My bogus gentleman ! | ナノ
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彼女の誕生日!

「先輩のバカー!」

どうせまた室ちんが何かしたんだろう。なぎさちんからの平手打ちを思い切り食らった室ちんを眺めながら、オレは大きく欠伸を溢した。


***


『なぎさの誕生日は盛大にお祝いしてあげる』

一週間前にこやかに私にそう宣言した先輩は、直前になって「明日はタイガが秋田に来るから…ごめんね?」だなんて抜かしやがった。周りからも言われていたように私は先輩に大切にしてもらっていると思っていたからとてもムカついてしまって、思わず先輩の頬に平手打ちをかましてしまった。でも私は悪くないもん。彼女との約束をドタキャンして他の男を優先した先輩が悪いんだ。私との約束をドタキャンするだなんて彼女より弟分のことのほうが大切だって言ってるようなもんじゃん。
最初は怒っていたけれどだんだん悲しくなって落ち込んでいた私を心配してくれたらしいあっくん(と信じている。決してお母さんが作ったご馳走目当てではないはず)が誕生日パーティーにやって来てくれた。

「あっくーん!ちゃんと食べてるかーい?」
「わ、ちょっとなになぎさちん…。酔っ払ってんの?ダメじゃん未成年なんだからお酒なんて飲んだらー」
「え?お酒なんて飲んでないよ?」
「うーわ…。もしかしてなぎさちんジュースで酔っちゃうタイプ?」

ご馳走よりもケーキを貪っているあっくんに後ろから飛びかかるように抱きつくと、あっくんは口の周りにクリームをいっぱいつけて迷惑そうに振り返った。それからいつもとテンションが違う私にそーゆータイプ面倒なんだよねー、だなんて悪態を吐いたあっくんがガタリと席を立ち上がる。突然立ち上がったあっくんを不思議に思いながら見上げていると、あっくんは何の前触れもなく私の腰に手を伸ばした。

「ちょ、は、え!?」
「あーはいはい、うるさいからちょっと外に出ててよねー」

急上昇する視界に体を強張らせる私を肩に担いだあっくんが何も言わずに玄関へと向かう。ガチャリ、ドアを開けたあっくんは私を投げるように肩から下ろした。

「な、ん」
「なぎさ」
「え」

よろめいた私を抱き止めたのは、ここにいるはずのない氷室先輩だった。状況を飲み込めていない私が助けを求めるようにあっくんを見上げると、あっくんは口元についたクリームをぺろりと舐めながら一言。

「じゃあまあごゆっくりー?」

のしのしと家の中に引っ込んでしまった。残された私は昨日先輩に平手打ちをかましたことが引っかかって先輩を直視することができない。

「ごめんね突然。びっくりした?」
「あ…や、べつに…」

先輩は何とも思っていないようだったけれど、私はその気まずさに顔を上げられなくて。俯く私に何を思ったのか、氷室先輩の腕が抱きつくように私の首に回されて。思わず硬直してしまった私は、このあとキスされるのかとか耳元で何かを囁かれるのかとかどぎまぎしていたのだけれど、先輩はすぐにすっと離れてしまった。

「うん、やっぱり似合う」
「……?」

私の胸元に視線を送った先輩が満足げに微笑む。首周りに感じるちょっとした冷たさにそこに指を這わすと、記憶のない細いチェーンが指先に触れた。

「タイガに会うなんて嘘だよ。それを取りに行ってたんだ」
「えっ」
「この前なぎさと一緒に出かけたときにショーウィンドウに飾ってあったのを見つけてね。なぎさに似合いそうだなと思って三日くらい前に買いに行ったんだけど、そのときにはもう売り切れてて。店員さんに聞いたらなぎさの誕生日当日に入荷するって言われたから」

嘘なんてついてごめんね。そう言って先輩が申し訳なさそうに眉を下げる。もしかしなくとも私、ものすごい勘違いをしてたんじゃない?自覚した途端かつてないほどに顔に熱が籠ったのが分かった。
今まで氷室先輩ってイケメンだけど残念だよなーとか思ってたけど撤回します。先輩めちゃくちゃイケメン。今まで受けてきたセクハラの類がどこかに吹っ飛んでしまった。

「あ…あの、ありがとうございます…」
「どういたしまして」

爽やかに返してくれる先輩に、勘違いして平手打ちをかましてしまったことを謝らなければと口を開く。だけどそれよりも先にそういえば、と呟いた先輩に、私の言葉は飲み込まれてしまった。

「昨日の平手打ちのお詫び、してくれるよね?」
「……はい?」
「とりあえずなぎさの部屋に行こうか?おじゃまします」
「せんぱ…!ちょっとどこ触ってるんですか!!」
「どこって…胸だけd「あああああ、言うな!私のときめきを返せ変態!!」

近所迷惑なんて気にもせずに大声を出して暴れる私を呆気なく取り押さえた先輩は、爽やかな笑顔を浮かべてずんずんと家の中に入っていった。

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