▽ 別行動
「不幸中の幸いだな。
不時着した九条の辺りからすぐ近くだった。」
(首無が)地図を見ながら、伏目稲荷神社へと一行は向かう。私も地図を最初見たけど、全然分かんなかったので…ただ皆についてってます。
まぁ、いつもの事ですけどね!
「お、おい!! 見ろ…なんじゃここは…!?」
神社へと続く階段にはおびただしい数の鳥居がかかっている。
『…ちゃんと並んでたら綺麗だったかもね』
「…そーか?
ちゃんと並んでても気持ちわりィと思うが…」
『お父さん、センスない!』
「お前よりはマシだ!」
「何やってんだよ。とにかくここを探るぞ!」
リクオにパシンと親子揃って頭を叩かれる。小妖怪は恐ろしいとブルブルしながら鳥居をくぐっていくが、私は少し楽しい。
『別にコワイの大好きなわけじゃないよ』
「…誰に喋ってんだお前は」
日本文化大好きなのに、前世でも京都行ったことなかったから…こんな形とはいえ京に来れてハッピーなのだ。
そして数々の鳥居を越え、ようやく境内に着く。
「まだ結構参拝客とかいんのな」
「見えない奴らには柱も見えてないのだろう」
「暗いが時間は昼前だ」
「こんな時間に女でいるなんて初めてだ。
動きづらくってしょうがねぇ!」
「淡島ってさ…便所どーしてんの?」
「奥に進むにはルートがいくつもあるから…
何手かに別れよう」
「あの柱は妖気かなにかだ。きっと何かある!」
ワイワイと境内を見る者もいれば、下らない話をする者もいる。一方では真面目な話をする者もいる。
『………三の口。私とお父さんは別行動するって後でリクオに伝えといて。
あぁ…自分から伝えなくとも、誰かが私達がいない事に気付いたらでいいから。お願いね。』
肩に乗せていた三の口に小声で口早に言う。
理由を追及するわけでもなく、三の口は分かったと頷くからありがたい。
「…別行動って…どこ行くんだい?」
『…………。』
行く当ては特にない。
ただ、ここを出たら確か次は土蜘蛛との戦いになる筈だ。…土蜘蛛との戦いの場に、私とお父さんは居てはならない。…リクオが容赦無しに瀕死にあうのを、黙って見てられないからだ。例え私が動いてもきっと土蜘蛛には勝てないだろう。
だが、お父さんは?
左肩が以前のように動かないとはいえ、お父さんなら…鬼纏ができる鯉伴なら土蜘蛛を倒せるかもしれない。
でも、それは原作を大いに崩すかもしれないから避けたい。
『(かと言って…そんな事言える筈もないしなぁ。
何て言い訳しようか…。)』
「おい…鯉菜ー?」
だんまりする私に、わけを言えとしつこく催促するお父さん。しかし、そこはちゃんと明鏡止水で皆から一緒に隠れてくれてる。
結局…どう言い訳しようかと、冷や汗をかきながら内心焦っていれば、
『!!』
神だ…神が現れた!
「なぁ…言ってくれねぇなら行…」
『ちょっと待って。皆が行ったら話すから』
「…おぅ。」
皆が次の地点へと分かれて進み、境内に誰も奴良組の者がいないかを確かめる。
『よし!』
「で? 結局なんな…………何やってんだ?」
『なにって…人間の姿に戻っただけよ』
何でだよと言うお父さんの問いを無視して、先ほど見かけた神を追いかける。
……いた!!
『坂本先生っ!!』
「……あれ? 奴良じゃん。お前何してんの。」
先生…私はこれほどあなたに感謝したことありませんよ! なんて良いタイミングで来るんだ!!
「…鯉菜? そいつは?
まさか彼氏とかじゃねーよな!」
追いついたお父さんが私に問う。
そうか…三者面談とかいつもお母さんが来るもんね。授業参観は数学になったことがないし…知らないのも無理はない。
でもね、普通に考えて彼氏じゃねーだろ!!
「…奴良、おまっ…援助交際してんの…!?」
アンタはアンタで何無駄に深読みしてんだよ!!
『…この人、坂本先生。私の担任。
コッチは父で、援助交際なんかじゃないので安心してください。』
全てのつっこみを飲み込み、淡々と紹介した私は本当にお利口さんだと思う。
「何だ先生か…!
いつも娘がお世話になっております。」
「いえいえ…! まさか鯉菜さんのお父さんだとは知らずに…先程は失礼しました。
担任の坂本でございます。」
お互い怪しいものじゃないと分かり、ペコペコと互いに頭を下げて挨拶する。
『先生ぇー1人? 寂しいね☆』
「寂しくなんかないもんねー!
オレには花子がいるもんねー!!」
『…花子?』
「おぅ、ほら…花子。」
そう言って取り出したのは3DS…あぁ、ついにそっちの方に彼女を創ったのか…。
そんな痛々しい雰囲気を一転しようと、お父さんが口を開く。
「先生は…旅行ですか?」
「えぇ! たまには日本文化を味わうのも良いかと思いまして…にしても天気が悪くてねぇ、もう少し時期を改めるべきでしたかねぇ。」
ハハハと苦笑いして言う先生…本当、タイミング悪いよ。まぁ、私的には超グッドタイミングでしたけど。
「奴良さんは家族旅行ですか?」
「えぇ、まぁそんなところです」
『清十字団の旅行に、保護者監督としてうちの父が来たって感じですね。』
そう言えば、あぁアノ変な部活の…!と納得する先生。
『でも、今京都が危ないらしいんです。花開院ゆらさん…ご存知ですか? リクオのクラスにいる転校生…』
「あぁ…うん…………TKGが好きな子だっけ」
ゆらは何を話してるんだ。でも…
『それです!
その子、実を言うと有名な家の陰陽師でして…
タイミング悪く来た私達を保護してくれてるんです。だから、先生も一緒に花開院さん家に行きません? でないと…妖怪に食われるらしいですよ。』
「…オレ霊感ないんだけど。霊感ない人も食われるの?」
『霊感有るとか無いとか関係ないみたいですよ。ちなみに、京都に来た清十字団の何人かも妖怪に危うく食われかけたらしいです。花開院の者に助けられたみたいですけど…』
そう言えば、驚いてどうしようかと悩み出す坂本先生…一方で後ろに立つお父さんは「それ本当かい?」と聞いてくる。
そんなお父さんに、振り返っていたずらっ子のように笑いながら、べっと舌を少し出す。
その行動に一瞬キョトンとするお父さんだが、私の言わんとすることが分かったのだろう。
くくっと笑って、こちらにウィンクした。
『行きましょう?
皆避難してますし…今更一人増えようが変わらないでしょうから。花開院の者に守ってもらいましょう』
「……あぁ、じゃーお言葉に甘えようかな。」
案内してくれと言う坂本先生に頷く。
一時はどうなるかと思ったが…よかったよかった。
『それじゃあ…花開院家に行きますか!』
(「清十字団が襲われたってのは嘘だったんだな…(ヒソッ)」)
(『当り前でしょ、仮に本当だとしても知る筈ないし。ウソも方便よ(コソッ)』)
(「・・・・?」←聞こえてない先生)
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