▽ しょうけら
《ご覧ください…! あれは弐條城なのでしょうか? 突如として現れた巨大な城。街中で起こる怪奇現象…そして行方不明者。
一体京都で何が起こって…山田さん? 山田さん?
ちょっ…お前たちなんだ…!!
うわぁあ化物ーーーー!!!!》
弐條城を撮して実況しているニュース番組…だが途中で、バキバキやらドカッという鈍い音と共に雲行きが怪しくなる。
《ぎゃぁぁぁぁぁぁぁ》
最後にホラーな叫びと共に、「少々お待ち下さい。」という白黒画面にうつり変わった。どこのホラームービーだよ。
「ど、どーなってんだ…京都…」
「MHKって弐條城の近くじゃなかった?」
「ここも近いが…」
何で京都なんかに来たんだー!!と泣きわめく巻と鳥居に対し、清継はなおも外へ出ようとする。お前は本当に生粋の馬鹿というか…救いようもないアホだな!!
「せめて弐條城の写真でも!!」
「出てはダメです!!」
つーか門番の頭ふざけてんのか。何で陰陽師なのにモヒカンなんだよ。その扇子みたいな髪の毛なんか取っちまえよ。
『…カナちゃん、心配しなくても大丈夫だって。
座ってな?』
心配するカナちゃんの背中をさすり、椅子に座らせようとした時だ。屋敷全体を大きな衝撃が襲う。
「地震か…?」
「今度は…て…停電!?」
「何が起こってんのよー!!」
「ここ…なんかもうやばいんじゃないか?」
「外で妖怪に襲われるのイヤー!!
建物に潰されるのもイヤー!!」
私とお父さん、青以外の者が口々に騒ぎ始める。大量の妖気を感じる…ついに京妖怪がここに襲いに来たのだろう。
「おいお前ら、うるせーぞ!!
寝らんねーじゃねーか。」
ギャーギャー騒ぐ皆を静かに一喝する青…その言葉にさすがの皆もポカーンとしている。
「あーあ、小便してくらぁ」
そう言いながら立って扉に向かう青を止めるのはカナちゃん。優しくて勇敢な勇者だね、カナちゃん!
「ちょ、ちょっと倉田くん?
外…今危ないよ? 何かあったら…」
「そんなにオレが心配か…?
喝!!」
その言葉と同時に、髑髏の首飾りを取り出して煙を出す青田坊。その煙を吸った先生やカナちゃんたち清十字団は次々と眠り始めた。技なのか物理的な攻撃なのか…どっちだ!?
「おらドケ陰陽師」
『この子達の見張り、よろしくねぇー♪』
「オレらは外の掃除でもして来ようかねぇ」
そして唯一無事な部屋番の陰陽師を無視して、部屋を出る。
そしてびっくり…
外に出てみれば、大量の妖怪に陰陽師が押され気味な状態だった。
『! あれは…』
視線の先にはしょうけらと秋房。確か原作で青はしょうけらと戦ってた…よね?
『青、あの妖怪…アンタに任せていい?』
「了解でさぁ、お嬢!」
しょうけらにトドメを刺されそうになっている秋房を、寸でで助ける青。私は青の邪魔にならないように周りの雑魚を蹴散らそうかな。
「量が多いな…」
『…虫嫌いなんて言ってられないわね。』
襲い掛かってくる虫妖怪を次々と斬り捨てる私とお父さん。そうだ、アレを出来るかどうか…やってみようかな。
『…明鏡止水〈斬〉』
「おおっ、新技かい?」
『まぁ…うん』
新技ではないけどね、リクオが原作でやってたのを真似ただけだし。案外出来るもんだな…妖怪クオリティのおかげか?
にしても妙だ…さっきまで多かった妖が少し減った気がする。どこに行ったんだ…?
「しょうけら様!!」
「中にこやつらが…」
目の前の敵を斬り捨て、声のした方を見る。
そこにはカナちゃん、巻、鳥居が虫妖怪に運ばれてる光景が広がっていた。
『カナちゃ…くっ、鬱陶しいな虫ごときが!』
皆の元へ行こうとするのを邪魔してくる虫妖怪。邪魔くさくて堪らない。
『明鏡止水〈桜火龍〉!!
