この手に掴んだ幸せを(ぬら孫) | ナノ

▽ 宝船

「あー痛でで……」

『どうかしたの? お父さん』

「…どっかの誰かさんの見事なサバ折りで腰をやられたんだが?」

『あら、やるわねその人。』


腰をさすっているお父さんと、それをボケーッと見る私。
え? さっきまでのシリアスはどうしたって?
あんなモン…お父さんと周りのKY発言によってぶち壊されました。


「にしても、遠野のやつら面白ぇな…ハハ」


さっきから庭で好き勝手やっている遠野勢を見て、お父さんは楽しそうに笑う。
何だか嬉しそうだ。リクオに心を開ける妖怪の友達ができたのが嬉しいのだろうか。


「そういや、リクオはどうしたんだい?」


おじいちゃんの所に行った事を告げようとするが、


「よぅ、親父。久しぶりだな。」


噂をすれば何とやら……リクオ直々に現れた。


「おぉ…随分と逞しくなっちゃって」

『分かるの?』

「ん…? まーな。」


今の反応は絶対嘘だ。
絶対適当に褒めただけだぞコレは。


「親父も京都に行くのか?」

「…おぅ。
親として子の成長ってモンを見てぇしな。」

「ふぅん? じゃあそろそろ行ける準備しとけよ」


そう言葉を残してリクオは皆の元へ去る。
にしても……


『……やっぱ行くんだね』


責めるつもりも嘆くつもりもない。お父さんの事だから…何を言っても絶対に行くだろうとは思っていた。そんな私の心情を察したのか…お父さんは私の頭に手を置いて言う。


「なぁ…鯉菜。オレはお前が恐れているようなことは決してしねぇ。乙女には…ただ謝りに行くだけだ。奴良組の事情に巻き込んでしまったからな。
お前やリクオ、若菜を置いて行ったりなんかしねぇ、約束する。」

『……その言葉、信じていいの?』

「あぁ。」

『約束破ったら…地の果てまで追いかけて
ズタズタにしてやるから。』

「ハハッ……そりゃあ増々気をつけねーとな!
…鯉菜、オレを信じろ。」


ずるいなぁ…そんな目をして言われたら、信じるしかないじゃないか。


『……うんっ! ……ん?』


突如、大きな影とゴオン・・・ゴオン・・・という鈍い風の音が奴良組を支配する。
……何だ?


「おー……なっつかしいなー!!」


ヒュー♪と上を向きながら口笛を吹くお父さん、その視線の先を見れば…


『でっかー…空飛ぶ舟?』


舟を見上げながら、お父さんと一緒にリクオの元へ向かう。


「奴良組名物戦略空中妖塞〈宝船〉じゃ!! そして小判屋形船!! 遠出の出入りにゃ〜必須よ…大昔っからな!!」


ドヤァと腕を組んで話しているのはおじいちゃん。
…宝船か。普段はどこに居るんだろう。


「リクオ、鯉菜…
上から見下ろすと気ン持ちいいぞ〜
京都ってのはな!!」

『マジか。
じゃあ後でおじいちゃんには写メってあげるね。』

「晴れてっといいな。」


本当だねー、とヘラヘラ笑う私とお父さんを見て「そういう問題じゃねーだろ」という指摘がどっからか来たが、受理致しかねます。


「そんじゃ、改めて……
行くぞ、おめーら!!」


リクオの掛け声に、オー!!という威勢のいい声が屋敷全体に響き渡る。


『そいじゃ、宝船に乗りますか!』


ついに、京都での戦いが始まるのだ。




(『・・・あ、薬取ってくる!』)
(「薬? 何の?」)
(『酔い止め。船酔いしたら嫌だもの。』)
(「・・・そこは気合で乗り切れよ」)




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