この手に掴んだ幸せを(ぬら孫) | ナノ

▽ 白蔵主

「きけ、そこの船。我こそは京妖怪白蔵主!
ここは鞍馬山上空より東に約4里の地点。」


大量の京妖怪がこちらを囲む中、敵は一斉に襲ってくるわけでもなく、ただペラペラと話す。

『…鞍馬山、か。』

「…ちゃんと何処か分かってんのか?」

『分かるわけないじゃん。』

だろうと思った、とコメントするお父さん。
失礼な奴だな。


「我らは羽衣狐様より京の空の守護を仰せつかりし者。誰の物かもわからん船をここから通すわけにはいかん!何処の手のものだ、名を名乗れ!!」


その言葉に敵が武器を持って構えるが、襲ってくる気配はない。


「名を名乗れ…敵であっても名乗るまでは手は出さん…。」


そう言う白蔵主に、遠野勢も含め奴良組は狼狽える。


「おぬしらは敵か? それとも味方か?
はたまた羽衣狐様の配下になりに来た者か?」


最後の白蔵主の言葉に「バーカ!」と食いかかったのは…納豆ちゃん。
お前、雑魚妖怪なのに…威勢だけはいいな。


「だれがそんなために来るかよ!
この<畏>の代紋が見えねーかい!」


船の帆を指差してドヤ顔で言う納豆ちゃんに、今度は京妖怪がどよめきだす。そして、400年前の仇だと言って一斉に襲い掛かってくる。


「塵にしてくれる!!」

「来たぞ!!」


何人かが戦い始め、本格的に戦いが始まるかと思ったその時…


「やめんか!!」


白蔵主は大きな武器を振り下ろしながら止まるように叫ぶ。


「例え奴良組だろうが…互いに名乗ってから戦うのが筋であろう。これを守れない奴は直ちに失せろ!
そして…奴良組総大将ぬらりひょん!!
なにゆえ名乗り出てこんのか。」


出てこないなら総力をあげてこの船をたたき落とすと告げる白蔵主に、奴良組は「出すわけない」と言って小声で話し合っている。
…相変わらず過保護だなあ。


「ここは私が出る! 大将が出る必要はない。」


武器である紐を口に加えながらそう結論出したのは…やっぱり真面目な首無。


「遠野勢! 大将の警護を頼む。」

「…どこに、その大将ってのはいるんだい」


首無の言葉に、イタクは敢えてそう返す。
一方のその噂の大将と言えば、首無たちの側から離れ、白蔵主の元へと向かっている。大将として名乗り出るつもりなのだろう。
だが、奴良組の過保護レベルをなめてはならない。


「リクオ様! 無茶はおよしください!!
おそれながら、今のリクオ様では…」


予想通り、やはり止めにかかるのは首無だ。
しかし…


「なっ…!?」

「首無。こんなところでビビッて名乗りもあげられねえようなら、どの道羽衣狐にゃ刃がとどかねえぜ。」


鏡花水月で首無をすり抜けるリクオ。


「しかし…! リクオ様…!!」

『首無。リクオも私も…
遠野で遊んでいたわけじゃないのよ』

「やらしてやりゃいいじゃねえか。
だから強くなれねえって言ってんだよ。てめーらみたいな真面目な側近がいりゃあな。」


お父さんの説得もあってか、少しは納得してくれたのだろう…首無は諦めてリクオの行く末を黙って見ている。


「オレが大将だ。京には羽衣狐を倒しに来た。
ここを通らせてもらうぜ。」

「随分と若い大将だな、ぬらりひょんではないのか…?
…まあ、よかろう。この白蔵主が相手になろう!坂東妖怪の心意気…見せてみよ!
お主!…名を名乗れ!!」

「奴良組若頭 ぬらりひょんの孫 奴良リクオ!」


ついにリクオと白蔵主がやり合う
…と思ったが、


「一つ訊こう。なにゆえ名乗り出た。
名乗れとは言ったが、これまで拙僧の力を見て名乗り出た者は…
己の力も分からぬ馬鹿者だけだ!!」


そう言って鬼發をする白蔵主。
…もういいからサッサと始めろよ!
しかし、リクオもこの畏に負けじと鬼發をする。


「あんたも馬鹿じゃねーか。何も言わずに船を落とせばいいものを…馬鹿正直には馬鹿正直で応えたくなったんだよ。それと…
邪魔する奴は斬って進まなきゃならねえからな」

「ほう…士道をわきまえ、かつ、
威勢のいいクソガキだ。」


そう言って、
白蔵図は隣にあった屋形船をぶっさし、それをリクオに投げつけた。ようやく始まった…。
続いて、それを避けるためにジャンプしたリクオの頭を白蔵主が槍で突き刺す。だが、それは鏡花水月による幻で、実際のリクオは無傷だった。


「ありゃぁ…鏡花水月じゃねえか。」

『言ったでしょ?
鬼發と鬼憑はものにしてるって。』


リクオの姿を嬉しそうに見るお父さんの横顔は…まさしく父親だ。そして戦ってまだ一分も経ってないのではないだろうか。あっという間に、白蔵主の自慢の槍をリクオは粉々にする。


「ワシの茶枳尼が…それが噂の称々切丸…か」


…泣くのか? 泣いちゃうのか!?
泣くのだろうかと半分ワクワク、半分ハラハラして見守っていれば、
ハハハハハハハハ!!
と白蔵主は一人で急に笑い出したではございませんか。つまらん。


「思ってもみなんだわ、これ程までにワシが容易くやられるとは!!」


ドカッと腕組みしながら座り、首を斬れと清々しく言う白蔵主。こいつ面白いな、奴良組に入ればいいのに…残念。


「ぬ!! しばし待て!
今辞世の句を思いついた!!」


そしてどこから出したのか…
筆と札を取り出してさらさらと字を書く。


身はほろび
京の空に消えるとも
京妖怪の魂
ここに置きます
羽衣狐様 
(字余り)


『……っく、』

「おま…っ、笑うな…よ、…ぶはっ」


シーンとなった中、声を出して笑えるほど私の神経は図太くない。だから、プルプルと笑いを耐えるのに震えているのはどうか見逃してほしい。


『ほとんどどの段も字余りじゃんか…ブフっ』


私とお父さんが一生懸命笑いを堪えている一方で、首を斬れと言われたリクオは木の棒で白蔵主の頭をたたく。


「南無ー! 羽衣狐様ー!
…痛い!!」


首を斬れと言ったのに、木の棒で済まそうとするリクオを白蔵主が睨む。


「拙僧を…愚弄する気か。」

「…誤解しねえで聞いてほしんだが、オレはアンタが気に入った!だから、今ので死んだ気になって、アンタ…力をかしちゃくれねーか?」


だが、返事を聞く前に突如…船が攻撃される。


『…大将はもうどうでもいいってことか。
ま、向こうの都合なんか知ったこっちゃないけどね。』

「おいおい…こりゃあ、もしかしなくとも、船が落ちるんじゃねーか?」


船を落とそうと、あちこちから襲撃をされる。
これは…何とかしないとねぇ。


『じゃあ、私達も働きますか!』

「あぁ…行くか!」




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