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オレが「のどかわいたなあ」なんてわざとらしく言っても無反応な二宮さんは、咲菜ちゃんが「のどがかわいたのでジュース買ってきます」と言えば無言で小銭を押し付ける。鳩原が「授業で分からないところがあったので教えてください」と言っても自分で考えろと突っ返すのに、「数学教えてくださいー!」と咲菜ちゃんが泣きつけば咲菜ちゃんが理解できるまで何度も噛み砕いて教えてやっていた。そんな二宮さんを見るたびにいつも思う。
二宮さん、咲菜ちゃんのこと可愛がりすぎじゃない?





現に潜むまぼろし





「二宮さん、英語で少し分からないところがあったんですが…」

辻ちゃんが遠慮がちにそう声を掛けた。レポートを書いていた二宮さんはキーボードを打つ手を止めて辻ちゃんに視線を向けたけど、その顔にははっきりと苛立ちが浮かんでいる。辻ちゃんはびくりと肩を揺らすと「も、もう少し自分で考えてみます…」と呟いて逃げるように戻ってきた。

「ドンマイ辻ちゃん。オレで良ければ教えてあげようか?」
「お願いします……」

あーあ、辻ちゃん可哀想に。普段から二宮さんの機嫌が良いときくらいしか勉強は教えてもらえないけど、今日はレポートが溜まっているから滅茶苦茶機嫌が悪い。それもこれも太刀川さんが「任務で休んだ分の授業はレポートを出してくれれば出席扱いにするから」という教授の伝言を二宮さんに伝えるのをすっかり忘れていたせいなんだけど。テスト前で結構切羽詰まっているオレたちからしてみればとんだ迷惑な話だ。二宮さんがダメなら誰に聞けと。

「そういえば咲菜ちゃんがさっき、化学で分からないところがあるから二宮さんに聞きに行くって言ってたんだけど…」
「さすがの咲菜ちゃんでも今日はやめた方がよくない?二宮さん相当不機嫌じゃん」
「だよね…。ラインしとこうかな」

鳩原がそう言ってテーブルの上に置きっぱなしになっていたケータイを手に取ったのと、作戦室のドアが開いたのはほぼ同時だった。

「失礼しまーす。二宮さん、ちょっと化学を…」
「わ、咲菜ちゃ…!ストップ!」
「え?」

噂をすれば何とやら。鳩原が咲菜ちゃんに待ったを掛けて慌てて駆け寄って行った。咲菜ちゃんの耳元でぼそぼそと囁かれる内容までは聞こえなかったけど、十中八九「今日は二宮さんの機嫌があんまり良くないからやめた方がいい」と忠告しているんだろう。咲菜ちゃんは困ったように眉を下げたけど、鳩原に促されるまま作戦室から出て行こうとした。

「…何だ咲菜、化学がどうのこうの言ってなかったか」

それに待ったを掛けたのはまさかの二宮さんだった。えええ、と顔を歪めるオレたちに構うことなくレポートを書くために広げていた教科書やらプリントやらをテーブルの隅に押しやると、二宮さんはきょとんとした様子の咲菜ちゃんを呼び寄せた。鳩原に聞いた話と違うからか、咲菜ちゃんは困惑したように何度も鳩原を振り返りつつ二宮さんの元に歩いて行った。

「……機嫌、悪かったですよね?」
「滅茶苦茶悪かったと思うんだけど…」

辻ちゃんと鳩原が顔を引き攣らせながら二宮さんを見つめた。特に先程あんな態度を取られた辻ちゃんは二宮さんに向かって物言いたげな視線を向けていたけど、咲菜ちゃんしか眼中にない二宮さんが気付くはずもない。

「あ、なるほど。分かりました、ありがとうございます」
「他はいいのか?」
「たぶん大丈夫だと思います…。えっと、レポートの邪魔をしてすみませんでした」

咲菜ちゃんが申し訳なさそうに頭を下げる。二宮さんはいつものように咲菜ちゃんの頭を撫でると、分からないところがあればいつでも聞きに来いと不機嫌さを感じさせない声色で言った。オレたちとの扱いの差にげんなりしながら二人の様子を見ていると、機嫌が悪いと聞いていたにも関わらず普段通りの二宮さんに咲菜ちゃんも緊張が解けたらしい。嬉しそうに笑顔を浮かべた咲菜ちゃんは「二宮さんもレポート頑張ってください!」と弾むように言ってオレたちの元に寄ってきた。それから首を傾げて「機嫌、そんなに悪くなかったよ?」と小声で告げる。うんそれ、絶対咲菜ちゃんに対してだけだから。なんて言えるはずもなく、ニコニコと笑いながら作戦室から出て行く咲菜ちゃんを見送った。

「二宮さーん、数学教えてもらってもいいですか?」
「は?」

咲菜ちゃんが居なくなった途端、二宮さんは機嫌どころか態度まで悪くなった。ほらね、なんて誰に聞かせるでもなく一人ごちながら、「やっぱりいいです」と肩を竦めた。

title/すてき


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