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■ やさしい楽園のちいさなひずみ

「な、に……これ、」

朝起きてすぐ、いつものようにバルコニーに出た私を待っていたのは無惨にも枯れ果ててしまった花束だった。一体どうしてだろう。あの人が枯れた花を贈るとは到底思えないし、一晩外に放置されていたくらいで花が枯れてしまうとは考えにくい。赤司さんに頼んだらこの花も元に戻してもらえるのだろうか。

「いった……!」

抱えていた花束がぱさりと足元に落ちる。痛む指先が焼けるように熱くて、それはすぐに全身に広がった。
心臓が痛い。息ができない。花と花の間から這い出てきた緑色の蜘蛛が、立っていることすらままならずその場に倒れこんだ私の指先に触れた瞬間溶けるように姿を消した。


***


かえでが倒れていることに気が付いたのは、いつまで経っても姿を現さない彼女の様子を見に行った涼太だった。涼太に呼ばれて慌ててかえでの部屋に駆けつけると、バルコニーで倒れているかえでが視界に飛び込んできて。
荒い息を繰り返しながら眠り続けるかえでの傍らには、摘みたてだったはずの花束が姿を変えて転がっていた。

「かえでの様子はどうなんだ」

すっかり枯れ果ててしまった花に血を与えながらかえでの部屋から戻って来た大輝に尋ねる。かえでがああなってしまったのは花宮のせいで、しかも標的が僕だと分かっている以上迂闊に近付くなとみんなから止められて。本当はかえでの傍にいたいのにこうして自分の部屋に閉じ込められ、僕の監視を兼ねた誰かの報告を待つことになってしまったのだ。

「ダメだわ、ずっと眠ったまま」
「……そう、か」

疲れたように僕のベッドにダイブする大輝に背を向けたまま、若干生気を取り戻したように見える花をぼんやりと眺める。…今回はどうも上手く行かなかったみたいだ。最近全く血を口にしていないから、僕自身の血の能力も薄くなってしまっているらしい。

「珍しいじゃん。お前の血を使ってんのに回復がそんなに遅いなんて」
「ああ…血を飲んでいないから、かな」
「お前って…我慢強いっつーかバカっつーか」
「頭が高いぞ、大輝ごときが僕を侮辱するだなんて」
「へーへーすんません」

花が元に戻るためにはもうしばらく時間が必要だろう。かえでが目覚めるまでにも、花宮が何かを仕掛けるまでにも。

「事が起こるのは夜になってからだ」

全てが片付いたらこの花も元に戻っているだろう。そうしたらまたバルコニーにこっそり置いてこればいい。
ナイフで傷付けた指先に舌を這わせながら僕は、まだ枯れたままの花々をそっと花瓶に活けた。

title/サンタナインの街角で


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