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■ 追憶の中で

小さい頃、私たち子どもの間では宝探しのようなものが流行っていた。まずくじ引きで選ばれた一人が森の中に入っていって、他の子どもたちの宝物をどこかに置く。森は深くて大きいし危ない生き物が住んでいる、なんて噂があったからあまり奥に隠すのは禁止。隠した子が戻ってきたら宝物を隠された子たちは一斉に自分の宝物を探しに森に入っていき、自分の宝物を探すのだ。一番最初に戻ってきた人がゲームの勝者で、私はいつも一番だった。

ところがある日のこと。いつものように宝探しをしていた私はどういうわけか宝物を見つけることができなかった。もちろん諦めてギブアップしてもよかったのだが、"いつも一番なのに"という変なプライドのせいで森の中を何時間もさ迷ってしまって。
気づけば夜。森の中で迷子になった私はあちこちを擦りむいて傷だらけになってしまっていた。怖くて寂しくてとうとう泣き出してしまった私は出会ったのである。

黒いコートを肩にかけた、血だらけの男の人に。

一目見て恐怖を感じた私は悲鳴も上げることすらできずその場にへたりこんでしまった。それでもその人は何を思ったのか私の足元に膝をついてケガを治し、あろうことか村まで連れて行ってくれたのである。

この人怖い人じゃないかも。すっかり安心した私は彼の腕に抱かれながらいろんな話をして、彼は優しく微笑みながら聞いてくれて。

「…家はここ?」
「うん、ありがとうお兄ちゃん!」
「もう森に入ってはいけないよ。危ないからね」

私を家の前で降ろした彼は私の頭を優しく撫でた。そして森へと歩き出した彼を、私は思わず引き止めてしまったのである。

「あの…!あの、また会える…?」
「…君がそう望むのなら」
「本当?約束してくれる?」
「そうだな…。君が大きくなったら必ず迎えに来よう」

約束だと、そう言って彼は私の額に小さくキスを落として今度こそ森に入っていった。
今でも彼のことはよく思い出すけれどそれはとても断片的なもので、私は彼の名前も彼の顔も覚えていない。もしかしたらあれは夢だったのではないかと、そう思いながら私は
明日、18歳の誕生日を迎える。


***


バタバタと廊下を走る音に、先ほど僕にとある報告を持ってきたテツヤはうんざりしたような顔でドアを見つめた。それから数秒も経たないうちに勢いよく開かれたドアの向こうには、嬉しそうに目を輝かせる涼太とそれについてきたらしい大輝と桃井がいて。

「赤司っちー!かえでちゃんが来るって本当っスか!?」
「本当だよ。お前たちは本当に耳が早いな」
「さつきは耳だけはいいからな」
「ちょっと大ちゃん、耳だけってなによ耳だけって!」

まったく、会ったこともないくせに3人ともなんて興奮のしようだろう。この調子で本人が来たときどうするつもりなんだ。特に黄瀬なんかは興奮しすぎて失神しそうじゃないか。

「どうするんスか赤司っち、人目につかないところでこっそり誘拐するんスか?それとも大勢の人間がいる前で見せ付けちゃう感じで誘拐するんスか?」
「誘拐誘拐、人聞きの悪いことを言わないでください黄瀬くん。赤司くんはかえでさんを誘拐するのではなく迎えに行くんです」

え、違うんスか?違います、全然違います。は?一緒だろ?ニュアンスが違うんですよねえ桃井さん?うんそうだね、"迎えに行く"の方がロマンチックだね!
なんて騒ぐ4人に背を向けて窓の外を見る。暗い暗い森の中でぼんやりと光る月は、あの日と同じ三日月だった。

「…やっと会えるね」

君に会える日を待ち焦がれてどのくらいの時が経ったのだろう。自嘲するように薄く笑って、その笑みが映る窓を隠すようにカーテンを引いた。

title/秋桜


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