アリスのお茶会を開きましょう
 
部屋の中に所狭しと置かれたダンボール。少しでも揺らすと崩れ落ちてしまいそうな不安定な本の山。
随分と散らかっているのだなと思いつつ、崩さないように気をつけながら奥へと進む。この部屋の持ち主は少しずぼらなところがあるからか、この部屋で資料が散乱していない日はない。

それにしたって今日は異様な量が積まれているようだ。彼は下敷きになっていないだろうか、といささか心配になる。そんな心配もすぐに杞憂に終わり、見慣れた白衣を羽織った背中が山に囲まれているのを発見するのだけど。

博士、と声をかける。資料を漁っていたその人は振り向き、私の姿を認めると笑って手を振った。

「やあ、ナマエちゃん。今日はどうしたのかな?」

そういった人、プラターヌ博士は大きな隈を隠しもせずに朗らかに笑う。この人はきっと、自分がどれほどひどい顔をしているのか知らないのだろう。
相変わらず休憩を取るのが下手だなあ。脳内で浮かんだ考えに苦笑いを浮かべつつ、ひどい顔ですよ、と告げた。

博士は私が来たことを機に休憩をとることにしたらしい。彼がボサボサの頭を整えながら立ち上がると、絶妙なバランスを保っていた資料が崩れて博士の足元に散らばった。
いつも整頓していればもう少し綺麗になっているのに、オシャレに詳しい博士でもこういうところは適当だ。

「今日は私たちとお茶会の約束をしてたでしょう?約束の時間になっても来ないから、博士を呼びに来たんですよ」
「ああ!そうだった、すっかり忘れてしまっていたよ!」

準備をするから少し待っててくれ、とエレベーターから降りていった博士。私も3階から降りて入り口で博士を待つ。
十数分経ち、エレベーターから少しだけ身なりを整えた博士が出てくる。ひどい隈はまだ残ってはいるけれど、資料まみれになっていたときよりもマシになっていた。

女優のカルネさん行きつけだというカフェ・ソレイユに向かって歩いていると、私たちの方に向かって走ってくる二つの影。
片方は黒のノースリーブにピンクのミニスカート。ロングのふわっとした髪をポニーテールにしていて綺麗な女の子だ。

もうひとりは青に白のラインが入った服、黒のチノパンツに黒いブーツ。サングラスを乗せた赤の帽子から黒の髪が覗いている。線は細いけど男の子。
ふたりは私の幼馴染とそのお隣に引っ越してきた子。セレナちゃんとカルムくんだ。

「ナマエ!」

二人が私の名前を呼び、近くまで寄ってきた。

「二人共、迎えに来てくれたの?」
「ナマエが随分と遅いものだから、サナたちが心配したのよ」
「オレたちが様子を見に行こうと思って出てきたところだったんだ」

そんなに待たせていたのか。確かに少し時間をかけてしまったかもしれないと思っていたけれど、まさかこんなに急かされるとは。
驚く私の前で、セレナちゃんが「サナはせっかちだもの」と言って苦笑いした。

四人で話しながらカフェ・ソレイユに向かう。久しぶりにみんなで集まるんだけど、なにか話せることってあるかな。
セレナちゃんたちは五人で一緒に行動していることが多かったんだろうけど、私はポケモンの調査で別の道筋をたどってたから、みんながどう過ごしたかはあまり知らないのだ。

カフェ・ソレイユに着くと、そこにはサナちゃんとティエルノくん、トロバくんがいた。先にセレナちゃんとカルムくんがそちらに向かって歩き出し、私と博士がそれに続く。
すぐにこちらに気づいた三人がこちらに向かって手を振る。

「四人とも、こっちこっち!」
「やっときたー!」
「もう待ちくたびれましたよ。さ、始めましょうか」

カルムくんとトロバくん、ティエルノくんがイスを引いて私とセレナちゃんと博士を誘導し、座らせる。相変わらずエスコートがうまい。
それぞれが好きなものを頼んで一息つく。ソレイユは私が好きなオレンジピールのお茶をおいているのだ。

