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■ 聞こえないはずの声さえも

赤司くんの部屋から出てテツくんと二人でかえでちゃんがいる部屋へ向かっていると、廊下の向こうから歩いてきたきーちゃんと大ちゃんに出会った。

「あれ、さつき?かえでの傍にいなくていいのかよ」
「うん、ちょっと赤司くんに用事があって…。かえでちゃんの目も覚めたし、今から戻るところ」
「わ、ホントっスか!?オレたちも一緒に行っていい?」
「…いいけど、かえでちゃんにおいしそうとか言っちゃダメだからね」

昨日赤司くんに言われたことだから大丈夫だとは思うけど一応二人に釘を刺して、かえでちゃんの部屋の扉をノックした。…返事がない。

「あれ、かえでちゃーん?」
「何だよ、また寝てんのか?」
「青峰くんじゃあるまいし、自分の置かれている状況が分からないのにのうのうと眠れる人なんていませんよ」
「おいテツそれバカにしてんのか」
「してません」

なんていうテツくんと大ちゃんのやりとりを背に、何だかイヤな予感を覚えながらゆっくりと扉を開ける。そこにはやっぱりというかなんというか、かえでちゃんの姿は見当たらなくて。

「?どうしたんスか桃っち?」
「…赤司くんに殺されるかもしれない」
「え」

他の三人にも見えるように大きく扉を開くと、いつも無表情なテツくんまでもが顔を引きつらせた。

「…オレ知らね」
「そんな、酷いよ大ちゃん!」
「そうっスよ青峰っち!かえでっちがいないだなんて赤司っちにバレたらオレら全員連帯責任で始末されるっス!!早く見つけなくちゃ!」
「じゃあ黄瀬くん、犬になって匂いで探してくださいよ」
「黒子っちまさかの無茶振り!
そうだ桃っち、声は?かえでっちがまだ屋敷の中にいるならかえでっちの声で場所分かるでしょ!?桃っち耳いいんだし!」

きーちゃんの言う通り、私は異常に耳がいい。私の耳は集中したら人間よりも広範囲の音や声をはっきり聞くことができるから、かえでちゃんがまだ屋敷の中にいるなら彼女の声や音で場所を把握できる。
目を閉じて耳に意識を集中する。いろんな音がたくさん耳に入ってくる中、一瞬だけかえでちゃんの戸惑ったような声が聞こえた。そして。

―――かえでちん。

他人の名前をそんな風に独特な呼び方で呼ぶ人なんて一人しかいない。げんなりとしながら、私はテツくんたちにこのことを伝えるべく口を開いた。

title/秋桜


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