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曖昧メランコリー

今月はトリガーの定期メンテナンス月間だ。そのためいつにもまして開発室にはたくさんの隊員たちがやって来る。
今日は太刀川隊のメンテナンス日だった。

「出水あんた、二宮に模擬戦のこと言ったでしょ」

出水からトリガーを受け取りながらじとりとした視線を向けると、出水はすみません、と言って小さく舌を出した。全く悪びれた様子がない。

「二宮には言わないって約束だったから付き合ったのに」
「だって二宮さんってば、朔さんが射手をやめたことまだうだうだ言ってるんですよ?勿体ないとか、もう復帰する気はないのかとか。あまりにも煩いから、朔さんもたまーに模擬戦したりしてますよって言っちゃったんです」

肩を竦めた出水は呆れたような顔をしていた。たぶん出水が呆れている相手には私も入っているんだろう。出水に文句を言われる前に話題を変えようと、今しがたメンテナンスが終わったばかりの太刀川に声を掛ける。

「ねえ太刀川、金曜日なんだけど、ちょっと本部で仕事してから行くから遅くなるかも。後から思い出したんだけど二宮隊のメンテナンス日だった」
「了解。なるほどね、だからあいつあんなに天野さんが飲みに行くのやめて欲しそうだったんだ」

うんうん、と頷く太刀川とは対照的に、金曜日…?と首を傾げた出水は、私のデスクにあった卓上カレンダーを見てげっ!と声を上げると思い切り顔を顰めた。

「朔さんも太刀川さんたちたちと飲みに行くんですか!?しかも27日!?」
「そうだけど…何で?」
「そりゃあ二宮さんも文句を言いたくなりますよ!絶対やめた方がいいですって!」
「だから何で」
「何でって、そりゃあ…っ!」

出水はぱくぱくと口を動かしたけど、結局何も言わずに口を閉じた。出水の可笑しな様子に作業する手を止めて太刀川と顔を見合わせていると、隣のデスクで国近さんと唯我のトリガーのメンテナンスをしていた寺島が「天野、後ろがつかえてるから手動かして」と言ってきたので、私は慌てて手元のトリガーに視線を落とした。

「そうだ寺島さん、あとで暇なら模擬戦しようよ」
「…太刀川さん、今の聞いてました?後ろがつかえてるって言われたでしょ」

空気を読んだのか、それともただの能天気バカなのか。どちらにせよ話題を大きく変えてくれた太刀川には感謝するばかりだった。呆れたように太刀川にツッコミを入れた出水も、どうやら先程の話題を蒸し返す気はないらしい。私は無意識に止めていた息をそっと吐きだして、手元の作業に没頭することにした。





「ありがとうございました」

すっかりいつもの調子に戻った出水は私からトリガーを受け取ると、トリガーの調子を確認したいから少し付き合えと、嫌がる唯我を引きずって開発室から出て行った。

「……あー、天野さん。27日やめとく?」

後輩の後ろ姿を見送る太刀川にそう問われた。二宮といい出水といい、27日に何があると言うのだ。出水の様子を見るに27日が二宮隊のメンテナンスの日だというのは関係ないみたいだし。

「……行く」

一瞬行くのはやめようかと思ったけど、二宮なんて私には関係ないのだから、私があいつに気を遣う理由はどこにもない。私の返事に太刀川はそっかと頷くと、先程まで出水が座っていた椅子にどかりと座る。

「ね、天野さん。一息つくなら俺にもお茶ちょうだい」
「今から忍田さんのトリガーのメンテナンスだけどそれでもいいなら」
「あーっと、そういえば風間さんと模擬戦する約束してたんだった!じゃあね天野さん、忍田さんによろしく!!」

じゃ!と手を上げて廊下に飛び出していった太刀川にはきっと、忍田さんに鉢合わせするとマズイ何かがあるのだろう。ドアが完全に閉まる寸前に太刀川のぎゃっ!!という悲鳴が聞こえてきたけど、すっかり冷えたコーヒーを一口飲んで、何も聞こえなかったフリをした。

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