sideノエル

もうすっかり茜色に染まった空の下。夕陽に照らされてきらきらと輝く金髪を靡かせ、ノエル・キャリーは少々早足で歩いていた。

端から見ればそのフランス人形のように整った顔は一時たりとも崩れることはなく、淡々と足を進めているように見えるのだろう。しかし、彼女の内心は大変なことになっていた。

(〜〜〜太宰さん、あんなこと言うなんて………!)

――ずっと前から付き合っている彼氏さん。
それが、若し、あの人のことだとしたら……
そう考えるだけで、心臓が煩く鳴り出す。もう、何やっているんですか、私は。太宰さんのからかいを真に受けないって、どれだけ心に誓ったことか。

まあ確かに、私は先程の太宰さんの言う『彼氏さん』の所へ向かっているし、一緒に行動する時間も他の人より長いとは思う。でも、あの人は私のことを只のからかいがいのある人物位にしか思ってない筈だ。本当に。
でも、太宰さんの言葉を振り払おうとすればする程、ぽわんとあの人の顔が思い浮かんでくる。
ノエル!と笑顔で私の名前を呼ぶ声。まるで悪戯っ子のように細められる切れ長の瞳。そして、事件を解決する時に見せる真剣な表情。

――嗚呼、でも、矢っ張り好きだなぁ、なんて。

いやいやいや、何を考えているんですか私は。今はそんなこと考えている場合じゃないでしょう。下らないことを考え出した自らの思考を一蹴し、改めて本当の目的を思い返す。

そう、今日はあの人が私の部屋で待ってくれているのだ。
勿論、お家デートとかそんなものではなく、あの人にお菓子を振る舞うために。
前までは家で作ってそれを渡していたのだけれど、『焼き立てが食べたいし、ノエルが作って僕が食べに行った方が早いでしょ!絶対』と本人に言われたので、最近はそうさせて貰っている。そして、今日はそれを作る上で少し買い忘れてしまったものがあったため、買い出しに出ていたのだ。

あまり待たせると悪いし、早く帰らなければ。そう考え、私は更に早足で歩き出す。
そして今日作る予定のプリンの作り方をシミュレーションしていると、あの人が美味しいと言いながらこの前のクッキーを食べる姿をふと思い出して、思わず口元が綻んでしまった。矢張り、他の人に食べて貰って、美味しいと言ってくれるととても嬉しい。そういう所がお菓子作りの楽しさでもあるのだ。

美味しくなるように頑張って作ろう、そう決意して、私は道路へと続く道を曲がった。私の勤めている――武装探偵社の社員寮まであと少し。
すると、探偵社、という言葉でふと、ここ数分までの出来事が脳裏に過る。
そういえば――あの川べりに倒れていた銀髪の少年君は、大丈夫でしょうか。

きっと今頃、太宰さんと国木田さん辺りが事情を聞いているのだろう。確か――中島、敦さん、でしたっけ。
あの時川辺で会った、行き倒れの少年。私はそこで、何か不思議な違和感を感じた。確か、太宰さんと国木田さんが捜索していたのは『人食い虎』だった筈。あの少年、敦さんって、もしかして――

そうボーッと考えていると、あっという間に探偵社のビルが見えてきたことに気づく。此処が、私の勤務先でもあり、生活場所でもあり、あの人が居る場所でもある所だ。――まあ、敦さんと、人食い虎の件は、太宰さんが上手く解決してくれるでしょう。
私はそう思うことにして、探偵社のオフィスへと足を踏み入れた。あの人が、私が作ったお菓子を美味しいと言ってくれることを、密かに期待して。不思議と足取りは軽くなった。
- 5 -

prev | next
back


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -