「う〜〜ん…」


私は洗面所の鏡の前で、悪戦苦闘していた。

何せ、せっかくの太宰さんとの初めてのデートなのに、髪型が壊滅的に上手くいかないのだ。


ブラシを片手にまた挑戦してみるも、やっぱり全然上手くいかない。


「なまえ〜〜どうしたの?しかめっ面しちゃって」



「あ、太宰さん!う〜ん…なんか髪の毛が上手くできないんですよ〜」

「ふうん…」


すると顎に手を当てた太宰さんがあ、そうだ!と手を叩いた。


「私がやってあげるよ!」

「え!?…で、出来るんですか太宰さん」

「うん、大体できるよ。ほら早く早く」


私の背中をぐいぐいと押して催促する太宰さん。


…これは何か企んでいるんじゃないか…?


まあでも手先は器用そうだし、いいか。

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「はい此処座って」

「あ、はい」


私はにこにこと上機嫌な顔で促す太宰さんに連れられ、目の前の椅子に座り鏡と向き合う。

そして私が椅子に座ったのを確認すると、やはりというか慣れた手つきで私の髪を梳いていく太宰さん。


さらりと髪の毛を掬い上げ手櫛で髪を集める。

かと思ったらほどいて三つ編みをしてみたり。

たまに頭を太宰さんの指が掠めるとくすぐったくて、なんだかドキドキしてしまう。

そして再び私の髪を一房掬い上げ――


「…って、一寸太宰さん」

「ん〜?なんだい」

「絶対遊んでますよね」


私の言葉にもにこにことした表情を崩さず、鏡の向こうで私の髪を指でくるくると弄ぶ太宰さん。


…うん、確実に遊んでいる。


「で、でも…」


私の顔を覗き込んでくる太宰さんに、うつむいて両手を握りしめる。


「…私、今日のデート楽しみにしてたのに…遅れるのは嫌です…」


今日のために夜遅くまで服を選んで、

映画の後に行くお店屋さんを一生懸命調べて、

シミュレーションを何回もして、

すごく楽しみにしてたから。


「本当、かわいいこと言うなあ」

「へ?」


すると、太宰さんの顔が後ろから横に回り込んできて、頬に柔らかい感触。

それは、ちゅっと小さな音をたてて離れる。


「え…?」


私はしばらく呆然として、頬にキスされたのだと分かると一気に顔が熱くなってくる。


それに満足そうな笑みを浮かべた太宰さんは、少し屈んで私を後ろからぎゅっと抱きしめた。


「…だ、太宰さ…」

「ふふふっ、実はなまえがデートすごく楽しみにしてるのは知ってたのだけどね、」

そしてその体勢のまま私の髪にキスを一つして言う。

「なまえの髪があんまり触り心地良いから、ついつい触りたくなっちゃった」


だから、もう少しだけこうしててもいいよね、と微笑む太宰さんに、もう何も言えなくなってしまった。
無言でこくりと頷くと太宰さんはまた満足げににっこりと笑って、愛おしむような手つきで私の髪を梳く。

その手の心地よさに目を細めると、耳元にそっと唇を寄せられた。

「キス」

「え…?ふえぇ…!?」

「デートのときには、口に、してあげるね」


目を白黒させる私に、太宰さんは愉しそうにふふふと笑った。


――初めてのデートは、ちょっとだけ刺激的なものになりそうです…




太宰さんに髪いじられたい。

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