忙しなく鳴り響く携帯。慌てて手にとってその画面を見ると、そこには『国木田さん』の文字があった。大体予想はしていたけれど、矢張りあの後太宰さんは国木田さんと合流したようである。

虎について何か動いたのだろうか。色々と予測を巡らせながら、端末を耳に当て「はい、ノエルです。如何かしたのですか?」と応じた。

『ああ、ノエルだな。国木田だ。休みの処済まないが、緊急の仕事が入った。乱歩さんと一緒に今すぐ此方へ来てくれ。場所は十五番街の西倉庫だ』

切羽詰まったような国木田さんの声に、私の予想は正しかったのだと直感する。プリンのことはあるけれど――大変な状況のようだし、此処はきちんと行くべきだろう。

「判りました。直ぐ向かいます」

そう返答すると、宜しく頼む、とだけ返されてぷつりと電話が切れた。
かなり急いでいる様子だったので、早く行かないと申し訳ない。そう思った私は乱歩さんに声を掛けようとくるりと後ろを振り向く。

「乱歩さん、プリンを待っている処申し訳ないのですが……緊急の仕事だそうです」

「ふーん、まあ、こうなることは最初から大体解ってたけど……仕方ない、行ってやるか」

そう言ってうーんと伸びをする乱歩さん。そしてそのままソファに寝転がって目を閉じる。


……ん?目を閉じる?


「……あの、乱歩さん、国木田さんの呼び出しは」

「え?勿論行くに決まってるじゃない、後輩の頼みだしね!」

そう言いながら自分の上着を脱いで布団代わりにする乱歩さん、に説得力は全く無い。乱歩さんの口から後輩の為という言葉が出てきたのを初めて見たというのに。どんどん本格的に寝る体勢になっている乱歩さんに、流石に止めようと彼の肩を揺らす。

「い、行くなら今からお昼寝は一寸まずいですよ……?」

「ん?だって、プリン、未だ出来てないでしょ?」

「…………」

あ、そういうことか。

矢張り、後輩の頼みという言葉が乱歩さんの口から出てくる訳はなかったようです……
神妙な面持ちで固まっているだろう私に、乱歩さんは一旦ぱちりと目を開いてごく当然というように語り出す。

「だって、当然だろう?そんな直ぐ解決するような呼び出しより、プリンを放っていくことの方が余程由々しい問題だ!!それに僕等が少し位遅れたってそんなに困らない筈だよ?この状況なら」

という訳で、プリン出来たら起こしてね、とまた目を閉じる乱歩さん。
そのまま十秒足らずですやすやと寝息を立て出した彼に、此れ以上抵抗することは無理だと悟る。……国木田さんの心労が増大するかどうかは、私のお菓子作りの腕に懸かっているようです。時間掛かったらご免なさい。そう心の中で謝っておくことにした。一応行った後も謝っておこうと心に決める。

ああでも、矢っ張り乱歩さんの寝顔を見ていると全て許せてしまう私は、弱い。

私はふふ、と起こさない程度に笑みを溢して、乱歩さんの胴体に毛布を掛けた。
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