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■ 闇から現れた彼

※暴力表現を含みます。苦手な方は閲覧をお控えください。










荒い息を繰り返しながら身体を捩る。まるで何かに蝕まれているみたいに体中が熱くて痛くて苦しかった。

『ふはっ、すっげー汗』

黒髪の知らない男の人がいた。人の汗に触れることに抵抗はないのだろうか。彼は私の額に浮かぶ汗を拭うように撫でながら楽しそうに笑っている。

『お前の望みを叶えてやる』
「……?」
『村に帰りたい、だろ?逃がしてやるよ、この屋敷から』
「!」
『その代わりその身体をオレに貸せよ』

村に帰れる。熱に浮かされた私の頭はそのことしか理解できなくて。
悪魔の囁きに頷いたことを死ぬほど後悔することになるなど、このときの私は夢にも思わなかった。


***


本人の力とは思えないほどの強い力で首を締め上げられる。突き飛ばそうにも自分の上に乗っているのが誰なのか分かってしまっている以上、オレにはそんなことをする気にはなれなかった。せめて首に掛かる手くらいは振りほどこうと思ったのだけれどそれさえ叶わないらしい。
少しでも息をしたくて首を捻りながら横を向くと、大量の血を流して横たわる桃っちが月明かりに照らされていた。
早く血を飲ませてあげないとヤバイかも。でもそうするためには自分に馬乗りになっているかえでっちをどうにかしないといけなくて、だけどどうにかしたくてもどうしようもなくて。
そんなオレの悩みの種であるかえでっちはボロボロと涙を流しながら謝罪を繰り返していた。

「ぐ、う……!」
「やだ…やだやだ、わたしこんなことしたくない…!」
「ふはっ、ワガママ言ってんなよ」

薄れ行く意識の中で独特の笑い声が聞こえる。
赤司っちを呼ばなくちゃ。この状況をどうにかできるのは赤司っちしかいないのに。
花宮をどうにかできるのは赤司っちしか、

「なに、を」

しているんだ。窒息しかけていたオレの耳は赤司っちの声に大きく反応する。オレとかえでっちが苦しむのをベッドに腰掛けて楽しそうに眺めていた花宮も反応したらしい。その証拠にオレに掛かっていた全ての圧迫感がスッと消えた。

「遅いっつーの。待ちくたびれてコイツら殺すとこだったぜ」
「お前は本当にクズだな…。大輝、テツヤ。桃井に血をやってくれ」

涼太は生きているな?赤司っちの問いかけに力の入らない手を無理矢理持ち上げて答える。すぐに紫原っちが回収に来て労わりもされずにずるずると引きずられた。

「…かえでも返してもらおうか」
「そう催促すんな、ここからが面白いんじゃねーか…。なあかえでチャン?」

猫撫で声で花宮が囁く。重たい身体に鞭を打ちながら上半身を少しだけ起き上がらせると、拒絶するように首を振るかえでっちを後ろから羽交い絞めにした花宮がかえでっちの首に顔を埋めていた。

title/秋桜


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