そして、私は服をパジャマから着替えるなど朝の準備をした後、食卓へと歩みを進めた。


その、小さめの円テーブルの上に置かれている料理に目を遣ると矢張りお腹が鳴りそうになってくる。メニューはごく普通の朝ご飯という感じだけれど、すごく美味しそうだ。


「本当は、せっかくさゆりちゃんが来てるからもっと豪華なご飯作りたかったんだけどね。一寸、材料買いに行く時間無くて」


谷崎の言葉に、私は無言でふるふると首を振る。これでも充分美味しそうだし、私は朝余り食べる方ではないからこれで丁度良い量だった。


谷崎は首を振った私を見て安心したように微笑み、じゃあ、食べよっか、と食卓に向かって座った。
谷崎と向かい合う形になって、少しどきりとする。それに、よくよく考えてみたらこの状況、なんか、新婚夫婦みたいな……?


って!何考えてるんだ!私は!!ふと頭に過ぎった恥ずかしすぎる考えを、慌てて振り払う。また顔が熱くなってしまいそうになるのを必死に堪え、私は手を合わせた。

ん?あれ?手が、合わせられない。


「あ……………そういえば、腕……」


唐突に気が付いた。自分の腕が骨折している、ということに。

私は暫しの間、心の中で羞恥に悶え苦しんだ。今更気づくとか、どれだけ莫迦なんだ、私は。


「あ、そうだ。朝ご飯、一人だと食べれない、よね……」


すると谷崎はそう口を開いた後、何を思ったのかずいっと私の方に身を乗り出してきた。突然のことで、思わず心臓が跳ねる。


「な、ちょ、どうしたの谷崎…………って、待って、谷崎、あんた真逆」


私はご飯がよそってあるお椀に、いつの間にか置いてあるスプーンを差し込んでご飯を掬う谷崎の意図が予想できてしまった。……嫌な予感がする。


「え?だって、さゆりちゃん自分だと食べられないし……ちょっと恥ずかしいけど、暫くはこれで」

「いやいやいや!!何で私が谷崎にそんなことされなきゃいけないわけ!?本当に新婚夫婦みたいになってるじゃない!!」

「…………え?」

「……………………………あっ……!」


私は、思わず口に出た言葉に慌てて口を塞いだ。しかし時既に遅し。谷崎は目を丸くして──でもどことなく嬉しそうな雰囲気を醸し出して、私に聞き返した。


「何?新婚夫婦って…………もしかして、先刻もそんな風に考えてたとか」

「なっ……………!!ないわよ!!そんなこと!!ただ、一寸……………そう!昨日ナオミちゃんにそう言われただけだから!!!」

「えー、本当に?」

「ほっっ、本当よ!!」


すると、先刻の態度とはうって変わって妙に悪戯っぽい笑顔を浮かべながら「へえー」と疑いの眼差しを浮かべる谷崎に、私は顔にどんどん熱が集まっていってしまう。


な、何なのよ、こいつ………いきなりそんな食いついてくるとか………


「でも、ナオミに言われたこと思わず言っちゃう程、そのこと考えてたんだ」

「なっ……!!べ、別に、そういうんじゃないし!!」

「ふーん……まあ、いいや。それじゃあ別に意識する必要ないよね?はい、さゆりちゃん」


そして私の口元にご飯の入ったスプーンを持ってくる谷崎。私は何とかしてこの流れを変えようと考えを巡らせたものの何も言えず、しばらくして仕方なく谷崎の手にするスプーンに口を付けた。


ちなみに谷崎の作ったご飯は、見た目通りものすごく美味しかった。


……しかしそれどころではなかった私は、正直味なんて殆ど覚えていなかったが。


谷崎の家に居候して、1日目の朝。

時間は思ったよりも穏やかに過ぎていった。私がつい最近まで、大量に人を殺していたことを──忘れさせてしまうくらいには。


初メテノ朝


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