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■ 散る赤

※流血表現があります。苦手な方は閲覧をお控えください。










花宮の能力は一見僕の能力と酷似しているように見えるが、ある意味僕の能力以上に厄介なものだった。
僕の能力は視線を合わせた相手を意のままに操ること。僕の能力で操られている間彼らは意識がないから、操っている間どんなことをさせても全く覚えていないというそれなりのメリットがある。
一方花宮の能力は、自分の血から作り上げた蜘蛛が噛んだ人間を意のままに操ること。しかしその間彼らはきちんと意識があるから、したくもないことをさせられて心がズタズタに傷つけられる。現に花宮に操られて桃井の背中にナイフを刺し、黄瀬を絞め殺そうとしていたかえでは大泣きして謝罪の言葉を繰り返していた。

「やめろ…!」

花宮の牙がかえでの首筋を貫く寸前にかえでをヤツから少々乱暴に引き剥がす。花宮は一瞬ムッとした顔をしたがすぐにその唇は楽しそうに弧を描いた。

「なーんて、んなことするわけねえだろバーカ」

分かっている。花宮は僕のように人間を吸血鬼にすることに対して否定的なヤツだ。だから昔から相容れなかったのだし、現に今もかえでを吸血鬼にするつもりなんてなかっただろう。だけど自分以外の男がかえでに触れていて、あまつさえ吸血しようとしたその行動が何よりも許しがたいものだった。

「…自分からそいつに近付くなんて、赤司サマも随分と間抜けになったもんだな」

ニタリ、花宮の顔に嫌な笑みが浮かべて指を鳴らす。その途端、左腕に抱えていたかえでがもぞもぞと動き始めた。ハッとしてかえでを離そうとしたが時既に遅し。
脇腹に、激痛が走った。

「っ!?」
「あ…や、いやあ!!」

僕の腕の中でガタガタと震えるかえで。彼女の手に握られているナイフが、僕の脇腹に深々と突き刺さっている。久々に味わった激痛に耐えられずかえでを抱えていた腕から力を抜いてその場に膝を付くと、かえでが握ったままだったナイフが脇腹からずぶりと抜けた。溢れ出した血が白いシャツを真っ赤に染め上げる。傷口を押さえても出血は止まらない。この出血を止めるためには吸血しなければならなかった。それでも。

「どうした赤司。エサなら目の前にいるだろ?」
「っ!」

花宮に示されたかえでがびくりと肩を揺らす。それでもかえでは僕の血が付着したナイフを握ったまま、狂ったように僕の名前を呼んで謝罪を繰り返していた。
…たしかに、ここでかえでとは言わず敦や真太郎から血をもらえばこんな傷はすぐに治るだろう。だけど、

「赤司…!早く血を、」
「………っい、らな……」
「赤司!?」
「ふはっ、ざまあねえな…。その程度の傷でその女の首筋に噛み付く力さえなくなったか?」

かつてここまで楽しそうな花宮の声を聞いたことがあっただろうか。身動き一つとれない僕を見下ろしながら花宮がかえでを呼び寄せる。

「赤司が腹減ってんのに自分でお前に噛み付けねえんだとよ…。お前、ちょっとそのナイフで自分の首を切ってみろよ」
「っ、や…やだ…っ!」

かえでが一歩ずつ、僕に近づいてくる。僕の目の前で立ち止まったかえでは僕と視線を合わせるように膝を付くと、ナイフを自分の首に押し当てようとした。

「…ナイフから、手を……離せ」
「!」
「花宮なんかの…言うこと、は……聞かなくていい…から、」

花宮は苦しむ僕たちを見たかったからわざと視線を合わせるようにしたのだろうが、視線が合えば僕の能力で簡単にかえでを花宮の支配下から救い出すことができる。その証拠に、かえでの手からはナイフが滑り落ちた。

「あ、」
「……いい子だ」

糸が切れたかのようにその場に座り込んだかえでをそっと抱きしめると、かえではしゃくり上げながら僕にしがみついた。

「……チッ、塗り替えやがったか」

それまでずっとベッドの上で傍観していた花宮がゆらりと立ち上がる。背後でテツヤたちが僕の名前を呼んでいたが、手は出すなと視線で制した。

「やっぱ人間は使いもんになんねーな」

吐き捨てるようにそう言った花宮がコートの内側から拳銃を取り出す。安全装置を外した花宮は、僕に向かってまっすぐ銃口を突きつけた。

「お前ら二人、まとめてあの世に送ってやるよ」

花宮が引き金を引く瞬間。僕に抱きついたまま恐怖に身体を強張らせていたかえでを思い切り突き飛ばして、先ほどかえでが落としたナイフを拾い上げた。
どちらが早かったかなんて分からない。把握する前に僕の身体は後ろに倒れた。

「赤司さん!!」

あたたかい何かが胸元から噴き出す。息が苦しくて、心臓が焼けるように熱くて。
僕の名前を何度も何度も叫ぶかえでを安心させようと口を開くと、言葉よりも先に飛び出したのはどろりとした赤だった。

title/サンタナインの街角で


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