▽ 京到着!!
「ありがとな、鯉菜!
おめぇのおかげでバレずに船に乗れたぜ」
『どういたしまして』
ただいま、鴆と私、お父さんの3人でお酒飲んでます。と言っても私は飲んでないけど。
「ったく、リクオのやつ!
いっつもオレを置いていこうとしやがって…」
『まぁ……鴆は体が弱いからね』
「鴆を明鏡止水で船に乗せたってバレたら、お前さんも怒られるんじゃねーか?」
『黙ってそれを見てたお父さんも共犯ということで怒られるわね。』
「ハハハ…3人で怒られるってか、それはそれで楽しそうだな」
「…リクオが大変って言ってた意味が何となく分かったぜ」
『え、そんなこと鴆に相談してたの?』
ほのぼのとたわいもない話を人気のない所でしながら、お酒を酌み交わす。
「鯉菜」
『はいはい…飲むペース早くない? 鯉さん』
グイッとこちらに盃を渡すお父さんに、お酒を注ぎ足す。
「そーか? まぁいいじゃねーか。出入りなんだからよ、楽しくやってこーぜ??」
『ちょっ、酒臭い。鬱陶しい。』
盃を片手に、私の肩に腕を回していうお父さんは酔ってるんじゃないだろうか。
「鯉菜様ー! 二代目ー!! 会議ですよー!?」
その言葉を合図に明鏡止水をする私、そして…
『……お父さんは行けばいいじゃん』
「お前が行けよ」
「いや、二人共行けよ!」
畏を使って隠れる私達に突っ込む鴆。
だって大したことないっしょ。どーせ首無とイタクが喧嘩して会議なんかできないんだから。
そしてしばらくして、
私とお父さんを探す声が止んだため、畏を解く。
「んで、リクオは遠野に行って強くなったのか?
おめーも。」
『まぁ、リクオに関しては鬼發と鬼憑の基本は大体マスターしたんじゃない?
私もそれは大丈夫……なんだけど、』
歯切れの悪い私に、続きを促す二人。
『……覚悟がないって言われちった。』
「「覚悟?」」
『まぁ、要は、太刀筋に迷いが見えるってこと。
あと私がチキンハートってことかな!』
「戦うのが怖ぇのか?」
『…ていうよりも、傷付くのを本能的に恐れてるって指摘されました。
…………だって痛いの嫌じゃん!?
はぁ〜リクオは凄いなぁ。』
今から出入りなのにドヨンとすんなよ、と苦い顔をして鴆が言う。
「別にいいじゃねーか。傷付くのを恐れるのも大事なことだぞ? 無闇に突っ込んで傷つきまくるやつよりかは断然いいさ。
それに、命の尊さをちゃんと分かってるってことでいんじゃねーの。」
女の子だし傷ができるのもなぁ…と顎に手を添えて渋い顔をするお父さん。
〈女の子〉って言葉はこういう時便利だね。
「それに…リクオもだがお前もまだガキなんだ。しかも平和な時代に生きてる。だから焦らなくても、徐々に戦いに慣れればいいさ。」
『……ありがとう、〈頑張る〉よ』
私の言葉に驚くお父さん。
驚くのも無理はない、私が〈頑張る〉とか〈努力〉という言葉を嫌ってるのを知ってるから。
…怠け者だから嫌いってのもあるけど、それだけじゃない。
頑張ったり努力することは、本当に大変で苦しくて、難しいことだから…。
だからやすやすとその言葉を使いたくない。
「おぅ、無理はすんなよ。」
そう言ってグイッとこちらに盃を差し出して来る。
『ねぇ、本当に大丈夫? 飲み過ぎじゃない?』
そんな事を言いつつも、お酒を注ぐ私も私だが。
「お前も飲めよ」
「もう一個、お猪口あるぞ。」
『こんな時に飲めるわけないでしょ、お酒に強いかも分からないのに。』
二人の甘い誘いをちゃんと断った私は偉いと思う。誰か褒めてくれ!
だが突如、
物凄い破壊音と共に、部屋の一部が壊れる。
あれれ…私褒めてくれって念じただけなのに。
褒められるどころか…何これ、怒られてんの? 何なの?
「おいおい……何の音だぁ?」
「誰か酔っ払って暴れてんのかねぇ……」
『……ん? あそこにいるのって…』
壊れて瓦礫となった所から出てきた人物は首無とイタクだった。
喧嘩とは若いねぇ〜とケラケラ笑って酒を飲むお父さん。鴆も無視して飲んでいる。どうやら止める気はないようだ。
『ひゃっ』
「おいおい、そっちばっか見てねぇで話そうや」
腰に腕を回して引き寄せる鯉さん…
これはもう完璧に出来上がってるな。
「に、二代目…酔いすぎじゃないですか」
『酔っぱらったオヤジに絡まれる若い娘の気分が良くわかるわー』
「なんでぃ、照れてんのか?」
照れてるよ。
これが知らないジジイだったり、前世の父だったら顎に鉄拳食らわしてるところだよ。
でも鯉伴だから照れてるよ。悪いかこの野郎。
『つぅかさ、どんどん喧嘩が悪化してるよ?
