▽ 成長(鯉伴side)
リクオが白蔵主に勝ち、船が京妖怪共に襲われる。敵の狙いは船を落とすことだ。何としてでも船は守らなくちゃなんねぇ…。
だが、その前に…。
「あいつぁどこに行ったんだ?」
気が付いたら姿が見えない娘の姿を探す。
…ん? 何だかあそこ騒がしいな。
「ぐわっ!!」
「何だ!?何もないのに…急に斬ら…っ!?」
「な、誰だぁ!? …あぐっ…!!」
次々と、誰も居ないはずなのに、斬られていく敵の集団を見つける。もしかして鯉菜か?
『明鏡止水って便利だなぁ〜』
…見えた。普通にいた。つうか呑気だな。
「やぃ、そこの娘さんや。」
『! …なんだい、鯉さん。』
「孤立しての戦闘は危ないぜ?」
喋りながらも、お互い襲ってくる妖怪を斬り捨てる手を動かすのは止めない。
『大丈夫っしょ。心配しすぎだっての。』
「何言ってんだ。
明鏡止水は周りのヤツも気付かねぇんだぞ…
つまり、お前がピンチの時誰かが助けに来てくれるかも怪しいぜ?」
『大丈夫ってー。無茶しないから。』
ンな事言ってるが…お前さん今狙われてるぞ。
遠くから、弓矢で。しかも気づいてないし。
「…はぁ、しょうがねぇなぁ、
オレがお前の護衛になってやらァ!!」
飛んできた弓矢を、鯉菜に当たる前に切り落とす。
『…護衛が必要なのはそっちなんじゃなくて?』
言いながらオレの横を通り過ぎる鯉菜。振り返って見てみれば、妖怪が何匹か倒れている。
オレを背後から狙おうとしてた妖怪を斬ったのだろう。
「そうだな、じゃあオレの護衛はお前さんに頼んだぜ!」
『! …なぁんか…お父さんに誘導された気がする』
「何のことだい?」
まさかここまで予想通りに上手くいくとは思わなかった。オレが鯉菜の護衛をやるっつったら、ムッとしてコイツは言い返すと思ったが…本当に期待通りだ。お互いがお互いを護衛するってこたぁ、必然的に一緒に行動するってことになる。
別にオレは護衛なんざ要らねぇ。だが、鯉菜には特に必要だ。
「お前…遠野で京妖怪に連れてかれそうになったらしいな」
『!! …リクオから聞いたの?』
「あぁ。迎えを寄越すって言われたんだろ。」
本家を出る前にリクオから聞いたことを思い出す。きっと鯉菜を見つけ次第…今度は確実に連れ去ろうとするだろう。
しかも相手は京妖怪…鯉菜がどれくらい強くなったかは知らねぇが、まだ1人で戦わすのは不安だ。
『それで護衛…か』
オレの意図が分かったのだろう。鯉菜が納得したような顔をして言う。
「…オレが護衛じゃ嫌かい?」
『うんにゃ…むしろ都合がいいかもね。
コチラ側としても。』
「都合がいい?」
『首無とかだと自由に動けないじゃん。真面目で小煩いから。』
その言葉に鯉菜が何を言いたかったのか納得する。真面目でいい奴なんだがな…確かにアイツは堅い。
…ん? つーか、自由に動けないってこたァ…リクオとは別行動するつもりなのか?
『うわっ…!』
「おっと! 大丈夫かい?」
船が大きく揺れ、バランスを崩した鯉菜を支える。どうやら宝船が攻撃されて気絶したようで、どんどん降下している。
『…船酔いしそう。』
「頼むから吐くなよ」
真面目に言ったのにドスッと脇腹を殴られる。
…今度はオレが吐きそう。
『川に着地するつもりか…』
こいつの視線の先を目で追えば…
喧嘩してたイタクと首無が協力して、船を川に着地させようとしている。
あの2人…何気にいいコンビだよな。
「! …おいおい、このままじゃ川から出ちまうぜ。」
水に着地出来たもののブレーキが効かない。
だが、オレの横を通り過ぎた人物に、大丈夫だと安心する。
『……っ…猩影……』
船の先端にまわり、力ずくで船を押し止めようとする猩影。そして…氷で船を固め止めようとする雪女。氷麗ちゃんかと一瞬思ったが、ここにはいねーんだった。
「…遠野の…雪女か」
『冷麗だよ。 …ちなみに私の師匠。』
「そうなのかい…へぇー優しそうな人だな」
『…………。』
何故かそこで遠い目をする鯉菜…お前さん顔が死んでるぞ。何があったんだ。
一方…
「やったぁあ!!止まったあああああああ!!」
無事船が着地したことで、ワイワイと騒ぐ奴良組。安心したが正直そんなに喜べねぇ…まさかここまで京の状態が最悪だとは思わなかった。
『……どーしたもんか。』
ボソッと呟く鯉菜に、どうしたと聞くが、何でもないと返される。
…コイツいつも悩んでねーか? 禿げるぞ。
「おっ、どうやら行くみてぇだぜ?」
船から降りてどこかへ向かうリクオ。
だが、その足は白蔵主によって止められる。
「待て! ぬらりひょんの孫!!
私は…羽衣狐様に拾われた者だ。お主らの見方になるわけにはいかん!
だが、一つだけ教えてやる…まずは伏目稲荷に向かえ。らせんの封印の一番目の場所だ…!!」
らせんの封印…っていやぁ、陰陽師の封印だったっけ。1回親父に聞いた気がするんだが…よく覚えてねぇな。
「さようならば失礼!! お主たちでは適わんよ!!」
そう言い残して潔く空に消えていった白蔵主。
あれは…
『アトムを意識した飛び方ですねぇ…』
「…オレも同じ事を考えてた。」
『惜しいなぁ…あの人が奴良組に入ったら楽しくなるだろうに。』
「だなぁ…お前に弄ばれるアイツの姿が目に浮かぶよ。」
だが…これで行き先が決まったな。
伏目稲荷へと向かおうとするリクオらに、小妖怪は一旦休もうと言う。
なぁにビビってんだか!
「臆するな! それこそ敵の思うツボだ。まずはつらら達と合流する!!」
「へ、へいっ…」
「および腰じゃあ格好がつかねぇぜ!!」
あぁ…成長したなぁ。
ちょっと前までは三代目を継がねぇとウジウジしていたのに…。段々と大将のサマがついてきてる。
「そんじゃ…行くぞてめーら。」
そう言って、百鬼を連れて再び歩き出すリクオ。
『顔、にやけてるよ』
ニヤニヤして言う鯉菜…こちらも大きくなったもんだ。
「あぁ…。
頼もしくなった息子の背を見てついて行くのも、悪かねぇな…」
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