My bogus gentleman ! | ナノ
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不覚にもときめいた

以前友人が貸してくれた少女漫画で、チャラ男にナンパされたヒロインが助けてくれた男の子に恋しちゃうだなんて話があった。そんなベタなことがあるもんか。ていうか今どきナンパとかないだろう。そう思っていたあの頃が懐かしい。

「ねえ君一人?オレらと遊ばない?」
「い、え…。連れを待っているので、」
「なになに、それって女の子?じゃあその子が来たら一緒に、ね?」

連れを待っているだなんて嘘だ。今日は久々に部活が休みだから一人でぶらぶらしてみようかと思って、私は最近できたというショッピングセンターに来ていた。
家を出る際、私が一人で出掛けると知った父からはうんざりするほど変な男には気を付けなさいと言い聞かされたけれどいくら気を付けたってこればかりは仕方のないことだと思う。どうしよう、誰か助けてくれないかな?そう思って周囲に視線を向けてみたけれど、非情にも彼らはかわいそうな視線を向けるだけで助けてなどくれなかった。

「お友だち来ないねー。もうオレらだけで遊びに行こうぜ」
「カラオケ好き?奢ってあげるよ」
「いや、ほんとに…!!」

タイミングを見計らって逃げようと思ったのに腕を捕まれて引き寄せられた。振りほどこうにも男女の力の差なんて歴然でぐいぐい引っ張られる。その拍子に足がもつれて転びそうになった私は、後ろから誰かに抱き止められてバランスを立て直すことができた。

「…オレの彼女に何か用?」

お腹のあたりに回された手に力が込められる。聞き覚えのありすぎる声に恐る恐る上を見上げると、今まで見たことがないほど怒りを滲ませた氷室先輩がいて。

「あ?何だよ、連れって女の子じゃなくてイケメン彼氏だったのか」
「こんなちんちくりんの彼氏がここまでイケメンとはなあ…。ねね、イケメンくん。こんな彼女やめてオレらとナンパしに行こうぜ」
「ち、ちんちく…!?」

聞き捨てならない…!かわいくないのは分かってるけどこんなチャラチャラしてるヤツにちんちくりんなんて言われたくないんですけど!?そのちんちくりんをさっきまでナンパしてたのはどこのどいつだ!
そう言ってやろうと口を開くと同時にものすごい力で引き寄せられた。ふらつく私の目の前にはいつのまにか氷室先輩の後ろ姿があって。

「…もう1回言ってみろ」
「あ?な、何お前…」
「ちんちくりん?誰が?…なぎさ、が?」

後ろにいる私には氷室先輩がどんな顔をしているのか見えないけど、先輩から殺気が駄々漏れなのはよく分かった。私をちんちくりん呼ばわりした男の胸ぐらを掴んで、右手の拳を思い切り後ろに引いて。
私は咄嗟に先輩の右手にしがみついた。

「だ、ダメです先輩!スポーツマンシップに反します!!」
「離してなぎさ、一発殴らないと気がすまない」
「先輩なんでそんなに怒ってるんですか!?ダメですよ、こんなところで暴力事件なんて起こしたらWC出られなくなります!先輩、アメリカ時代の顔馴染みと試合するの楽しみにしてたじゃないですか!」
「そんなのどうだっていいよ。コイツらは嫌がるなぎさを無理矢理連れていこうとした挙げ句侮辱したんだ。君が許してもオレが許さない」

氷室先輩の怒りに満ちた目が私を射抜く。怖いはずなのにその目はとてもまっすぐで、不覚にも心臓があり得ないくらい跳ねた。

「お願いです先輩、やめてください」
「でも」
「先輩が自分のことのように怒ってくれただけで私は嬉しいです。ありがとうございます、先輩。だからやめてください…。ね?」

しばらく無言で私を見つめていた先輩は、しぶしぶといった感じで男の胸ぐらから手を離す。男たちは我先にと走り去っていって、その場には私と氷室先輩が残された。
…なんか気まずいんだけども。どうしよ…。

「…なぎさ」
「は、はい!」
「帰ろう。送ってあげる」
「…はい、」

先輩は、自分の右手を掴んだままの私の手をそっと握って私の少し前を歩き始めた。
…何で先輩、今日はかっこいいんだろう。いつも変な人なのに、こういうときばっかりかっこいいだなんてずるい、なあ…。
今まで先輩に抱いたこともない感情を持て余しながら先輩の手を少しだけ握り返すと、私の手を握る力が強くなったような気がした。

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