうか…祝うてくれるか。
くるしうないぞ、かわいいやつらじゃ…」


鳴り止まない歓声の中、「母上…」という声と共に、黒い球体に異変が起こり始める。
顔が浮かび上がり、手が生え、足ができ、そしてついに…黒い球体は大きな赤ん坊に成った。


「かつてー
人と共に闇があった。妾たち闇の化生は常に人の営みの傍らに存在した…
けれど人は美しいままに生きていけない。
やがて汚れ、醜悪な本性が心を占める。
信じていたもの、愛していたものに、何百年も裏切られその度に絶望し…妾はいつかこの世を純粋なもので埋めつくしとうなった。」


たんたんと話し続ける羽衣狐が、光に包まれ始める。
そして…


「それは黒く、どこまでも黒く…一点のけがれもない純粋な黒。」


一瞬のうちに、黒いセーラー服へと身を包む。


「この黒き髪、黒きまなこ、黒き衣のごとく完全なる闇を。さぁ…守っておくれ。
純然たる…闇の下僕たちよ!!」


羽衣狐の言葉に、再び歓声をあげながら襲いかかって来る京妖怪。


『…ちっ…何で敵の量が増えてんのよ!!』

「鯉菜! 待てっお前、怪我して…」

『羽衣狐の出産は終えたけど…
鵺の誕生まではまだ時間がある。
お父さん、リクオを援護しよう!』

「…クソッ…分かった。
だが、くれぐれも無理はするなよ!?」

『りょーかい。
……そんじゃ、道でも作りますか…
明鏡止水〈桜火龍〉
リクオの行く手を妨げる者を…灰にしておしまい』


上まで一気に行こうとするリクオとゆらの下へ、2匹の火龍が向かう。


「…!? なんやコレ!! 誰や!!」


火龍におどろき、黄泉葬送ゆらMAXでそれを追い払おうとするゆら。
何これ、デジャヴ! やめたげて!!


「!
待てゆら!! これァ…姉貴のだ!」


しかし…リクオのおかげで消される事もなく、リクオも私の意図を読み取ったようで、火龍の後をついて行く。

ついに…!
リクオと羽衣狐の決戦の時が来た…!!




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