邪魔するヤツぁ灰になれ。』
2匹の龍炎で雑魚妖怪を片っ端から片付けていく。
一方、しょうけらはカナちゃん達の顔を見て、首を横に振る。
「違うな…こいつらじゃあない。」
そして武器である十字架を近くにいるお爺さんに向ける。
「きこうか27代目…
〈破軍を使った少女〉はどこにいる?」
「ゆらなら…戦いに出ておるよ…」
「そんな筈ないだろう…?」
「ふん…好きなだけ調べてまわれ…
だがそうしてる間にもゆらは歩を進めるぞ。
ワシを殺すなら殺せ。我らの未来はもうつむがれている…
必ずやあの娘が代わりに…!!」
言い終わらぬ内に武器をふるうしょうけら。
だがそれは27代目に届くことはなく、鋭い金属音をたてる。
『…邪魔するよ。』
刀でギリギリと抑えていた十字架を、力いっぱい薙ぎ払う。そんな私を「誰だ貴様は…」と睨みつけていたしょうけらだが…
「………!?
そうか、貴様が…鬼童丸が言っていた例の人間か。主の肝ならさぞかしマリアも喜びになるだろう」
『悪いけど…奴良組は仏教だからさ、
そのマリアちゃんてのの為に自分の命差し上げる理由ないわ。』
「愚かな…!
理由がない? 全ての人間は神への供物なのだ。」
そう言いながら、
カナちゃん達3人を抱えて、しょうけらは長々と話し続ける。
「神におうかがいをたてよう。
神よ、この子らの罪を…受け入れますか?
…おお、天よ…主よ…
分かりました。今すぐこの子らを殺します。羽衣狐様に生き肝を…届けましょう!!」
しょうけらのその言葉に、後ろで畏が発動されるのを感じる。青田坊だ。
「…お嬢…こいつぁオレにやらせてくだせぇ」
青の首に掛けている頭蓋骨が飛び散る。
そして、カナちゃん達を今にも殺さんとしているしょうけらに…後ろから飛び掛かる青田坊。
「子供たちから…手ぇはなせや」
一瞬で地面に埋まるしょうけらを見て、周りの虫妖怪が激怒する。
「しょうけら様…!」
「お、おのれぇ!!」
襲い掛かってくる虫妖怪に、青が秋房の前に立つ。
「…き、君は…」
「青田坊だ。
守るぞ…ここはくずしちゃいけねぇ」
『青!!
その子達をかして、お父さんと一緒に部屋に連れ戻しとくわ。』
いくら力持ちの青と言えども、左手に3人を抱えながら戦うのは流石に辛いだろう。かと言って彼女達をそこらに置いとけば狙われかねないため、青から3人を受け取る。
後は青が暴れて虫妖怪を追い払ってくれるだろう。
そして、
お父さんは2人、私は1人を抱え…先程の部屋へと戻ったのだが…
『! この人…』
部屋にたどり着けば、部屋番の人が血を流して倒れていた。きっとカナちゃん達を守ろうとしたけど、勝てなかったのだろう。
「男共はどこも異常ないぜ…」
お父さんの言葉にほっとしつつも、直ぐに部屋番の人の治療に取り掛かる。
…だが、
「鯉菜…そいつはもう…」
首を横に振りながら、お父さんは私の肩に手を置く。…血を流し過ぎたんだ。
毒や病を祓ったり、傷口を塞ぐことはできるが…あくまで、私達の治癒はそこまでしかできない。血を増やしたり、弱まっている心臓を復活させたりはできないのだ。
『……ここに、残っておくべきだった。』
「…そう言うな。
お前がここに残っていたとしても、今度はあの爺さんが殺されていたかもしんねぇだろ。」
『………分かってるよ。』
そんなの言われなくとも分かっている。
けれど、原作を知っていたからこそ…事前に考えてればもっと多くの者が死なずに済んだのではって思ってしまうんだよ。
「…いくら青がいるとはいえ敵の数が多過ぎる。
死人を少しでも減らしてぇなら…立ち止まってる暇なんざねぇぞ、鯉菜」
……お父さんの言う通りだ。
ここで自分を責めてウジウジしてたって、時間の無駄だ。それこそ、助けられた人が本当に死んでいくかもしれない。
拳を握り締めながら立ち上がる。
『………ありがと』
反省は後だ。
今は外にいる虫妖怪を駆除することに集中しよう。
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