この手に掴んだ幸せを(ぬら孫) | ナノ

▽ 弐條城到着!!

「リクオ様!!」


相剋寺に着けば、ちょうどリクオが土蜘蛛を倒した所だった。


「申し訳ございません!!
側近として力になれず、合わせる顔がございま…」

「いや、俺の力が足りなかったばかりにお前達には苦労をかけたな。
これからも…よろしく頼む」

「………リクオ様……」


会って早々リクオに頭を下げて謝る首無だったが、リクオの言葉に首無達は驚いた顔をする。そして嬉しそうに「こちらこそ」と言う首無達の光景は、微笑ましいと同時に私の胸を苦しめる…


『…眩しいなぁ』

「…リクオのことかい?」


リクオが眩しくて、時々胸が苦しくなる。ただの無い物ねだりでしかないが…素直で皆を惹き付けるリクオが正直羨ましい。「自分は自分」「ありのまま」ってよく言うけど、それができたら人間そんな苦しんじゃいないよね。


「ん?…姉貴と親父じゃーか。
お前らどこ行ってたんだよ。」

『坂本先生に会ったから…
花開院家に届け出に行ってたの。』

「………すごい偶然だな。」


私もそう思うよ。
そんなことを話していれば、
突如ガラガラと音を立てながら土蜘蛛が動き出す。


「…膝をつかされたのは〈鵺〉と戦って以来千年ぶりだぁ」


妖怪摩訶不思議…普通頭が真っ二つに割れたら死ぬよね。脳をやられてるんだから。


「わしァ…その〈鵺〉とまたやりたくてやりたくてしょーがねぇのよ…
ただ〈鵺〉ってのは得体の知れねぇものの二つ名でな…ヤツは人としてはこう呼ばれた…
千年前の京の闇を支配した男、安倍晴明と。」


首無や黒、お父さんをチラッと見れば、自然と目が合う。


『牛鬼の推測…ビンゴだね』

「えぇ…まさか本当に安倍晴明とは…」

「狐を母に持つって噂も本当だったってことか…」


ザワザワと周りがどよめく中、コソコソと4人で話す。ちなみに、鵺が安倍晴明であることも、晴明と山ン本が手を組んでいる事も一部の者しか知らない。手を組んでるのを私達が知ってるのをバレたら、山ン本らは警戒してしまうだろう。警戒されて、原作にない事を起こされても困るし…。


「ど、どういうことや!! 詳しく聞かせぇ!!」


そこで、貪狼に乗ったゆらと秀元がやってくる。
どうやら土蜘蛛の話が聴こえていたようだ。驚くゆらとは反対に、秀元はやはりなと納得する。


「平安時代の伝説的陰陽師安倍晴明は人の世を表からあやつり、百鬼夜行をあやつり使うた男や。
千年程前…信太の森に住む妖狐が葛の葉という女に化け、安倍保名という武士と恋に落ち結ばれた。そして生まれたのが安倍晴明や。」


へぇー…そこまでは知らなかった。
秀元が説明し終わるや否や、土蜘蛛が「誰か糸をくれ」と言う。
何をするんだ?
リクオの命令で首無が渋々いくらか紐をあげれば、何とその糸で自分の頭を縫い付け始めたではありませんか! 確かに真っ二つに割れたけどさ…斬新な治し方だな。


『痛くないの?』

「あぁ? 何だおめぇ…初めて見る顔だな。」

『鏡見てないのによくキレイに縫えるね。』

「こんなモン鏡なんざなくたって縫えるだろ。」

『そう?…ちなみにその爪はマニキュア?』

「まにきゅあ? 何だそれ。」


地道に糸で縫い合わせるのを見ながら、思ったことを口に出していれば、急に誰かから頭を叩かれる。


「何どーでもいいこと聞いとんねん!」


お前か、ゆら。てか、どーでもいいとは何だ!
こっちはガチで聞いてんだぞ! 鏡が無いと口紅も塗れない私が参考までに聞いてるんじゃないか!


