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■ 全ては僕の籠の中

目を開くとそこは知らない場所だった。見慣れない部屋、知らない匂い。

「あ、起きた?」

ここはどこだろうとぼんやり考える私の視界にひょこっと飛び込んできたのは、とってもきれいな女の子だった。

「赤司くんったら迎えに行くって言ってたくせにやってることは誘拐なんだから…。つっこんだら怒られるから言わなかったけど」
「…えっと、」
「あ、私は桃井さつき!ここには女の子って私しかいないから仲良くしてね!」
「わ、私は縹木かえでです…」
「よろしくね、かえでちゃん!そうそう、お腹空いてない?それともシャワー浴びる?お風呂でもいいよ、沸いてるか「あの…!」
「あの、貴女も生け贄…なの?」
「………え?」

今までにこにこと人懐っこく笑っていた彼女は私の発言にひどく驚いたらしい。ちょっと赤司くんどういうことなの!?と叫びながら部屋から飛び出して行った彼女を、私はベッドの上で体を起こしたまま見送ることしかできなかった。


***


「赤司くん!」

扉が壊れるほどの勢いで部屋に駆け込んできたのは、数時間前にかえでの世話を頼んだ桃井だった。かえでに何かあったのだろうか。どうしたんだとらしくもない声色で尋ねると、桃井はキッと僕を睨み付けた。

「生け贄ってどういうことなの!?」
「…ああなんだ、そのことか」

てっきりかえでが大輝にセクハラされたとか急に現れたテツヤに驚いて気を失ったとか、そんなことかと思った。そういう意味で呟いたのだが、僕の真意など知らない桃井には分からなかったらしい。
何その反応!と桃井の怒りはさらにヒートアップした。

「なんだじゃないよ!赤司くん何考えてるの?ずっと待ってたのはかえでちゃんが大きくなってから結婚するためだと思ってたのに…!食べ頃になるのを待ってたとか言ったら怒るからね!かえでちゃんを村に返すからね!!」
「…生け贄のことを説明しなかったのは謝ろう。すまなかった。だが最後の言葉は聞き捨てならないな…。彼女を村に返すことはもちろん、僕の許可無しにこの屋敷から出すなと言ったはずだ。命令を破ったらお前でもアイツらでも殺す。忘れたわけではないだろう、桃井」
「っでも、」
「ダメですよ桃井さん」

第三者の声が割って入った。桃井の大声を聞き付けて様子を見に来たのだろうテツヤが、桃井の肩に手を置いていて。

「赤司くんだって好きで生け贄なんて表現を使ったのではないと、賢い貴女なら分かるでしょう?
―――赤司くんが彼女のことを、ずっと想い続けていたことも」

さあ、かえでさんが起きたなら早くお世話しないと。
テツヤの言葉にしぶしぶといったように頷いた桃井は僕に頭を下げて部屋から出て行った。彼女に続いて部屋を出ようとしたテツヤはふと思い出したように僕を振り返る。

「キミって意外と馬鹿ですよね」
「うるさい早く行け」

聞き飽きた小言にうんざりしながらそう返すと、テツヤは少しだけ微笑んで今度こそ部屋から出て行った。

title/秋桜


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