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「ねえねえみょうじさん!みょうじさんと太刀川さんが付き合ってるってホント!?」

あっ、いたいたみょうじさーん!なんて、駿くんが可愛らしく駆け寄ってきたから何事かと思えば。幸いにも一緒にいたのが出水くんだったから良かったものの、あまりにも大きな声に思わずその小さな頭に拳骨を落としてしまった。

「あいたっ!えー、何でオレ今殴られたの!?」
「おまえ声デカすぎ。それ誰にも言ってないだろうな?」
「今太刀川さんから教えてもらったばっかりだから誰にも言ってないけど…」

どうして言っちゃいけないの?凄いことなのに!
私の袖を引きながらそんなことを言う駿くんに何と言えばいいのか分からず困っていると、見かねた出水くんが私の代わりにしっかり口止めをしてくれた。

…そうなの駿くん。私、太刀川くんとお付き合いしてるの。攻撃手でも個人総合でも1位で、A級1位の太刀川隊の隊長で、凄い人だよね。
でもね。だけどね。

私に告白してくれたときの太刀川くんは、どこにでもいるような、ただの中学生だったのに。



私のことを好きなままで




中学三年生の夏、私と太刀川くんは初めて接点を持った。当時の担任の先生から、隣のクラスの太刀川くんに勉強を教えてあげてほしいと頼まれたのがきっかけである。

「みょうじって付き合ってる人とかいるの?」

太刀川くんがそんな突拍子もないことを聞いてきたのは、夏休みが終わる一週間ほど前のことだった。私は問題を解く手を止めて太刀川くんを睨み付ける。

「勉強には関係ないでしょ。真面目にやってよ」
「ちょっと休憩。いやだってさ、夏休みの間ほとんど毎日、俺の勉強に付き合ってくれたじゃん。勘違いされたら困る相手とかいたら申し訳ないなと思ってさ」
「……別にいない、けど」

私は机に散らばった消しカスに視線を落としてそう答えた。ふうん、と呟いた太刀川くんは「じゃあさ」と何でもなさそうな調子で続ける。

「特にそういうやつがいないんだったら、俺と付き合ってくれない?」
「……えっ」

驚いて顔を上げると、太刀川くんと目が合った。それまでは何を考えているのか分からない目だなと思っていたのに、その瞬間、太刀川くんがどれだけ真剣にこの話をしているのか気付いてしまった。

「みょうじのことが好きだ」

無言の時間がしばらく続いた。私は数度目を瞬かせたあと、コクリと小さく頷いた。

その頃の私たちの世界には、近界民もボーダーも存在していなくて。私も太刀川くんも、どこにでもいるような、ただの中学生だった。





自宅へと帰る道すがら、まるで飼い主の気を引こうとする大型犬のように、太刀川くんは私の隣を歩いたり後ろに回ったり、また隣に並んだりと忙しなく動き回る。

「なあ、悪かったってば。さっきから謝ってるだろ。いつまで拗ねてんだ」
「……内緒にしてって言った」
「分かってるって。緑川と世間話してたら口が滑って」
「太刀川くん」

私が彼の名前をぴしゃりと呼ぶと、太刀川くんはピタリと動きを止めた。私も歩みを止めて、許しを請う大型犬を睨み上げる。

「太刀川くんは何も分かってない」

私に告白してくれたときの太刀川くんは、勉強が苦手で、ちょっと抜けてるところがあって、だけどいざという時はすごく頼りになる、ただの中学生だった。
太刀川くんが好きになってくれたときの私は、周りより少し勉強が得意なだけの、どこにでもいるような中学生だった。
だけど今は、私たちを取り巻く環境は、何もかも違う。

「分かってないって、何が?」
「私がどうして付き合ってることを内緒にしたいか、考えたことないでしょ」

太刀川くんは攻撃手でも個人総合でも1位で、A級1位の太刀川隊の隊長で、みんなから一目置かれている。太刀川くんに憧れる隊員たちだってたくさんいる。
だけど私は、未だにB級の下の方で燻っていて、後から入ってきた後輩たちにどんどんどんどん抜かれていく。いつか太刀川くんに「つまんねーやつ」って飽きられてフラれるんじゃないかって、私はいつも怯えている。

「考えたこと?ねーよ。だっておまえが言ったんだろ?何でもいいから黙ってろって」

太刀川くんを睨み付けたまま黙っていると、太刀川くんもイライラし始めたのか、普段より幾分か低い声でそう言った。

「おまえは俺より頭が良いから、きっと色々考えてることがあるんだろうなと思って黙ってたけど。どうもくだらないことを考えてたみたいだな」

太刀川くんがそう言って私の手首を掴んだ。怯んで一歩後ずさると、その分距離を詰められる。

「おまえのことが好きだって何度も言ってるだろ」
「……っ、」
「分かったならいつまでも不貞腐れてないで、飯でも食って帰ろうぜ」

手首を掴んでいた手はいつの間にか指に絡みついていた。怒っているのに。振りほどきたいのに。向けられる笑みがあの頃からちっとも変わっていないことに気づいてしまえば、そんな気はすっかり削がれてしまう。

「……うどんは嫌だからね」
「えー」
「先週食べたばっかりでしょ」

ねえ太刀川くん。私のこと、ずっと好きなままでいてね。
太刀川くんがどんなに凄い人になっても、私とは釣り合わないくらい遠い存在になってしまっても。