My bogus gentleman ! | ナノ
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お互いに嫉妬します

人前でキスなんて当たり前な文化で育ったからか、ただのキス魔なのか。氷室先輩は人目も憚らずキスばかりしてくる。

「なぎさ、キスしてもいい?」
「は…はあ?イヤで、っ!」
「ふふ、ごめんね?もうしちゃった」

なんてことが日常茶飯事なある日のこと。事件が起きた。

「タツヤ!」
「アレックス…っ!?」
「!!?」

突然現れた金髪のナイスバディなお姉さんが氷室先輩に濃厚なキスを送る。えっ、何?何なのこの人氷室先輩の彼女?

「まさかアメリカに置いてきた彼女とか…!?」
「なぎさちん落ち着いてー。彼女はなぎさちんでしょ?」

状況が把握できず立ち尽くす私の頭をぽんぽんと叩きながらあっくんが宥める。身長やらスタイルやら顔立ちやらその積極性やらが私とは全く違う。最早正反対と言うべきではないだろうか。
もともと氷室先輩は同年代の人にしては大人っぽい雰囲気を持っているとは思っていたけれど、そのお陰で先輩は金髪美女と並んでも見劣りしないどころかお似合いすぎた。

「日本では所構わずキスしたらダメだって言ったのに…」
「えっ、それを室ちんが言う?」

室ちんだって所構わずなぎさちんにちゅっちゅちゅっちゅしてるじゃんかー。
あっくんの言葉に金髪美女がようやく私たちの存在に気が付いたらしい。目が合った瞬間気まずさに視線を逸らした私の腕を彼女がぐいっと引っ張った。

「何だよタツヤ、ずいぶんキュートな子を連れてるじゃん」
「!ちょ、アレックス…!」

驚いて顔を上げた私の唇はまさかまさかの金髪美女に奪われた。





「今日は悪かったね」
「い…いえ……」

金髪美女、もといアレックスさんは氷室先輩にバスケを教えたアメリカ人の師匠らしい。アレックスさんは陽泉の皆さんが一緒にいるときに先輩と再会を果たしたらしいけど、そのとき私は監督のおつかいでいなかったから先輩がこんなセクシーな女性と知り合いだなんて知らなかった。そしてつくづくと思い知らされる。
私は先輩のアメリカ時代をほとんど知らない。もしかしたら先輩は何人ものセクシーなお姉さまをメロメロにしてたんじゃないかとか何とか、アレックスさんと別れた後もずっと私は嫉妬の波に飲まれ続けていた。

「さっきから元気ないみたいだけどどうかした?」

あまり口を開こうとしない私の顔を先輩が不思議そうに覗き込む。先輩のアメリカ時代の女性関係が気になるのだと誰が言えるだろうか。何でもないと頭を振って止まっていた足を動かした。

「…ふーん」

頭上から聞こえた温度を感じない声に顔を上げると、次の瞬間私は壁に押さえつけられていた。まさかこれが壁ドンというヤツか。状況が状況だというのに私の頭は呑気なことを考えていた。

「先輩…?」
「オレはなぎさがアレックスに嫉妬してくれないかなって期待してたのに」
「!」
「それなのにオレはなぎさにキスしたアレックスに嫉妬してる」

先輩の親指が私の唇をゆっくりとなぞる。おそるおそる先輩の顔を見上げると、先輩の目は鋭く私を見つめていた。

「アレックスさんは女性…」
「目の前であんな濃厚なキスを見せ付けられたんだよ?相手が同性だとしてもはらわたが煮えくり返りそうだった」
「……わたし、」
「?」
「私だって…」

私だって嫉妬した。アレックスさんにも、アメリカで先輩にメロメロにされたかもしれない女性たちにも。今までほとんど意識したことがなかったのに意識した途端それは頭から離れなくなってしまったのだ。先輩が金髪美女に言い寄られて、濃厚なキスを送られる。私の頭の中で勝手に作られて何度も何度も再生されるそれはとてつもなく気分を悪くするものだった。

「ええと…その。嫉妬、しました…」

そう白状するや否や、先輩は我慢できないと言わんばかりの勢いで私の唇に自分のそれを押し当てた。アレックスさん並みの、いやもうそれ以上濃厚なキス。もう私の唇は食べられちゃうんじゃないかと思うくらいそれは熱情的なものだった。

「せ、んぅ……せんぱ、ここそと、」
「どうせ誰も見てない」
「や、ぁ……」
「なぎさ、なぎさ…」

息も絶え絶えで今にも膝から崩れ落ちそうな私をしっかりと抱きしめた先輩が、私の耳元に唇を寄せて囁いた。

「オレからこんなに熱烈なキスを送ったのはなぎさが初めてだよ」

この先もね、と付け加えられて、私の頭の中で再生されていた美女と先輩の濃厚なキスシーンはどこかへ飛んでいってしまった。

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