My bogus gentleman ! | ナノ
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ティッシュで拭いてよ!

帰ろう。そう言ったはずの先輩はなぜか、私を駅前のアイス屋さんへと連れて行った。その店はかなり人気らしく長蛇の列ができていたのだが、先輩は怯みもせずに最後尾へと並んだ。

「…あの先輩、帰るんじゃなかったんですか…?」
「うん、そのつもりだったんだけどご褒美あげてないことを思い出して」
「ご褒美?」
「監督から聞いたよ。こないだの英語のテスト、今までにないくらいよかったんだろう?だから約束通り、アイスを奢ってあげる」

約束、ではない。あれは氷室先輩が一方的に取り付けたモノであって、私はこれっぽっちも賛同しなかったのに。
先輩、変なところで律儀だなあ。

「個人的にはなぎさが悪い点数とってくれた方が嬉しかったんだけどな。そうしたらなぎさとキスできたのに」
「先輩、私のときめき返して」

そんなこんなで先輩は、私にアイスを奢ってくれた。自分の分は自分で払うと言ったけれど先輩は首を縦には振ってくれなくて、結局私は先輩にぺこぺこ頭を下げながらアイスを受け取った。私のアイスはバニラとストロベリー、先輩のアイスはソーダである。

「先輩はダブルにしなくてよかったんですか?」
「なぎさと会う前にアイス食べちゃったからね。さすがに食べすぎかなって」

へえ、と流しそうになったがふと思った。あっくんじゃあるまいし、まさか一人で食べていたわけではあるまい。きっと誰かと一緒にいたんだろう。
…誰と一緒にいたの、かな。

「…誰と一緒にいたか知りたい?」
「!?な、ななな何でですか!!」
「いや、なんかそんな感じの顔してたから」

そんな感じの顔ってどんな顔!?アイスを持つ手とは逆の手で顔を触る私を見て、先輩は楽しそうに微笑んだ。明らかに年下扱いされてる。むっとして、もういいです!なんて言いながらアイスにかぶりつく。
何だか心臓がつきんと痛む感じがして、跳ねたり痛んだり忙しい心臓だなとぼんやりと思った。

「アツシとね、バッシュ見てたんだ。それでアツシがアイス食べたいって言うからオレもついでに」
「…誰といたかなんて聞いてませんけど」
「まあそう言わずに。
アツシは午後から用事があるって帰ったんだけど、オレはせっかくだからもう少しぶらぶらしようと思ってあのショッピングセンターに行ったんだ。行ってよかったよ、なぎさが今にも連れて行かれそうになってたところに出くわせたんだから」
「…その節はどうもお世話になりました」

なんだ先輩、あっくんと一緒だったんだ。よかった、てっきり彼女かと…。

「って、先輩に彼女がいようがいまいが私には関係ないし!!」
「いきなりどうしたのなぎさ、そんなに気になってた?」
「ちが…!違います全然違います、何自惚れてるんですか!」
「ふふ、安心してよなぎさ。オレ彼女いないから」
「だから私には関係ないですって!!」

ああもう、むしゃくしゃする。先輩との会話はやめてアイスに集中しよう。うん、ここのアイスおいしい。値段もお手頃だったし、今度あっくんと一緒に来ようかな。

「…なぎさ、アイス付いてる」
「へ、」

先輩の親指が私の口元を拭う。その指を、先輩の整った唇から控えめに出された舌が舐め取って。
なんだその仕草色っぽすぎる。そんなものを見せつけられて私が平常心を保てるわけもなく。

「う、あ…」
「ほらほら、早く食べないと手に垂れそうだよ」

もし手に垂れたら手まで舐めてしまいそうな先輩が恐ろしくて、先輩への制裁よりも先にアイスを食べることを優先した。

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