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■ 罪の花が咲く

かえでをこの屋敷に連れてきてから一週間。彼女の口から村に帰りたいという言葉は聞かなくなったけれど無理している部分はあったと思う。気持ちを誤魔化すためだろうか、眠るとき以外かえでは誰かと同じ空間に居ようとした。それは祖母の弟である涼太だったり同性の桃井であったり大人しいテツヤであったり、はたまた僕であったり。
僕はかえでと居られるならばとかえでの気持ちには気づかないフリをして彼女のやりたいようにさせていた。最低な男である。そしてそんな最低な僕にツケが回ってきた。

「いった…」

それは昼食後、かえでと二人で読書をしていたときのことである。突然上がった声に顔を上げると、かえでが顔をしかめて自分の指を見つめていた。彼女の白い指に赤色が浮かんでいる。僕が見つめていたことに気が付いたかえでが肩を竦めて小さく笑った。紙で指を切ってしまったのだと。
手を洗ってくると言って本を閉じたかえでが立ち上がる。その途端ふわりと香った微かな血の匂いに、僕の嗅覚は大きな反応を示した。
ああ僕は、この匂いを知っている。抑えきれないほど湧き上がってくる獣のような本能に掻き消されそうになりながらそう思った。

「………、」
「……?赤司、さん…?」

あの日嗅いだ血よりもずっと濃い匂いがする。当たり前か、あのときこの子はまだずっと幼かったのだから。
この血はきっと、他のよりも甘くておいしくて、病み付きになってしまうくらい美味しいに違いない。その白い喉仏に食らいつくことができたらどんなにいいだろう。
ふらふらとした足取りでかえでに近づきながらゆっくりと彼女に手を伸ばす。そういえば僕はひどく喉が渇いているな。ずっとこの人間と一緒にいたはずなのにどうして僕は吸血行為を我慢しているんだ。まあそんなこと、今はどうだっていい。
この匂いの発生元である人間を食らってしまえば、

「赤司さ、っ!?」

吸血行為を誘発するような血の香りを発する人間の手首を掴んでソファーに押さえつけると、彼女の目は恐怖に染まった。ああ、そんなに怯えなくてもいいのに。痛みを感じるのは僕の牙がその白い肉を貫く一瞬だけなのだから。
首筋に顔を埋めてすんと鼻を鳴らすと、僕に押さえつけられた人間はガタガタと震えて身を捩る。そんな彼女の反応など気にも留めずに首筋を舐め上げれば彼女の口から嗚咽が漏れた。

「…うそつき」

それは悲痛で、聞き逃してしまいそうなほど小さな声だった。だけどその声にしっかりと反応した埋もれていた理性が暴走していた本能を抑え付けたときには、もう全てが遅かった。

「うそつき。生贄じゃないって、私のこと食べたりしないって、言ったくせに…!」
「、かえで…」
「いや、やだ…触らないで!」

泣きじゃくるかえでは覆いかぶさっていた僕を思い切り突き飛ばして部屋を飛び出した。追いかけなければいけないのに。縋りついてでも謝らなければいけないのに。僕の足は根が生えたようにその場に突っ立ったまま言うことを聞かなかった。

title/秋桜


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