この手に掴んだ幸せを(ぬら孫) | ナノ

▽ 27代目

『…疲れたー』

「やっとこれで終わりか…」


日が昇り、空が段々白くなる。清々しい朝とは不釣り合いに、辺りは瓦礫や妖怪の残骸、血で酷い有り様だ。
取り敢えず青と合流しようと、お父さんと2人で青の元へと向かえばー


『……っ!? 何…で……?』

「お嬢…っ!!二代目!!」

「君達は…さっきの…」


そこには青と秋房の他に、27代目を囲む数人の陰陽師がいた。


『どうして…その人…?』


どうして。なぜ。
さっきからこの言葉が頭から離れない。
私は確かに助けた筈…なのにどうして原作通りに27代目が大傷負ってるんだ…!


「お嬢達が去った後に、残りの虫妖怪を潰してったんですが…
オレ達の隙をついてこの爺さんを…。すいやせん…オレの不注意で…!」


そう謝る青に「君が気に病むことはない」「仕方ない」と言う秋房。そうだ、青は良くやってくれた。青のせいじゃない。


『青…お疲れ様、ありがとうね。』


青にお礼を言いつつ、27代目の傷に手を触れる。


「…!! 傷が…治っていく…?」

「そうか…治癒の力を持つのは君だったのか…」

「27代目…! しっかりして下さい…!!」


治癒の力を見てそれぞれが反応を示す中…


「君…私達には27代目が必要なんだ!
何とかこの人を救ってくれ…!!」


私の腕に縋って来る人が泣きながら言うその言葉に、心臓を鷲掴みされた様な感じが私を襲う。

…なんて重いんだ。

今まで治療したら、たいてい驚かれて感謝されるだけだった。
でも今はどうだ?
「治してくれ」と必死に願ってくる。
さっきの部屋番の人は…助けられなかった。
もしもこの人も助けられなかったら…?
…医者もこんな重い物を背負って患者と向かい合っているのだろうか…。
そして救えなかった時は罪悪感に苛まれるのだろうか…。
私に…それを背負う覚悟があるのだろうか?


「…お嬢?」

『……ぁ、いや、なんでもない。』


ボーッとしていたため、つい手が止まってしまっていた。今までの治療行為が何だか恥ずかしく思えてくる。あまりに軽々しくやってきたから…。
ー 死んだ私だから分かる筈なのに、
ー お父さんを失いそうになった私だから知ってる筈なのに、
…いつの間にか、命の重さを忘れていた。


