食べ物は大切に
今日は他校との練習試合…だけど、相手は中堅校。選手の、というよりあっくんのモチベーションが上がらなくて、私の隣で監督が今にもブチ切れそうになっています。
「紫原…お前やる気はあるのか」
「やる気ー?そんなん出さなくても全然余裕じゃん?つーかオレ出なくたって勝てる試合だしもう引っ込んでもいーい?」
ああヤバイ、監督が怒りでわなわな震えてる。監督が竹刀を振り回しながら怒鳴り散らす前に、私は足元に置いていた紙袋を持ち上げた。
「あっくん…!これ何だか分かる??」
「えー?なあに、おいしいもの?」
「そうだよ!あっくんが今日の試合頑張ったらご褒美であげようと思ってタルト焼いて来たんだけど…。頑張らないあっくんにはいらないよね?福井先輩にあげちゃおうかなー」
福井先輩の方に顔を向けながら視線だけをちらりとあっくんの方に向けると、あっくんは。
「分かったなぎさちん!捻り潰して来ればいいんだね…?」
「あっ…う、うん…。がんばって、」
監督はよくやった紺野、さすがだ。とか頷いているけど、これはヤバイ。監督のブチ切れかけより断然ヤバイ。私変なスイッチ押しちゃった気がする…。
相手選手の皆さんごめんなさい。心の中で謝っておいた。
「ねぇなぎさ、オレにはご褒美ないの?」
「ああないですねすみません」
タルトタルト言っているあっくんの隣で私にそう尋ねてきた氷室先輩に間髪をいれずに返す。タルトは監督の分を含めて6個作って来たから先輩の分まであるけど、どうせあっくんが全部食べちゃうだろうし。
氷室先輩を軽くあしらいながら、そろそろ休憩終わりますよー、なんて選手の皆さんを急かしていた、ら。
「いじわる」
耳元に息がかかる。びしりと固まる私になんてお構いなしに、氷室先輩は、
あろうことか私の耳をかぷっと噛みやがった。
「〜〜〜っ、死ねこのド変態!」
「あーっ!なぎさちんオレのタルトォォォ!!」
タルトの入ったタッパーの蓋をあけて、氷室先輩の顔に叩きつけた。
あっくんが別の意味で本気を出したのは言うまでもない。
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