「…変な奴だな。
さてと、鵺が生まれるまで俺は寝る。」

「土蜘蛛。
安倍晴明って陰陽師やろ!? 人の味方や!
あんたら京妖怪何したいんや!」


そう言ったのは勿論ゆらで、そんなゆらに土蜘蛛は何だコイツ的な目を向けて言う。


「人の味方ぁ? 誰だよお前。鵺は味方なんかになるか。使う側だからな。
…おう、お前。面白かったぜ。」


縫い終わり、どこかに寝に行くのだろう。立ち上がって、リクオに背を向けながら話す土蜘蛛。


「じゃあのぅ、また闘ろうや」


そう言う土蜘蛛は、とても真っ二つにされた直後とは思えない動きで飛び去った。


『…また闘ろうだってよ?』


ニヤッとしてリクオに聞けば、半目で「もう奴と闘うのはごめんだ」と言う。だよねー。


『傷あるなら治そうか?』

「いや…いい。もう治った。」


相変わらずリクオの自己回復力は高いな…。
土蜘蛛が去り、各々が弐條城へと向かう準備をする中…


「鬼纏をできるようになったんだな…。」

「親父…」


リクオの元へ向かい、すげぇじゃねーかと褒めるお父さん。対してリクオは照れている。


「なぁ親父…親父は羽衣狐に刺されたんだよな?」

「! ……あぁ、そうだぜ。」

「やっぱりな…」

「鯉菜から聞いたのか?」

「いや、姉貴は詳しい事教えてくんねーし」


ジト目で私を見てくるリクオに、肩を竦めてみせる。
どうせこれから知るんだしいいじゃん!


「リクオ…
羽衣狐はオレでもない、鯉菜でもねぇ…
お前が倒せ!
もちろんオレ達もお前を補助するが、祢々切丸はたった一つしかねぇ。アイツを倒すのは、それを持っているお前だ。」

「あぁ…!
オレが狐との因縁を断ち切る!!」


お父さんの言葉にそう返すリクオ。
だが…どこかお父さんに違和感を感じる。確かに表面上的には理にかなってるし、何処もおかしい所はない。でも…裏の事情を知ってるからこそ、違和感を感じるんだ。
気のせいだろうか…。


「おめぇら! 次はいよいよ弐條城だ!
羽衣狐を倒しに行くぞ!!」


リクオの声に、皆もおおー!!と気合を入れていく。


「…覚悟したつもりなんだがな…」


ぞろぞろと百鬼夜行を率いるリクオに続いて歩いていれば、横にいたお父さんがポツリと呟く。その表情はどこか暗く、自分を嘲笑しているようにも見える。


『…さっきのこと?』

「あぁ…。
…やっぱりお前にはバレてたかぃ。」


…どうやら、私の違和感は当たったようだ。


「いざ決戦が近づくとよう…羽衣狐と…いや、乙女と会うのが少し怖くなっちまった。羽衣狐に乗っ取られたとは言え…乙女を苦しめたオレが、乙女に刃を向けていいのかって…な。
だから、祢々切丸を理由に…リクオに押し付けちまった…。本当に…情けねぇ…。」


周りに聞こえないよう、小さな声で内に秘めた思いを話すお父さん。いつも飄々として弱みを見せないのに…それ程弱ってるってことだろうか。


『…そんなに気に病まなくてもいいんじゃない。
お父さんはもう充分すぎる程…苦しんだんだ。
それに、息子と昔愛した人の戦いを見届けるだけでもつらい事なのに、逃げずにちゃんと立ち向かってんじゃん。それは凄い勇気のいることだと思うよ。』


お父さんの気持ちを楽にするには…何を言えばいいのだろうか。何を言っても無駄なような気がしてならない。
昔から…人を元気づけるのが苦手だった。
何を言っても相手に気持ちが届かない気がするのだ。そんな私にお父さんの気持ちを和らげることなんかできるのだろうか…。
…できないかもしれない、
でも…これだけは分かってて欲しい。



『どんな過去があろうが、
どんな未来になろうが、
どんなに情けなかろうが、
奴良鯉伴は私とリクオの…
たった一人の自慢の父親だよ。』



これだけは忘れないで欲しいなと思いながらも、歩を進める。
前方には大きくそびえ立つ弐條城…
リクオが弐條城の門番2人をあっという間に倒した事で、そのままゾロゾロと前へ進む。


「……ハハ…
まさかお前さんに励まされる日が来るとはな…」


門を前にしてそう呟いたかと思いきや…、私の頭をくしゃくしゃと撫でるお父さん。


「…ありがとな。」

『…どういたしまして。』


お互い目を合わせてニヤッと笑い、そのまま足を一歩ずつ踏み入れる。門をくぐれば、たくさんの京妖怪が武器を構えこちらを見ていた。


「…分かってんだろーな?鯉菜」

『もちろん!
私はお父さんの護衛…
お父さんは私の護衛…でしょ?』

「あぁ、奴良組と京妖怪の因縁を断つ時が来たんだ………
派手に暴れるぜ!」




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