鴆くん頑張れ。』
「やっちまえ、鴆!」
「何でオレ!?」
何でオレが…そうブツブツ言いながらも、言う通りに動いてくれる鴆はお父さんと違って頼もしい。
「くるぁぁああぁぁぁぁぁああ!!!!
何しとんじゃああぁぁぁぁぁ!!!!」
『すっげ、巻舌うめぇな。』
「オレもできるぞ。」
『はいはい。』
「京に着く前にぃぃー!?
船ぶっ壊れちまうだろーがぁあボケぇえ!!」
突然の鴆の素晴らしき怒鳴り声に、首とイタクだけでなく、船にいる者全員の動きが止まる。
「!? ……え!?」
「安心しな首無!!そいつぁオレの毒じゃねぇ。
ただの傷薬よ!!」
傷薬をぶっかけられて、ずぶ濡れな二人にそう告げる鴆…お前は本当に病弱なのか?
「それで終い!! これ以上味方同士の傷につける薬はこの鴆、持ちあわせてねーんだぜ!!」
『喧嘩っ早いなー二人共。』
「若いねぇー二人共。」
屋根から降りる鴆に続き、私とお父さんも一緒に降りる。
だが、降りてすぐ後悔……
ゴン 「……っ!!」
ゴン×2 『いっ!? だぁ!?』
ゴン×3 「ア! イ!? タァー!??」
上から鴆、私、お父さんの順に、リクオにグーで頭を殴られる。
「何しに来た……鴆。」
『…何で2回も殴るの。』
「鴆をこっそり連れてきたの、どうせ姉貴と親父だろ? それと、会議をバックれた分を合わせて2回だ。」
なるほど、ならば仕方ない。許してやろう。
「待て、オレは1個余分に殴られたぞ。」
「酔い覚ましのぶんだ。」
それはナイスだぞ、リクオ。
「てめー、リクオ! またオレを置いていこうとしやがったなぁ!? 本家ではってたんだコラー!!」
「オメー体弱いじゃねーのかよ」
「だからって明日明後日死ぬ訳じゃねーんだよ!!」
「なんの屁理屈だそりゃ!!
…血ヘド吐いて倒れたって知らねーぞ。」
リクオの言葉に、鴆は心底嬉しそうにして口を開く。
「馬鹿言え! むしろ本望だな!
てめーが三代目になんの見届けるんならよ〜!!」
『そうね。それに大丈夫よ。倒れた時は、私かお父さんが治癒するから。
…効くのか知らんけど(ボソッ)』
「おいおい。」
「つーわけだから二人!
これくらいで…テキトーにしとけや!」
「「…………。」」
よほど衝撃だったのか、今もなおぽけーっと思考停止中な首無とイタク。
「はい、二人共。鴆の畏に気圧されたってことで…いたみわけね!!」
ポンポンとフリーズしてる二人を覚醒させる毛倡妓。しかし、どちらも頑固なためフンっとお互いそっぽ向く…が、
「……タク。…鎌鼬のイタクだ。」
去り際にボソッと名乗っていくイタクはやはりツンデレだ。気に食わないが、ちゃんと首無の強さを認めたってところだろう。
『イタク…』
去っていくイタクを呼び止めれば、何だと返事が来る。
『……私は、
人間サイズのイタチよりも、昼の時の動物サイズのイタチの方が好きだな。』
「知るかっ!」
「オメーが遠野モンか。おいおい随分目付きの悪いガキじゃねーか」
「……何だと?」
『沸点低っ!! そして鴆も人の事言えねぇぞ!?』
「んだとゴルァ!!!」
ギャーギャーと騒いでいれば、突如周りから大量の妖怪が出てくる。
「どこの船だ!?」
「月も沈んだ夜明け前…命知らずが迷い込んだか?」
宝船を囲むようにして、武装した妖怪共がこちらをジロジロ見る。
「囲まれてたのか!?」
さっきまでの雰囲気が一変して、空気が張り詰める。
「どうやら…着いたようだな!
京妖怪のお出迎えだぜ!!」
(『うっわぁ・・・』)
(「どおした?こえーのか?」)
(『何で虫妖怪が沢山居るんだよ・・・帰りたい・・・キモっ。マジキモっ!!』)
(「・・・お前さんのその虫嫌いも凄いよな」)
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