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■ 世界が終わる日

いつもは着ない、裾が床に付きそうなドレス。汚さないように注意しながらドレスをプレゼントしてくれた父にお礼を言おうと父の部屋に向かったが、父は部屋にはいなかった。

まあいいや、中で待っていよう。

軽い気持ちで部屋に入った私は、部屋の中央に置かれたテーブルの上に無造作に置かれた手紙が視界に入った。いつもなら気にならないのになぜかそのときの私はそれが異常に気になって、ゆっくりとテーブルに近づく。

「…な、に…?」

―――縹木かえで様へ

どくり、心臓が嫌な音を立てる。
これは私宛の手紙なのにどうしてお父さんが持っているのとか、差出人の名前がないだとか、そんなことはどうでもよかった。真っ白な封筒に黒いインクで書かれた、私の名前。とても綺麗な字で書かれているそれは、なぜだかとても悪いもののような気がして。
震える手で恐る恐る手紙を取り出す。中身を読んで、思わず悲鳴を上げそうになった。

―――縹木かえで様、貴女が18歳の誕生日を迎えるその日に、我々吸血鬼への生け贄としてお迎えに上がります。

吸血鬼。生け贄。18歳の誕生日。それらの単語が頭の中でぐるぐる回る。
これは何?どういう意味なの?私はどうなっちゃうの?吸血鬼の生け贄になるって、これは一体何の冗談、

「…約束通り、迎えに来たよ」

耳元で柔らかい声がした。今読んだ手紙とその言葉が繋がって、だけど振り返ることも悲鳴を上げることもできなくて。微動だにしない私を、誰かが後ろから抱きしめた。

「大丈夫、怖いことは何もないから」

震える私の体は、意志に反してくるりと反転させられる。そこで初めて、私はその男を視界に捉えた。
鮮やかな赤い髪。日焼けを知らないような白い肌。そして左右色違いのオッドアイ。彼を構成するすべてが計算しつくされたように私の目を奪って、私は思わず今の自分の状況を忘れて見惚れてしまった。

「……やっと会えた…」
「、え…?」

目が逸らせない。体の感覚がおかしくなって、頭がくらくらして。
床に崩れ落ちそうになった瞬間、優しい声がおやすみと囁いた気がした。

title/秋桜


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