頼んだものが来るまで、少し仲のいい人同士にわかれて会話を交わす。ティエルノくんはトロバくんと博士、サナちゃんはセレナちゃんと。そして私は残ったカルムくんと。

「こうして集まるのも久しぶりだね。博士も呼んでるなんて思わなかったや」
「オレも、最初聞いたときは驚いたよ」

子供だらけの中で博士だけ大人というところが妙に違和感。私たち六人はいずれ集まろうと言っていたからわかるけど、まさか博士も呼んでいるとは。
カルムくんは帽子を取って椅子にかけている。少し乱れた髪が年相応に見えて可愛らしい。

カルムくんが言うには、博士は私たちにポケモンをくれた人だから、最初のお茶会には呼びたいという提案があったらしい。主にトロバくんから。
別に反対する理由も出てこなかったので、ということで博士もこのお茶会の招待状が送られたんだとか。いきなりだったと思うのに、博士を連れ出しちゃって大丈夫だったのかな。

それにしてもカルムくん、あんまり話をしたことはなかったけど、それほど怖いわけじゃない…みたい?

実はカルムくんはセレナちゃんのお隣さんで、アサメに引っ越してきてからすぐに旅に出たので、私とカルムくんの関係は薄い。
だからセレナちゃんくらい大人びていて、少し怖いなとも思っていたんだけど。

「そういえば、セキタイタウンに大きな穴が空いちゃったってニュースでやってたのはみた?私、あれ聞いて驚いちゃった」
「セキタイって…ああ、フレア団の騒動?まさかオレたちが解決するなんて思わなかったよね」
「そうそう…って、」

ちょっともう一回お願いします。
今さっきのは聞き間違いだろうか。そう思って聴き直したけれど、カルムくんは「フレア団のところにオレたちも乗り込んでた」とわかりやすく言い直してくれた。その優しさが今は悲しい。

カルムくんたちがフレア団を止めた?しかもオレたちっていうことは、と、カルムくんが差す方向を見る。みんなが談笑していた。

「…ええと、もしかしてだけど、」
「セレナたちも一緒だったよ」

ですよね。
私だけ他の地方に行っていたから情報が遅かった、今はそれが原因で少し疎遠にされているんでしょうか。

仲間はずれにされたような寂寥感に頭を机に押し付けていると、カルムくんが楽しそうにクスクスと笑った。一人ぼっちが寂しい私には重要なことだっていうのに、ひどい人だ。

情報規制だって入ったし、みんなだって普段通りにしていたから全然気付かなかった。一歩間違えてたら今頃…
考えるだけでぞっとするからやめておく。

と、そのとき、頭に暖かいなにかが乗せられた。誰かの手かと思ったけど、それよりずっと硬い。何だろう、なにか、重そうなもの…

「そんなところで一緒じゃなくても、俺たちはこれからも友達だろ」

頭に手をやるとわかった。カルムくんがティーカップを置いたらしい。しかも多分私が頼んだオレンジピール。
カルムくんは自分が頼んでいたカフェモカを飲んでこちらに微笑みかけた。カルムくんは俗に言うイケメンなので、そんな何気ないことにも心をときめかせてしまう。

「…ん」

返事をしてありがたく頭のティーカップを取る。少し冷たくなった指先にお茶の暖かさが滲んだ。

「あっ!カルムがナマエを口説いてるー!」

サナちゃんがそんなことを言い始めるまであと10秒。

アリスのお茶会を開きましょう
(きっとずっと、友達)


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相互記念で千夜様へ!

カロスメンバーでほのぼのとか言ってたのに、出だしはプラターヌ博士で落ちはカルムくんがとっていくという謎。メンバー出てきてないじゃん!!!((ダァン
ぐへえ、全然期待に沿わないものばかりですみません…書き直しはいつでも承っています!!

相互ありがとうございます!これから千夜さんに見合うよう精進しますね…!
  浅葱 茂依


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