――それから2日程経過した。


敦さんには社員寮の部屋が与えられ、正式に探偵社へと入社する用意がだんだんと整えられ始めていた。まだ慣れない様子だったけれど、敦さんの境遇を考えてみると、とても良い変化だと思う。


――あとは、入社試験を残すのみですね。


今度はどのような内容になるのだろう。敦さんは区の災害指定猛獣に指定されているので、あまり大掛かりなものは不可能ですし――

これは、色々と議論を重ねる必要がありそうですね。


私は色々と予想を巡らせつつ、今日も依頼解決の仕事に取り掛かった。

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――それから数時間後。


私は無事に事件解決の依頼を遂行し終え、探偵社へと戻ってきた頃にはもう夜になってしまっていた。

今日は少し疲れたな、と考えながら重い体を動かし、探偵社のオフィスの扉を開ける。


「あ、お帰り〜、ノエル」

「……あ、乱歩さん」


すると聞こえた暢気な男の人の声に、私は独りでに心を躍らせた。
顔を見なくても判る。乱歩さんだ。

乱歩さんがお帰り、と言ってくれたことが嬉しくて、先刻までの疲れで沈んでいた気持ちがぱあ、と明るくなる。


私は頬が緩まないように気を付けながら、乱歩さんのデスクの所まで歩いていった。


「乱歩さんも、お仕事お疲れ様でした。今、何されているんですか?」


乱歩さんの座る椅子の後ろまで移動し尋ねてみると、ああ、これはね、と何やら熱心にデスクに向かっている乱歩さんが答えた。


「今日買ってきた駄菓子にねえ、素晴らしいオマケがついてきたんだよ!矢っ張り違うなあこの銘柄は。サービス精神ってやつだよね、他の会社も見習わないと」


満足げに語る乱歩さんの手元を覗き込んでみると、どうやら砂糖菓子の型抜きをしているらしく私も何度か見たことのあるものだった。
駄菓子が大好きな乱歩さんに、何度も力説してもらったからである。

それにしてもこの時間帯にお菓子の型抜きで残っているという処は、全く乱歩さんらしい。


「あ、そういえばノエル」


すると唐突に、乱歩さんが何かを思い出したかのように手を止め、くるりと椅子を回して此方を向いた。

何を言うのかと思いきや、妙に表情の消えた瞳でじっと私を見る乱歩さんに、どきりと心臓が跳ねる。


――わ、私の顔に何かついているのでしょうか………


私は行き場を求めてドギマギと視線をさ迷わせるが、当然行き場などというものは存在せず、黙って俯くことしかできない。


すると突然、乱歩さんが私の肩にぽん、と手を置いた。少し驚いて乱歩さんの顔を見上げると、先程とはうって変わっていつも通りの笑顔で彼は告げた。



「悪いけど、明日から出張だから。よろしく!」



「………………へ?」



乱歩さんの口から発せられた言葉に、私は思わず間抜けな声を出して呆然と固まってしまった。


――え、この時間に、明日が出張?え?


混乱を抑えきれない私を乱歩さんは特に意に介する様子も無く、ぴらりと私に一枚の書類を渡し、話し始めた。


「北陸の地で、僕の待ちに待った連続殺人事件が起こったみたいなんだよね!その書類に大体の内容書いてあるから、出発までに読んでおくように」


まあ、大概ノエルの出る幕は無いだろうけど!と言って乱歩さんは再びくるりと椅子を回して先刻の砂糖菓子を嬉々として食べ始めた。


――矢張り私に、拒否権は無いということですね……

今からしなければならない準備の数々を考えると目眩がしそうだったが、まあ乱歩さんの身勝手に付き合わなければいけないのは今に知ったことではない。
何故なら、私は乱歩さんの探偵助手だからだ。そうなったときから、こうなることは既に判っていた筈である。


それに、私はこの自由奔放さに何度も救われているのだから、拒否権が無いのは当たり前だろう。


「……判りました。」


確かに大変だけれど、乱歩さんと少しでも長く一緒に過ごせるなら、どんな出張だってきっと楽しい。


私は乱歩さんの後ろ姿を見ながら、改めて自分の乱歩さんに対する気持ちを強く実感したのだった。
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