「秋房兄ちゃん!? これどーなってんねや!!」

「二代目!? 鯉菜様も!!」

「ここにいらっしゃったんですか!!」


突如ゆらや首無、毛倡妓が駆けて来て、この惨状に驚く。


『ゆらちゃん…っ』

「おお…ゆらか………もっと近くに…」

「おじいちゃん!?」


傷だらけのおじいちゃんに慌てて駆け寄り、その手を掴むゆら。


「しっかりしぃや! おじいちゃん!!」

「ゆらはもう…禹歩はできたかな?」

「そんなん…何年も前から朝飯前や!!」

「ゆら…」


ゆらの頭を、しわくちゃな手でクシャクシャと撫でるおじいさん…もう動くのも辛そうだ。


「ゆらは結晶だ。
お前の中には花開院家の未来がつまっている。老いた私の目にはまぶしい…ワシらの結晶なんだ」

「おじいちゃん! …何言って…!!」

「ゆらはたくましい。ゆらを…見ていると…いつも前向きで…いっつも希望が湧いてくる…」


おじいちゃんの手を顔の前に持ってきて、目から涙をぽろぽろと零すゆら。まだ若いのに…こんなに若くして、彼女もまた重いモノを背負っている…。


「…もっと強くなりなさい。
もっと…もっと…強くなって…ワシらの代わりに、
人々を…守りなさい……」


その言葉を最後に…27代目の手が、ゆらの手からずり落ちる。


「おじいちゃん……
う…うぅ……うぅっ…!!」

『ゆらちゃ…っ』


堪えきれずに泣くゆら…
下を向いて涙を隠す秋房……


『…ゆらちゃん…秋房さん…』


何と声を掛けていいか分からないが、
でも…これだけは伝えといた方がいいと思うんだ。



『27代目……


寝てるだけだからね?』

「……………え?」

「寝て……………え?」


私の言葉に、面白いほどにピタッと涙が止まる2人。


『治療したからさ、疲れて気を失っただけで死んでないよ? つかさ、秋房さんは私が治してたの見てたよね?』

「ぃゃ…ゆらが泣くから死んだのかと…」

「し…死んでへんの!? ホンマに!?
嘘やったら冗談抜きで滅すで!!」

『こんなタチの悪い嘘つくかよ。』


パシンと頭を叩けば、今度は良かったと泣き出すゆら…どっちにしろ泣くんかい。


「おじいちゃんを助けてくれたん…先輩なん?」

『ん、まぁ…一応…?』


泣きながら聞いてくるゆらに、首をかしげながら答える。


「一応ってなんやねん!
ハッキリせんやっちゃな!! どっちなん!?」


くわっと目を見開いて問いただすゆらに…


「悪ぃな。
コイツぁ照れ屋で素直じゃねぇからよ…なぁ?」


ポンポンと私の頭を撫でながら答えるお父さん。


『なぁ?って言われても知らんがな。』

「ほら…な?」


ケラケラと私を指差して笑うお父さんにイラッときた私は悪くない。だからその指をポッキリやっても私は悪くない。


「イッテェエ!!!?」

『うるさい』


何すんだよ、アンタが悪いんだろ、とギャーギャー言い合う私とお父さんを見て周りは楽しそうに笑う。ようやくここにも笑顔が帰ってきた。


『あ、ゆらちゃん…さっきから気になってたんだけど、アソコにいる触角はどちら様?』


秀元を指差して問えば「触角って酷な〜い?」って泣きまねする13代目の花開院当主。


「あぁ、あれね。
破軍ゆうて…歴代の花開院当主を呼び出す技があるんやけど、その内の1人や。13代目で秀元言うんやて。」

『妖怪?』

「ちゃうわ! 霊…ちゅうか式神みたいなもんや」

『ふぅーん…』


ゆらの説明を聞きながら秀元をジロジロ見る。
こいつもぬらりくらりしてるよなぁ…だなんて思いながら、ふとある事を思い出す。


『ねぇ!
ちょっと秀元さんと少し話したいことがあるんだけど…借りてもいい?』


ゆらちゃんの耳元でコソッと伝えれば、不思議そうな顔しながらも了承してくれた。


そして場が落ち着いて暫くし、
ゆらと秋房さん、秀元の3人と一緒に場所を人気のないところに移す。


「何なんー? 僕に話ってー!」

『…申し遅れました。
私、ぬらりひょんの孫 奴良組若頭 奴良リクオの姉、奴良鯉菜です。』

「あっ、そうなん? 君がお姉さんやったんかー!
へぇー別嬪さんやなぁ! てことはさっきの男の人、アレがぬらちゃんの息子?」

『あぁ…緑と黒の縞々ですね、あの人がぬらりひょんの子ですね。』

「ふぅーん? 何や…お父さんおるんや。それなのに何であんな若いのが奴良組を継いどるん? 君のお父さんもまだ若いからいけるんちゃうん?」


やはり秀元は鋭い所をついてくる。
確かにそれは前々から疑問に思っていた。原作に問題が出ないから、問題視しなかったけど…何でお父さんは二代目を降りたのだろうか。
怪我をしたから? 本当に…〈それだけ〉か?


『…私が小さい頃に左肩を刺されたの、羽衣狐に。』


羽衣狐という言葉に反応し、驚く皆。


「ふーん…それで前みたいに戦えなくなったってこと?」

『多分ね…詳しくは私も知らないわ。
てかさ、本題にはいってもいい?』


コレ見て欲しいんだけど…と妖銃を取り出して手渡す。


『これについて知ってることがあれば、何でもいいから教えて欲しい。』


その銃を見る3人のうち、大きく反応を見せたのは秋房と秀元だった。ビンゴ!


『秋房さんと秀元さん、教えてくれない?』


その言葉に2人は目を合わせて、先に秋房が口を開く。


「…これ、妖銃だよね。
威力は強いし、弾もいらないから使い勝手がいいけど、でもそれを使う者は皆早死するって噂だよ。
それ以外は僕も…妖刀専門だし。」

『そう…ありがとう。秀元さんは?』


秀元にふれば、さっきまでの雰囲気がガラッと変わり、真面目なものとなる。


「これはな、妖銃〈年喰い〉ゆうて…使い主の寿命を喰う業物や。誰やったかなー、名前忘れたけど…確か花開院家の誰かが作った物やで。
一発撃つのに1年の寿命を棄てる…その分威力は高いし弾もいらんで便利やけど、使えば使う程死ぬのが早いっちゅうことや。
これ作った人、結局使い過ぎて20代後半くらいに死んだ筈やで。」

『1発…1年…』

「使い主が死んだ後、この妖銃は妖怪に使い回されてたって聞いたで。人間の寿命だとすぐ死んでまうけど、妖怪は寿命が長いからね……良い武器やったんかもしれんなぁ。
己の霊力を込めて妖怪を倒すために作った武器が、後に妖怪に使い回されてたなんて…皮肉なもんやね。」

『……返した方がいい?
これ、花開院の物なんでしょう。』


そう問えば、秀元はケラケラと笑いながら、私にあげると言う。


「別にそういう意味で〈皮肉〉なんて言うたんやないで?
せやから欲しいならそれあげるし、鯉菜ちゃんもそれいらへんなら捨ててええでー!」


いや、捨てるて…そりゃないだろ。


『…じゃあ…取り敢えず貰っとくわ。』

「…まさかそれ…使うん?」


太腿にあるホルダーに妖銃をしまえば、ゆらに非難するような目で見られる。


『…基本、使わないよ。妖刀じゃないけど、刀と鉄扇を一応持ってるしね。だから、どうしようもない時に使う。』


そう言えば、ならええけどとホッとするゆら。
私の事を思ってくれてるのが分かる…優しい子だ。


「鯉菜ーーー」

「お嬢ーー! どこ行ったんですかー!?」


遠くから聞こえてくるお父さん達の声にハッとする。


『そうだ、この事皆に言わないでね!
知られたら、使用禁止どころか取り上げられちゃうから!!』

「使う気満々やないか!!」


ビシッとツッコミするゆらに最後にもう一回念押しして、お父さん達の元へ向かう。


『……〈年喰い〉…か…。』


捻りも何もないネーミングだなぁと思いつつも、今まで使った回数を思い出す。
………6,7発くらい撃った気がするな。少し練習したことあるし。ということは6,7年は寿命が減ったという事か…。


『…4分の1しか妖怪の血ないけど、寿命はどうなるんだろう。やっぱり長生きなのかな…。』


長生きならぶっちゃけ使ってもいいと思うけど、人間の寿命なら使いたくないかも。


「おーい、鯉菜ー!!」

『はーーーい! 今そっち向かってるー!』


徐々に大きくなる声に、慌てて大きい声で返事する。銃のことはなるべく使わないとして…
今は目の前の問題について考えよう。
首無らと情報交換しなければならない。
…勝手に別行動したのを怒られる覚悟で。




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